働き方改革を進めるにあたっての主たる目的の1つが「生産性の向上」。それを実現するうえで有望視されている技術が「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」だ。ソフトウェア・ロボットによって、オフィスワークを自動化する技術だが、本稿ではこの技術が注目を集めている理由と特徴を解説しよう。

単純作業を減らして価値の高い仕事を増やす

  ICT(情報通信技術)の加速度的な進化によって、企業の眼前には新たなビジネスの可能性が急速に拡大している。それを追い風に巧妙な“デジタル戦略”を打って出た企業が厳しい市場競争を制することになる──。企業にデジタル改革を迫るこうした指摘が間々なされるが、とかく外に向けた「攻めの領域」ばかりがクローズアップされるのに、いささか違和感を感じるのは私だけではないだろう。

  もちろん、ICTを活用した斬新な事業モデルを検討するのは大事なことだ。顧客向けに気の利いたスマホアプリを展開して関係強化を図ったり、IoTを活用して効果的な予防保守を実現したりと、様々な取り組みが始まっているのは多くが知るところ。しかし、どんな新しい施策を講じるにも、そこにはほぼ確実に「社内の業務オペレーションが付いて回る」はずだ。ここが旧態依然としたままでは、ボトルネックになるばかり。せっかくのデジタル戦略も画餅に帰す。

 いや、攻めのビジネスを語る前に、現状の労働生産性の低迷を問題視している企業も少なくないはずだ。残業に次ぐ残業で従業員は疲弊し、企業にも人件費負担が重くのし掛かっている。かといって、ビジネスを回して行くには、一定量の業務を日々こなしていかなければならず、いかんともしがたい。どこから手を付けるべきか、といった悩みだ。

 昨今、働き方改革(ワークスタイルの変革)が声高に叫ばれる背景には、以上に触れてきたような事情が深く絡んでいると思われる。従業員一人ひとりの業務内容をつぶさに見つめ直すと、決して本質的ではない作業に多くの労力を割いている(割かざるを得ない)という実態に行き着く。「何でこんなことに手間ひまかけなければならないのだろう?」と思える雑務を徹底的にそぎ落とし、生産性を少しでも高める努力が欠かせない。それが、従業員にとっての労働時間の削減とワークライフバランスの実現をもたらす。業務の現場に余力とモチベーションが生まれれば、“攻めのビジネス”を含めてメリハリの効いた施策がうまく回るようになり、結果、企業に収益増加をもたらすことが期待できる。

 つまり、会社と社員の双方にメリットのある働き方改革を行うには、社員1人あたりの仕事量を減らしつつ、価値の高い仕事の割合を増やす必要がある。言い換えれば「価値の低い仕事を減らす」ようにしなければいけないのだ。この「価値の低い仕事を減らす」ために、注目を集めているのが「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」という技術である。業務の中には「時間と手間はかかるが、内容は同じ作業の繰り返し」というものがある。例えば、メールで届いた注文を受注管理システムに入力するといった類の仕事がある。内容は単純だが、できるだけ遅延なく処理したい仕事でもある。そのため、日中はこうした業務に追われて、頭を使う仕事は後回しになってしまうという人も多いと聞く。

 RPAを導入すれば、こうした定型作業を肩代わりしてくれる。工場における産業用ロボットのオフィス版とも言えるのがRPAだ。しかも、RPAは人間のように入力ミスをすることもないし、昼に休憩を取ることもなければ、夜間でも働いてくれる。道具も持たせずに「生産性を上げろ」というのは簡単だが、それでは結果は伴わない。「単純作業はRPAにまかせて、人間は頭を使う仕事に専念する」というのが、現在有望視されている生産性向上策の一つなのだ。 

RPAの特徴はアドオンしやすさ

 もっとも、定型作業の自動化は今に始まったことではない。例えば、数値を集計してグラフを作り、レポートを作成するといったように、作業がExcel内で完結するのであれば、マクロを組めば済む話だ。実際、そのためにExcelマクロを習得したという人もおられるだろう。

 問題は前段で紹介した例のように、メーラーや業務システム、あるいはオフィスソフトなど、複数のアプリケーションを切り替えながら行う作業である。RPAは、複数のアプリケーションを連携させる必要がある作業も自動化できる。しかも、既存のアプリケーションに手を加えることなく連携させられる。つまり、既存環境にアドオンしやすいことがRPAの大きな特徴だ。

 技術的な可能/不可能の話をすれば、オフィスで発生する大抵の定型作業は、これまでの技術でも自動化することができた。しかし、そのためには既存のアプリケーションに手を加えて、連携用のAPIを追加し、そのAPIを使ってシステムを組む必要がある。定型業務ごとに専用のシステムを開発するのはコスト的に見合わないし、特定の業務フローを前提としたシステムは、フローの変更にも対応できない。そのため、これまでは人手で処理を行っていたわけだ。

 RPAは、既存環境をそのまま使えるようにし、作業を自動化するためのルールエンジンに汎用性を持たせることで、コストと柔軟性の問題を解消し、業務フローの自動化を手の届くところまで引き下げた。もちろん、発生頻度の低い作業を自動化してもあまり省力化にはつながらない。RPAの導入に踏み切るかどうかは、費用対効果を見極めて判断する必要がある。

 このような事情から、現在RPA市場では、導入支援サービスを提供するコンサルティング会社が中心的なプレイヤーになっている。導入支援サービスには、ヒアリングなどによる現在の業務内容の把握と分析、RPAを適用可能な業務の見極めとRPA製品の選定、その導入効果の試算といった内容が含まれており、導入企業の負担を軽減してくれる。

RPAでどこまで自動化できるか

 RPAは登場したばかりの技術であり、自動化できる範囲も徐々に広がりつつある。例えば、文字認識技術(OCR)を組み合わせれば、ファクスで届いた注文も処理させることができる。もちろん、誤認識のおそれがある場合に人間に確認を求めるといったプロセスを追加する必要があるだろう。

 では、電話でかかってきた注文はどうか。寡聞にして筆者はこれを完璧にこなせる製品を知らないが、研究・開発は活発に行われている。現在、スマートフォンやPCに搭載されているパーソナル・アシスタント(アップルのSiriやマイクロソフトのCortanaなど)の出来を見れば、早晩実現されることは間違いない。このように、RPAの適用範囲の拡大には、AI技術の進化が密接に関わっている。おそらく、ルール化できる判断は、RPAで自動化することができるようになるはずだ。

 AI技術が発達すると、RPAが人間の職を奪う可能性もあるわけだが、そのときはその時点で人間しかできないこと、例えば新しいビジネスモデルを考えるといったことを人間は仕事にするのだろう。