[木内里美の是正勧告]

IT紛争が無くならない根源にある問題

2017年8月16日(水)木内 里美

ソフトウェア開発におけるトラブル、いわゆる“IT紛争”は、なかなか表沙汰にはならないものの、その数は少なくない。そもそもなぜソフトウェア開発に伴う揉め事が多いのだろうか?そして裁判にまで至るケースがなくならないのだろうか? ほとんどの場合、発注者側と受注者側のいずれかが、あるいは双方が主体性と責任に欠け、やるべきことをやっていないということに行き当たる。

 筆者のところに最近、いわゆる”IT紛争”に関わる相談事が幾つか持ち込まれた。請負によるソフトウェア開発やパッケージの導入に伴うソフトウェア開発のトラブルである。時々、裁判という形で表沙汰になって注目されることがあるが、公表されないIT紛争は多い。裁判にはならないまでも、係争予備軍や和解解決を模索中の案件だ。

 相談事は発注者側からとは限らない。契約金額が支払われないとか、発注者側から契約不履行のため裁判を辞さないとの通知を受けたなどの受注者側からのケースもある。発注者側からの相談事は、納品がされないとか品質が悪くて受け取れないので契約を解除したいなどのケースである。専門誌の日経コンピュータが永年書き続けている「動かないコンピュータ」では様々なITシステムやソフトウェアのトラブルが報告される。その中には関係者間で利害が顕著になり紛争や裁判になった事案もある。それらは氷山の一角であり、水面下の紛争事は後を絶たないのだ。

 そんな実態を鑑みて、弁護士が中心になって活動している裁判外紛争解決(ADR)機関に、一般財団法人ソフトウェア情報センター・ソフトウェア紛争解決センターがある。最近そこから仲裁や中立評価をする役割人の登録を依頼された。当事者や法曹界の話からもソフトウェアに関わるトラブルが増えていることを感じる。そもそもなぜソフトウェア開発に伴う揉め事が多いのだろうか?そして裁判にまで至るケースがなくならないのだろうか?

契約締結と履行に対する認識の欠如

 IT紛争のほとんどは契約締結に原因がある。そして契約履行時、契約完了時に問題が表面化する。契約書そのものが軽視され形骸化している風潮がある日本では、双方が真剣に条文を読み下して確認を取ることが少ない。契約は法務部門の仕事と勘違いし、プロジェクトマネジャーや営業担当が真剣に内容の検討をしない。契約を前提にしないから契約前着手など契約成否の段階でトラブルを起こす。

 契約段階で対象業務の範囲や互いの役割分担、要件定義や変更管理や完成基準などを曖昧にしているから、契約履行段階でトラブルが発生するのは、ある意味で自然でさえある。契約完了が近づくと、工数増加や工程遅延、完成物の品質、著作権の帰属など曖昧な契約内容が露呈し、その費用をどちらが負担するかを巡って責任のなすりつけ合いになる。

 かつて筆者は経済産業省が制作した「情報システム・モデル取引・契約書」(2007年〜2008年)の作成に関わった。「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」(2010年)の作成にも関わっている。このトラブル集は実際の係争事件の裁判判例を分析してモデル契約書に照らして欠けていた要因などを明らかにし、契約締結や契約履行におけるプロセス管理の重要性を知らしめようとしたものである。こうした資料があるにも関わらず、顕著な改善は見られないし裁判事案も絶えない。

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