[知っておいて損はない気になるキーワード解説]

まだまだいける?「ウェアラブルデバイス」

2017年10月31日(火)清水 響子

マイクロサービス、RPA、デジタルツイン、AMP..。数え切れないほどの新しい思想やアーキテクチャ、技術等々に関するIT用語が、生まれては消え、またときに息を吹き返しています。メディア露出が増えれば何となくわかっているような気になって、でも実はモヤッとしていて、美味しそうな圏外なようなキーワードたちの数々を、「それってウチに影響あるんだっけ?」という視点で、分解していきたいと思います。今回は「ウェアラブルデバイス」を取り上げてみます。

【用語】ウェアラブルデバイス

 キーワードとして目新しくはないものの、にわかに注目を集めるウェアラブルデバイス。Apple Watchに代表されるスマートウォッチや眼鏡、衣服、アクセサリーなどの形状で、ひとが身につけハンズフリー操作可能な機器を指し、ウェアラブルコンピューターとほぼ同義です。

 一世を風靡したリストバンド型心拍計Fitbitや、iOSの音声認識/合成サービスSiriが動作するイヤホンAirPodsをはじめ、主にパーソナルアシスタント用途で浸透してきましたが、最近はライフログ上の健康状態に応じた保険商品や見守りといった新サービスが登場しています。

 GEやDHLが返り咲いたGoogle Glassを作業支援端末として採用、国内でも小田急シティバスが運行状況と乗務員のライフログ分析による安全性向上を図るなど、エンタープライズ市場での利活用も活況です。

 眼鏡型端末JINS MEMEによる働き方改革ソリューション「JINS MEME OFFICE BUSINESS SOLUTIONS」は経済産業省とIoT推進フォーラムが推進する「HR-Solution Contest」グランプリを獲得し、ホワイトカラーの生産性向上にも期待がかかります。

 IDCは2017年の世界ウェアラブルデバイス出荷台数を1億2,550万台、2021年には倍近い2億4,010万台に成長すると予測。Research and Marketsは市場規模を2016年約220億USドル、2023年には977億ドルへと2017年~2023年で年間平均24.1%の成長を見積もります。センサーや音声・画像認識技術の進歩により収集可能なデータ(インプット)が増え、ユーザーへのフィードバック(アウトプット)手段も音声、ARなど多様化しています。

図1:インプットデータとアウトプットの例:心拍数、呼吸波形、汗、温度などを計測し、ユーザーのストレスや疲労、物理的な姿勢、周囲の危険などを予測。デバイスまたはスマートフォン等を通じて改善策をアウトプット。見守りなど人が介在するサービスも登場しています(点線部分)
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多様なライフログに対応

 収集データはデバイスによって様々ですが、バイアスのかからないライフログを継続的に記録できる機能が飛躍的に向上しており、今後もイノベーションが期待されます。前回取り上げたMR(Mixed Reality)の主要端末であるヘッドマウントディスプレイ(HMD)はマイク、センサー、カメラを駆使して大量のデータを収集しますが、ウェアラブルデバイスは生体情報や行動情報に特化した製品が主流。小さく軽いデータを小型センサーで継続的に計測・記録し、環境変化に対する心身の反応を測ります。

 サムスン(Samsung)のGear IconXや独BragiのDashは「ワイヤレスイヤホン」ですが、イヤホン自体に音楽を記録できます。食事内容や食事中の音、咀嚼の回数と質を記録し、リアルタイムで食生活に関するアドバイスを行うなど健康にフォーカスするBitBiteのような耳かけ型デバイスも登場しています。

 メガネスーパーやJINSが参入する眼鏡型端末では瞳の動き、瞬き、体軸などを計測。FitbitやNOKIAが買収した仏Withings、Nike+ fuelbandといったリストバンド型端末は睡眠、心拍数、歩数などを記録し、消費カロリーなどを教えてくれます。血流データに基づき活動量や心拍数を記録し、前日からのストレス回復度を伝えてくれるのは指輪型のOURA Ring。主にスマートフォンのアプリと連動していて、アプリ側から運動メニューや食事内容などを記録することも可能です。

図2:アプリ連動のイメージ:コンシューマー市場ではスマートフォンアプリと連動したデバイスが主流。ウェアラブル以外の計測データや、アプリ側から入力したデータを一元管理できる製品も多い
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 導電繊維も開発が進みます。京都西陣織のミツフジは、電通、前田建設工業などから30億円を調達。埼玉大学と共同で導電繊維を使った医療実験に取り組みます。人間だけでなく、競走馬や乳牛用のウェアも実用化されています。

 ウェアラブルデバイスは常時電力を消耗するため、バッテリーの持ちも重要なポイントです。サムスンが特許申請中のWireless Charging Accessory Apparatusは、ワイヤレス充電機能付きのスマートフォンケースで、デバイス間の電力融通が可能になるとのことで製品化が待たれます。

サービス、決済やファッションも

 セコム・マイドクターウォッチはユーザーの転倒を検知ししてセコムへ自動通知するほか、日立製作所のAIにより歩行・睡眠・食事データを分析して健康管理を支援。高齢化社会に対応した見守りサービスでの活用例です。また、東京海上日動あんしん生命の運動量に応じたキャッシュバック「あるく保険」や第一生命のポイント連動健康アプリ「健康第一」など、InsTech分野でも新商品が登場しています。

 他方、おサイフケータイの決済機能をいち早く搭載したのはソニーwena wrist。GoogleもAndroid Pay対応新OS、Android Wear 2.0を投入し、日本未上陸ながらLGの腕時計に採用されています。

図3-1:ウェアラブルデバイスやサービスの例
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 ファッション市場では他方、Volvorii Timelessがスマートフォンと連動して色柄を変更できるハイヒールを投入。主流のデータ記録とは逆の発想で、情報のアウトプットに特化した製品です。例えば特定の場所・時間で一斉に同デザインの衣装を共有するなど、ものづくりやマーケティングの幅が広がりそうです。

図3-2:ウェアラブルデバイスやサービスの例
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【歴史】内蔵リュックから始まった

 "ウェアラブル・コンピューティングの父”とも称されるカナダの科学者Steve Mann氏が、1981年に作成した、コンピューター内蔵リュックが嚆矢といわれています。

 1984年に「腕コン」の愛称でセイコーが発売した「RC-1000」は世界初のリスト型コンピューターで、BASICプログラム、メモ機能、スケジュールや電卓などのアプリケーションを搭載。エプソンも同年「腕に、汎用8ビット」のコピーでリスト型コンピューター「R-20」を発売しており、商用化は日本勢がリードしていました。しかしながら、コンピューター自体が一般的ではなったインターネット前夜には爆発的ヒットとはならず、本格的なウェアラブルデバイス市場の幕を開けたのは、2013年発売のGoogle Glass、2015年発売のApple Watchといっていいでしょう。

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