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ピッキング作業をITで省力化=人員削減ではないという取り組み─エフピコ

「攻めのIT経営銘柄 2016」選定企業のIT戦略<18>

2017年3月14日(火)佃 均(ITジャーナリスト)

広島県福山市に本社を置くエフピコが「攻めのIT経営銘柄」に選定されたのは、2015年・2016年と2年連続。2015年は最適な配送ルートと納品時間を管理・実現する「配車計画システム」「配送状況確認システム」、2016年はピッキング作業を効率化する「音声ピッキングシステム」が選定の対象となった。執行役員・情報システム部ジェネラルマネージャーの井上隆仁(たかみ)氏は「当社のITはコストを削減することが主眼ではありません」と言う。

1万アイテム以上、ピーク時は2億枚

 エフピコが設立されたのは1962年。「福山パール紙工」の社名で、発泡ポリスチレンシート(PSP)による食品容器を生産したのがスタートとなった。ちなみに現社名「エフピコ」のFは福山、Pは「パール」、COはCorporationに因んでいる。

「当社のITはコスト削減より人手不足への対応と新しい働き方の手段」と井上隆仁氏は言う

 「1960年代の初頭は、スーパーストアが全国に広がった時期です。それまでは魚屋さん、お肉屋さんは対面販売で、新聞紙や経木で包んで渡していました。それがビニールに代わり、食品トレーに入れて店頭に並べる売り方に変わっていきました。当社の歩みはそれと一致しています」

 一般家庭に電化製品が入ってきたのを実体験として持っている筆者にとっては、「そうでしたよねぇ~」と頷きたくなる。スーパーストアから食品トレーと包装ラップがワンセットで一般家庭に入ってきた。そこに電子レンジが加わって弁当や惣菜のありようが変わった。

スーパーやコンビニの店頭にさまざまな食品トレーが並ぶのが「当たり前」の時代だ(提供:エフピコ)

 「食品トレーと一口に言っても、中身がごちゃごちゃにならない、中の液体が漏れない、熱で歪まない、フタが油や酸で溶けないといったように、色々な機能・性能が求められます。最近はラップを巻かない嵌合(かんごう)蓋タイプの比率が増えています。扱っているのはザッと1万アイテム以上ですが、季節によってそれぞれ量が違います」

 容器の種類が1万アイテム以上というのは驚きだが、「例えばピークの12月ですと出荷量は2億枚」と聞いてまた驚いた。それだけの製品を正確に納品するのは、どれほど大変なことか。

2010年から取り組んだ物流改革

「攻めのIT経営銘柄2016」選定事由であるピッキング作業における音声ピッキングシステムは、当初の導入コストが約1億円、それによる作業効率改善は全工程の20%、作業員1人の1時間当たりピッキング量は300本(1本は食品トレーを重ねて梱包したもの)から700本に向上、納品ミスなどのクレームは、2013年の2.9ppm(parts per million:1ppmは百万分の1)から2016年上期には0.7ppmに減少した。

 筆者は専門外なので伝聞だが、物流倉庫業の一般論では、出庫指示書に依拠するアナログ・ピッキング(ペーパーリスト・ピッキング)では300ppmが限界という。同社の2013年2.9ppmというのも驚異的な数値だが、0.7ppmというのは、ほとんどミスがなくなったことを意味している。

 「それはですね、2010年から物流のプロセス改善に取り組んで来たからです」と井上氏はいう。「2010年当時は物流コストの抑制が主目的でした。削減じゃなく、抑制なのがポイント」

 どういうことかというと、2010年ごろ、同社の物流は25%ほどが倉庫・人員のアウトソーシングで行われていた。食品トレーは軽いけれどもかさばるので、出荷量が増えれば増えるほど倉庫スペースが必要になってくる。売り上げが増えるとアウトソーシング比率が増える。コストアップの要因になっていた。

 子会社のエフピコ物流の社長にセブン-イレブン・ジャパンで敏腕をふるった小泉哲(さとし)氏を招聘し、改革が始まった。まず自前の倉庫を増設し、アウトソーシング率を0に近づけた。それに伴って倉庫業務に携わる正社員の作業者を200人から400人に倍増した。

 合わせて実施したのがトラック配送システムのリニューアルだ。納品先は食品工場・問屋やスーパーストアなので、ルート配送が基本。それまではパッケージ型のシステムを利用していたが、ルート確定に時間がかかり過ぎた。そこで現場の声を反映したシステムをスクラッチで作ることにした。「ルートプランナー」がそれだ。

積込みの前から納品までITを活用

 これに続いて、配送状況を確認する「RD(Realtime Delivery)チェックシステム」を構築した。ルートプランナーから出力した配送日報に納品先ごとにバーコードが印刷される。納品先に到着・出発したとき、ドライバーが携帯電話やスマートフォンで読み取ってサーバーに送信する。到着時刻・出発時刻がシステムに自動登録される仕組みだ。これにより、配送状況がリアルタイムに更新され、その情報はエフピコグループ全体で共有している。

エフピコグループのエフピコ物流(株)が運営する配送管理システムの概要(提供:エフピコ)
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 「納品先からの問い合わせにも対応できますし、ドライバーさんの業務に無理がないかも把握できます。実態に基づいた労務管理ができるので、現在は傭車先の運送会社さんも喜んでいるようです」

●Next:最も人手がかかる“2次ピッキング”工程の問題をどう解決したか

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