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[インタビュー]

「失敗を恐れ、予定調和で動く企業に未来はない」─米ガートナー

米ガートナー リサーチ部門 バイスプレジデント兼最上級アナリスト フランシス・カラモウジ氏

2016年7月15日(金)川上 潤司(IT Leaders編集部)

「最前線の動きを様子見して、後追いする戦略はもはや企業ITの世界では通用しない」─こう主張するのは米ガートナーのフランシス・カラモウジ氏(リサーチ部門 バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト)だ。デジタルビジネス時代を見据えて、変革を起こせる企業と、そうではない企業の分岐点はどこにあるのかを聞いた。

 デジタルテクノロジーの進化と普及が、ビジネスのあり方や、企業間競争の構図に多大な影響を与えている。これまでなかった事業モデルで頭角を現す新顔も続々と登場しており、こうした文脈でしばしば取り上げられるUberやAirbnbの話は、もはや食傷気味という向きもあるだろう。

米ガートナー リサーチ部門 バイスプレジデント 兼 最上級アナリストのフランシス・カラモウジ(Frances Karamouzis)氏

 ともかく、チャンスをものにしようと虎視眈々と準備を進めている企業がひしめいているのは事実だ。果敢なチャレンジはスタートアップ企業の専売特許ではなく、既存大手も手をこまぬくことなく行動を起こさなければならない。GEもまたよく話題に上るが、ここにきて自社ビジネスを再設計する動きは顕著である。今日はこうして取材を受けていることもあるので、メディアを手掛けている企業の興味深い取り組みを1つ例に挙げてみよう。

 記事作成にスマートマシンを活用しようとしているAP通信の話だ。さまざまな分野のニュースをカバーする同社において、大手企業の決算に関する報道もまた重要な業務である。それを専門に担うリポーターを数多く抱え、四半期ごとに発表されるリリース資料などを元にサマリー記事を執筆していたのが従来の姿だ。

 AP通信はここに、Automated Insight社が開発したWordsmithという“ロボット記者”を導入し実証実験を重ねた。技術的な詳細はさておき、短時間のうちに一定品質の記事を仕上げられる実力があることを確信した同社は、当初30銘柄に絞っていたものを300以上に拡大。何千本という記事を実際の配信に活用し始めた。記事本数の充実は、顧客である報道機関などの満足度を高め、結果として収益アップに大きく寄与することになった。

 それでリポーター削減を図ったかというとそうではない。元々、彼ら彼女らにしても、定型的で反復的な仕事は刺激的なものではなかった。そうした仕事をテクノロジーに委ねることで、注目企業の経営状況の深層をえぐるような企画に知恵を絞り、AP通信のコンテンツ力を底上げする体制を整えることに狙いがあったのだ。今では、スポーツの試合結果のニュースなどにも、Wordsmithの応用を始めている。

 この取り組みに深く関わった同社のCIOは、Automated Insightの将来性を高く評価し、投資することを取締役会に提案。実際に投資が行われた。その後、ビスタエクイティパートナーズ(Vista Equity Partners)が買収し、今なお、その独自の技術力において市場から高い注目を集めている。

「リープフロッグ現象」が巻き起こる

 AP社の取り組みは、UberやAirbnbのような“派手さ”に乏しく映るかもしれないが、従来ながらの企業が「バイモーダル」で、自らのビジネスを変革しようとしている好例である。バイモーダルとは、デジタル時代に対峙する企業が実践すべき流儀としてガートナーが提唱している考え方だ。

 Run the Bisiness、すなわち、すでにある業務をつつがなく回すための取り組みやシステムが「モード1」。対して、革新的ビジネスを展開する取り組みやシステムが「モード2」。Grow the Business、そしてTransform the Businessへとつながるものであり、デジタルテクノロジーを巧みに活用するアイデアや実装力が鍵となる。これら対局的な2つのモードを組織内に同居させ、メリハリを効かせながら、それぞれの実効性を究める。それがバイモーダルだ。

 対局的というと、各モードが左右両端に位置するイメージを抱くかもしれないが、上下にある関係と理解してほしい。家に例えるなら、基礎部分に相当するのがモード1だ。これがしっかりしていないと“上物(うわもの)”のモード2は揺らいでしまう。目的が違うようでいて、実際には密なる連携が欠かせない。だからこそバイモーダルでやっていかなければならない。

 ITにかかわる予算にも人材にも限りがあるのは、どの企業にも共通する悩みだ。モード1においては、標準化やシンプル化に徹し、アウトソーサーなどの外部の力を最大限に活用する。そこで捻出した余力をモード2に注ぎ込む。至って基本的なこととはいえ、本当にできているケースは決して多くない。競争力につながらないにも関わらず昔ながらのやり方に固執し、システムの複雑化や運用負荷の増大を招いていないだろうか。目の前の問題を先送りにする習慣を断ち切らなければ、未来はない。

 昨今のデジタルテクノロジーは地球規模で一気に普及・浸透する傾向が強まっている。これまでコンピュータを何年使ってきたかという経緯や実績など関係なく、ある意味では、どの企業にも機会均等だ。最新テクノロジーを貪欲かつ巧みに取り入れることで、これまでのビハインドを一気に取り戻せるばかりか、グローバル競争のトップ集団に踊り出ることだって夢ではない。確立されたテクノロジーを順を追って適用するのではなく、一足飛びに正にこれから旬を迎えるものを手にして躍進する“リープフロッグ”現象がそこかしこに巻き起こるだろう。

 ある時までは、最前線の動きを様子見して、後追いすることでも何とかなった。私のリサーチ分野の1つであるソーシング戦略においては、欧米企業がオフショアに走ったのは1999年頃であり、その後、日本企業に定着するには10年近くかかった。これは極端な例にしても、そんな悠長な余裕がなくなったのは確かだ。ことにデジタルビジネス戦略では先行者が圧倒的に有利で、2番手以降を大きく引き離すという現実を常に頭に入れておかなければならない。

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