CIOコンピタンス CIOコンピタンス記事一覧へ

[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

古くて常に新しいテーマ「グローバルITマネジメント」を考える

KPMGコンサルティング パートナー 梶浦英亮氏

2016年8月10日(水)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、KPMGコンサルティング パートナーの梶浦英亮氏のオピニオンです。

 日本企業の海外展開は、1970年代半ばの松下電器産業(現パナソニック)、ソニー、ホンダ技研工業、東レ、味の素などの製造業を中心とした企業が、多国籍企業として世界市場へ進出したことから始まります。これらの企業は販売・マーケティングから生産・調達に至る国際化を目指しました。

 1990年から始まった製造業を中心とした海外展開(生産工程の海外流出)は当初、製造拠点の海外展開、および製造拠点と日本国内を結ぶ物流網の多国籍化に限定されました。しかし系列の中小企業も追随し、海外進出の裾野は一気に広がりました。さらに2000年以降になると中華圏や東南アジアの市場としての魅力が向上。サービス業・小売業など、製造業に比べて海外展開に消極的だった業態でも、海外展開するケースが相次いでいることは周知の通りです。

 こうした海外展開において一貫して企業を悩ませてきたことの1つが、自社組織をどのようにマネジメントするかです。現地拠点に任せる、地域統括会社を設置する、日本の本社が直接行うなど、多くの試行錯誤が続けられました。弊社のようなコンサルティング会社に寄せられる相談案件の中でも大きなテーマであり続けていますので、ここで考察してみましょう。

 ここ5年ほど、改めて設置するケースが増えているのが地域統括会社です。地域統括会社は、1960年代に米国発の多国籍企業が出現して以来の古くからあるやり方です。しかし本社と子会社の中間組織として、地域統括会社がどの機能を担うのかに対して、バックオフィス業務の集約化以上のメリットが見いだせなかったために、一時的に衰退した経緯があります。

 それが改めて増えているのは、アジアなど各地域の重要性が増す中で現地法人に委ねるだけではマネジメントが行き届かない、本社直轄の管理では国ごとの事情を把握するのが困難である、人材やその他資源の地域グローバル化が進んだことにより地域を一括して捉える必要性がある、といった背景があります。

 グローバルでどう組織をマネジメントするかというテーマは、このように時代ごとの政治や経済環境、社会や文化に大きく影響を受け、時々で変わるように思えます。しかし本質的には「本社」「地域統括」「子会社」でどのように機能を配置するかという問題に帰着します。つまり「集中化と分散化」「標準化と現地適応化」「単一化と多様化」という課題において、製品戦略、営業・マーケティング戦略、調達、R&D、バックオフィス業務、資産の保有という各業務をどう設計していくかという問題になるわけです。

 多くの日本企業が抱えている課題は、これらの設計を行うこと、具体的には「本社」「地域統括」「子会社」において、どのような情報を収集して整理するのか、それをどう経営判断に活かすのかというノウハウが圧倒的に不足していることであるとも言えます。

 ここでCIO賢人倶楽部の主題テーマである情報システムにおいて、どのようにアプローチすればいいのかを考えてみましょう。まず考慮すべき点は自社で保有する情報システムの特徴(内部環境)です。その1つめは、自社の情報システムはどの程度の地域固有性を持つのかを理解することです。

 一部の多国籍企業を除けば、日系企業の情報システムは、これまで生産工程のシステムが多く、これらは、どの国・地域に展開しても類似した機能構成で十分でした。しかし販売やマーケティングなどの領域においては、各国・地域ごとのビジネスプロセスそのものが大きく違い、単一の業務プロセス(機能)で実現することは無理があることが多くなります。

 2つめは、各国・地域毎に異なるビジネスプロセスを実現する場合、どこまで統一する必要があるかという点の理解です。例えば、東南アジアでは消費者の移動が頻繁で、地域内において特定のIDで顧客を認識したいという要望があります。このような場合は情報システムも統一化のメリットは明確です。ただ、それ以外の場合も無条件で統一化という方針は、コスト面を超えるメリットが得られない場合も多くあり、注意が必要です。

 次に考慮すべき点は情報システムの外部環境です。その1つめは法律を含めた各種規制です。各国・地域ごとに様々な規制がありますから、例えば中国(本土)においては現地の情報システムは現地独自で構築するのが現実的です。それ以外の国・地域においても様々な制約があり、自社の方針とは別に各国の制約を加味する必要があります。

 2つめは調達です。各国・地域毎の特徴にあわせた情報システムを構築する場合、現地で調達できる各種資源を効率的に取り入れるためには、調達の窓口や権限を現地に配置することが効果的です。このように自社の情報システムの内部環境と外部環境を理解した上で、情報システムをどのように配置していくのかを決定していきます。

 その際には、マネジメントの責任をどのように配置するのか、またそれを実現するためにどのように人材を調達するのかを併せて設計することが必要です。いずれにせよ、このように問題を分解していくことで、「何が何でもグローバル統一」「現地のことは現地に任せる」という両極の間にある答が見えてくるはずです。本コラムが皆様の参考になれば幸いです。

参考文献:『グローバル経営要論』、同文館出版、2016年

KPMGコンサルティング
パートナー
梶浦英亮氏

※CIO賢人倶楽部が2016年8月5日に掲載した内容を転載しています。

CIO賢人倶楽部について

大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。

バックナンバー
オピニオン from CIO賢人倶楽部一覧へ
関連キーワード

製造 / グローバル / KPMG / コンサルティング

関連記事

トピックス

[Sponsored]

古くて常に新しいテーマ「グローバルITマネジメント」を考える「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、KPMGコンサルティング パートナーの梶浦英亮氏のオピニオンです。

PAGE TOP