[木内里美の是正勧告]

間違いだらけの「働き方改革」、まずワークを整えなければならない

2017年9月13日(水)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

 政府や経済団体がこぞって「働き方改革」を言い出したのは、「働き方改革実現会議」が設置された2016年8月頃からだ。以来、働き方改革をネタにコンサルティングやITツールを提供するビジネスも目立つようになったが、実態は間違いだらけと痛感する。どうにも我慢ができないので是正勧告で取り上げることにした。

 何よりもまず、政府が働き方改革を取り上げた背景を正しく理解しておいた方がいい。根本は少子高齢化の改善の見込みがない日本で、近い将来にやってくる労働力人口の激減に備えることだ。同時にOECD諸国の中でも低位に留まる労働生産性を向上させ、経済水準を維持したいという強い要求がある。一方、高度経済成長時代からあまり変わっていない労働環境や慣習、制度が破綻しつつあり変革を求められている。

 これらの背景と現状を認識した上で働き方改革に取り組まなければならない。ところが、一部の現象面だけを捉えて先行する手段と本来の姿は噛み合わせが極めて悪い。ダイバーシティ問題が女性の処遇だけに集中し、長時間労働からの解放だけがクローズアップされ、テレワークがワークスペースの問題としてだけ扱われるなど、噛み合っていない例は枚挙に暇がない。

 国民の労働と生活と経済活動の“三方よし”を実現するためには、断片的な方策ではなく総合デザインが必要だ。それなしに長時間労働の改善と消費経済効果だけに期待を寄せる「プレミアム・フライデー」を、経済団体が推奨しているのは噴飯ものである。その経済団体こそ変革が求められていることに気付いていないのだ。働き方改革の本質はワーク・ライフ・バランスと多様性の容認と労働生産性の改善に尽きると、筆者は考えている。

労務問題の要因の多くは企業文化と管理職にある

 非正規雇用者の増加や低賃金雇用では消費生活がまともにできず、将来に対する不安から貯蓄傾向が強くなって経済を不活発にする。働く意思があっても定職につけないためにアルバイトやフリーターの生活形態から脱却できない。こんな現実が日本の労務の日常になっている。ワーク・ライフ・バランスを語る前に、このワークを整えなければ話にならない。望ましい公益資本主義の原点に戻って、企業は規模の大小にかかわらず雇用を社会責任と考えて取り組まねばならない。

 経済的自立ができれば食育を考えた健康管理や結婚や子育てなど生活基盤が整い、メンタルを含めた健康なライフを楽しむことができるし、交友や社会活動、介護支援など個々の条件や環境に合わせてワークとバランスを取りながら生活することができるようになる。この前提を整えないままの働き方改革に意味はないだろう。

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