[木内里美の是正勧告]

ロボット進化の凄さとクラウドファンディングの顛末

2017年6月29日(木)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

安定した飛行制御や高精細な動画撮影など、マルチロータ型のドローンの進化には、目を見張るものがある。ビジネスでの活用を視野に入れた実証実験も枚挙に暇がない。多くのテクノロジー企業がこの市場に参入し、クラウドファンディングによる挑戦もまた盛んである。今回は、筆者がプレオーダーしたエピソードも交えつつ、ドローンを巡る活況な動きを通して感じていることを記してみる。

 ロボットの進化をYouTubeで見ていると、進化の速さに驚く。ロボットと言っても産業用ロボットとかヒューマノイドロボットとかたくさんのカテゴリーがあるが、筆者が注目したのはマルチロータ型のドローンである。

 Kmel Roboticsが開発した4ロータ(クアッドロータ)の小型飛行ロボットがある。2012年の2月にペンシルバニア大学のラボで10数機が自在に編隊飛行しているビデオをYouTubeで見たことが強く印象に残っている。筆者だけでなく、800万回も再生されたほど注目を集めた。Kmel Roboticsは2015年にクアルコムテクノロジーズに買収されている。

 その後も進化は急ピッチで進む。2013年には、驚異的なバランス制御が可能になるとか、複数機が相互に連携する自律飛行ができるようになり、2015年にはGPSを搭載せず、カメラとセンサーとレーザースキャナーでリアルタイム3次元測量を行いながら高速で自律飛行するロボットが開発されている。

 2016年にはドミノ・ピザ(Domino’s Pizza)が一部地域で配達サービスを開始、商業利用の道を開いた。アマゾン・ドットコムも2016年にPrime Airというクアッドロータ型のドローンで試験配送に成功している。こうした進化を見ていると、配送や防災、測量、事故処理など様々なシーンでドローン利用がさらに広がるのは確実だと思う。

3400万ドルのクラウドファンディングの顛末

 2015年5月、魅力的で買いたいと思うドローンが登場した。アメリカのスタートアップであるLily Robotics社が自動追尾型の空撮ドローン、「Lily Camera」を開発するクラウドファンディングを開始。プレオーダーを499ドルで募集していたのだ。Lily Cameraは自動的に起動し、ホバリングし、手に付けたコントローラーを自動で追尾しながら20分間の動画撮影ができる。

 しかも防水なので水中から飛び上がり、カヌーの川下りを撮影するプロモーションビデオが話題を呼んだ。製品出荷は2016年年2月だという。筆者は躊躇なくプレオーダーした。プレオーダー価格の安さもあったが、仮に計画が頓挫してもスタートアップへの応援の気持ちもあった。

 定期的に開発の進捗を伝えるメールは届くが、しかし、完成はずれ込んだ。2016年10月には、1年遅れの「2017年の出荷に向けて量産体制や販売体制を準備中」というメールが届く。その後、連絡がなくなり、2017年1月12日に突然、「The end of our journey」というタイトルのメールが届いた。Lily社の事業停止を知らせるものである。クラウドファンディングで6万オーダー、3400万ドルも資金調達し、工期1年遅れでも完成できなかった理由はよく分からない。サンフランシスコ地方検事局は消費者を欺いたとして翌日Lily社を告発した。

 その経過は2015年11月に開発が頓挫して破産した英国企業Torquing Groupが開発していた小型ドローン「ZANO」とよく似ている。クラウドファンディング頼りのスタートアップは実にドラマチックだ。

それでもスタートアップを応援し続けたい

 開発が遅れていた1年間の間にドローンの開発競争も激しくなり、様々な製品が生まれてきている。中でも中国製のDobbyは評価が高い。Dobbyを開発したのは中国深圳(シンセン)に本社を置く2007年創業のZERO TECHである。やはりクラウドファンディングでDobbyを開発した。

 バッテリー搭載でも199gと軽量で、改正航空法適用外のドローンである。iPhone7並みの1300画素で4K映像の空撮ができる。10分未満と短い航続時間や防水でない点はLily Cameraに及ばないが、400ドルで購入ができ操作性が極めて良い。Lily Cameraがもたついている間に、Dobbyは魅力的な小型ドローンを作り上げた。産業用ドローンで培った技術の差が現れたのかもしれない。

 カリフォルニア大学バークレー校でLilyを創業した24歳の若者の夢は完成品を見ることなく潰えた。いずれ検事局の調べで真相が明らかにされるだろうが、最初から詐欺まがいの意図があったとは思えない。情報システム開発でも同じことだが、開発工程が大幅に遅れるようなプロジェクトで最後に成功を見るのは稀である。

 それに、チャレンジに失敗はつきものだ。コンセプト、仕様、資金調達、技術力、リソース、マネジメント、生産体制、販売体制、市場変化、マーケティング、様々な要素やタイミングが失敗にも成功にも影響する。失敗を恐れていたら新しいことはできない。失敗したらその要因を排除して再チャレンジすればいい。新しいコトやモノの多くはスタートアップから生まれてくる。日本からもチャレンジするスタートアップがどんどん生まれてほしい。クラウドファンディングで応援したい。

バックナンバー
木内里美の是正勧告一覧へ
関連キーワード

ロボティクス / ドローン / クラウドファンディング / Qualcomm / Amazon / ベンチャー / Domino's Pizza

関連記事

トピックス

[Sponsored]

ロボット進化の凄さとクラウドファンディングの顛末安定した飛行制御や高精細な動画撮影など、マルチロータ型のドローンの進化には、目を見張るものがある。ビジネスでの活用を視野に入れた実証実験も枚挙に暇がない。多くのテクノロジー企業がこの市場に参入し、クラウドファンディングによる挑戦もまた盛んである。今回は、筆者がプレオーダーしたエピソードも交えつつ、ドローンを巡る活況な動きを通して感じていることを記してみる。

PAGE TOP