[中国電脳事情]

【中国電脳事情セレクション】PC店舗がファストフードに鞍替え? 閑古鳥が鳴く中国の「電脳城」、ほか

2017年11月21日(火)足立 治男

中国メディア各社の報道から、IT関連の最新動向を紹介する「中国電脳事情」。1カ月間に報じられた主要なニュースから重要なものをピックアップしてお伝えする。

PC店舗がファストフードに鞍替え? 閑古鳥が鳴く中国の「電脳城」

―新浪総合(2017年10月6日)

 中国では主にパソコン(PC)関連機器・消耗品を扱う量販店・テナントビルを「電脳城」と呼ぶ。特に9月の新学期(中国の学校入学月は9月)になると、各地の電脳城はPCを買い求める多くの大学生で賑わっていたが、世界的な“PC離れ”の潮流から、最近は閑古鳥が鳴いているようだ。

 湖北省武漢市にある広埠屯電脳城は、武漢市でトップクラスの電脳城として知られていた。だが2017年9月末、そこに訪れてみると、1階のメインスペースにあるのは携帯ショップばかり。2階に上がると、PCショップはあるものの、人通りは極めて少なく、地下1階にもほとんど人がいない。

 同電脳城で2008年からブランドPCを販売する李氏は、「今ではほとんどのテナントが赤字だよ。撤退や廃業が相次ぎ、私もじきに廃業しようと考えている」とため息混じりに語った。2012年には1日に十数台のPCが売れたが、今では1日に2、3台売れれば上出来で、数日間1台も売れないこともザラとのことだ。

 地元の工商所(中国で商業全般を取り締まる役所)の鄭氏は、前出の電脳城とは別の、南極電脳城というPCテナントビルを長年担当してきた。「南極電脳城ではすでに多くのテナントが飲食店や日用雑貨店に入れ替わり、PC店から中国式ファストフードに商売替えしたところもあるよ」と鄭氏は話し、南極電脳城でPCやPC周辺機器を取り扱っている店は今では全体の4分の1にまで縮小していることを明かした。

 工商所長の黄氏の話では、同エリアでは、全盛期にはPC関連の販売店が5000店舗以上あり、当時は地元武漢市の消費者だけでなく、周辺5省からも消費者や業者の買い付けなどがあったという。それが現在、店舗数は控えめに言っても3分の1以下に減ったとのことだ。

 ある市場関係者は、原因の1つにインターネット通販との価格競争があると指摘する。消費者が実店舗に足を運んでも、それはスペックや価格の確認のためで、実際の購入にあたっては、割安なネット通販を利用するとのことだ。ある店舗経営者は、ネット通販を前にして、もはや実店舗に価格競争力はないと断言する。

 もう1つの要因はやはり、PC離れだ。スマートフォンやタブレットの普及により、ノートPCやデスクトップPCの市場規模が縮小しているのは世界的傾向だ。事実、PC店舗も品揃えにスマホやその周辺機器を加えたところ、売上高だけでなく、粗利益もPC関連製品を抜いたという。

 このほか特筆すべき現象として、電脳城で生き残っている携帯ショップの多くが、ユーザーエクスペリエンス(UX)の概念を取り込んだ「ユーザー体験型店舗」にシフトしている点がある。前出の工商所で蘭普電脳城という店舗を担当する職員は次のように表した。「今ではスマホすら時代遅れで、ロボット掃除機やスマートゴミ箱、ドローンなどを扱う店舗が増え、電脳城はスマート商品であふれた『智能城(スマートシティ)』となっている」。

アリババ、中国科学院が共同で量子コンピューティングクラウドサービスを運営へ

―新浪サイエンス(2017年10月11日)

 アリババグループは2017年10月11日、2017年杭州・云栖大会(Alibaba Cloud事業の定例イベント)の席上で、中国科学院(中国の科学技術最高研究機関)と共同で、量子コンピューティングクラウドサービスを運営する計画を明かした。

 アリババは2015年7月より中国科学院と共同で量子コンピューティング研究室を開設し、共同研究を続けてきた。今回の計画は、同グループが打ち出す「NASA計画」(20年間に20億人にサービスを提供する新経済体構想)の一部となる。クラウドサービスには、量子コンピューティングのシステムアーキテクチャとアルゴリズムの開発と計算の環境が含まれるという。

 著名物理学者で中国量子力学の第一人者、潘建偉院士(院士はフェローに相当。中国では中国科学院と中国工程院の2機関が院士の称号を設定しているので両院院士とも呼ぶ)は、「2018年には50の量子ビットの操作を実現したい。今後10年以内に数百の量子ビットの操作を実現させ、特定の領域における計算能力を現在の全世界の計算能力の100万倍に引き上げる」とコメントしている。

アリババ、1兆7000億円超を投じて「達磨院」なる研究機関を設立へ

―新浪サイエンス(2017年10月12日)

 上述のアリババグループ2017年杭州・云栖大会では、NASA計画の一環として、もう1つ大規模な投資の発表がなされた。アリババは、人類の科学技術の未来を探索する研究機関「達磨院(英語名:Damo)」)を設立し、今後3年間の研究資金として1000億元(約1兆7301億円)を投入するという(訳者注:達磨院は中国禅宗の開祖とされているインド人仏教僧「菩提達磨」に由来し、中国では菩提達磨が少林寺で修行をしたとの言い伝えから少林寺拳法にゆかりのある名称)。

 唐突に現れた達磨院の名称らや、掲げられた「人類科学技術の未来探索」という意義を聞かされて、首をかしげる向きも少なくなかった。そこで達磨院の初代院長に任命されたアリババグループCTO(最高技術責任者)の張建鋒氏に話を聞いた。

 張氏によると、達磨院はいくつかの要素から構成されているという。1つは研究開発フォームの提供で、ビックデータ、各産業界からのデータに依存する新たな研究機関となる。アリババは金融、EC、物流など多数の事業を営む巨大グループだが、これらすべての事業の現場が今後の研究における実験基地になるという。

 「達磨院はこれまでの研究機関と異なり、あらゆるデータの調達元の確保が前提になる。つまり、ビックデータに基づくあらゆる産業のデータを調達して処理できる能力と、その処理結果を各事業・産業に戻して実地検証するまでをセットで担う研究機関であること。これが最も重要だ」(張氏)

 アリババグループ創始者の馬云氏はかねてより「企業はそのビジネスモデルを改革しないかぎり、いつか必ず滅びる」と繰り返し述べてきた。馬氏は、創業18周年を迎えた云栖大会の前日、13名の世界トップクラスの科学者と会談している。その中には計算機科学分野のノーベル賞といわれるチューリング賞を受賞したアンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)院士や、上述の物理学者、潘建偉院士も含まれる。馬氏は科学技術への情熱や尊敬の意を述べた後、「最も科学技術に疎い人が最も科学技術に対して情熱を持っている」と自嘲してみせた。

 アリババグループの科学技術に対する研究開発費の投資はここ数年で大幅に拡大している。2017年度決算(2016年4月から2017年3月まで)に記載の研究開発費は170億元(約2941億円)であった。競合他社の実績を見ると、バイドゥ(百度)が101億5000万元、テンセント(騰訊)が118億元、JD(京東)が54億元となっている。ここからも、達磨院の3年間で1000億元という金額がいかに巨額であるかがよくわかる。

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