[イベントレポート]

日中韓3カ国のOSS活用最前線─先進性とエコシステムがビジネスを変革する

第16回 中日韓IT局長OSS会議および北東アジアOSS推進フォーラムから

2018年1月9日(火)柏崎 吉一(エクリュ 代表社員)

第16回となる日中韓3カ国のIT局長OSS会議および、北東アジアOSS推進フォーラムが、2017年11月15日・16日の2日間、中国・天津市で開催された。テーマは、「スマートソサエティとテクノロジーイノベーション」。情報通信政策に関わる3カ国の行政官による会議声明の調印式が行われたほか、学術関係者を含む各国OSS推進団体メンバーによる活動報告、各国の企業によるOSSの活用事例やコミュニティへの貢献が報告された。主要なトピックを報告する。

 北東アジアOSS推進フォーラムは、日中韓におけるオープンソースソフトウェア(OSS)の活用および貢献に関する知見の共有を目的とし、2004年に始まった。現在、3カ国のメンバーは、4つのワーキンググループ─<WG1(技術開発・評価)、WG2(人材育成)、WG3(標準化・認証研究)、WG4(適用推進)>─の下でそれぞれ活動を展開。また、優れた技術や活動の表彰、市場調査、さらに物流・スマートシティ・ソフトウェア教育などを共通テーマとする情報交換を行っている。こうした活動を総括するフォーラムを3カ国が持ち回りで開催しており、中国での開催は今回が6回目となる。

写真1 OSSの活用事例やコミュニティへの貢献に関する取り組みが報告され、会場は終始熱気を帯びていた

 イベントの舞台となった天津市は、中国政府がIT産業の振興にテコ入れする地域だ。天津市の工業・情報化委員会のYin Jihui氏は「天津市における2016年のIT産業の市場規模は約1185億元で前年同期比17.5%増だった。伸び率は中国の全国平均を2.5%上回っている。クラウドやビッグデータ関連の収益が押し上げた」と述べた。中でも「天津濱海高新技術産業開発区」と呼ばれる天津市の市街地から東方約30km、渤海湾の沿岸一帯はハイテク企業が産業クラスターを構成している。中国のセキュリティ企業、奇虎360のほか、シーメンスやマイクロソフトなどの外資系企業20数社も進出しており、企業間におけるコラボレーションの促進が期待されるという。

3カ国が共同文書に調印

 3カ国の政策担当者およびOSSを推進する各団体の代表が、ソフトウェア産業におけるOSSの位置づけと今後の展望について講演した。以下、ダイジェストでお伝えする。

 中国の情報通信政策を所管する工業和信息化部のXie Shaofeng氏(情報化およびソフトウェアサービス業を所轄する部門の幹部)は、「OSSはソフトウェア産業のエコシステムおよびスマート社会の推進における重要な役割を担っている。特に近年はAI(人工知能)における技術進展をOSSが支えている。中国もアリババ、ファーウェイ、テンセントなどの企業が様々なOSSの開発コミュニティに参画している」と近況を紹介した。

 中国OSS推進連盟 主席のLu Shan氏は、「OSSは愛好者だけのものではなく、企業にビジネスモデルの変革と利潤をもたらすものとして認識されている。今日ではもはやそれなしでは事業やサプライチェーンが成り立たないビジネスのプラットフォームである。今や、そのプラットフォーム間の競争が激化している」と述べた。

 韓国でも産業におけるOSSは重要性を増している。韓国におけるOSS市場は2016年は対前年比13.6%。2020年にかけては年平均成長率15.2%で堅調に拡大し続ける見込みという。

写真2 韓国におけるOSS市場の伸び
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 韓国 科学技術情報通信部 ソフトウェア政策局局長のRho Kyungwon氏は、「企業や電子行政ではビッグデータ処理やAIの比重が増している。中でも自動運転の研究開発や、データ分析による交通事故の削減、生活の利便性につながるデータ分野への投資が増えている」と言及。

 さらに韓国OSS推進フォーラム 会長のKo Hyunjin氏は、韓国が貢献する主要なOSSプロジェクトとしてデータ分析ツールであるApache ZeppelinとRDBMSのCUBRIDを紹介した。また韓国の行政機関である交通部がOSSのGIS(地理情報システム)を導入しており、他の自治体にも水平展開する見通しがあると述べた。「ソフトウェア分野で世界に知られるような企業が、このアジア諸国から出てほしい」と期待を寄せた。

 日本は、経済産業省の商務情報政策局 審議官 前田泰宏氏が登壇。OSS推進フォーラムが立ち上がって以来の15年間の変化と日本の政策のコンセプトを語った。

 「新しい技術を採用するにはOSSが不可欠だ。OSSでは新しい技術がコミュニティをベースに培われている。今後はOSSを企業の中核業務へ積極的に適用することが課題だ。日本政府ではConnected Industriesというコンセプトを打ち出している。ものづくり、バイオ、スマートライフなどの分野では国をまたいだ取り組みが必要になっていく。(Industory 4.0の先にある)第五次産業革命を見据えて、競争領域ではない協調領域にはオープンなプラットフォームを活用し、経営リソースを健全な産業の発展に投じることを期待したい。2018年は、ここにいる中国の学生など若い方にもぜひ日本での開催に来てほしい」と呼びかけた。

 また日本OSS推進フォーラム 理事長の吉田正敏氏(富士通)は、「エネルギー・環境など地球規模の問題に対応していくことがこれからますます重要だ。企業間のサプライチェーンも、個別に構築すれば俯瞰してみた時に重複や非効率が生じやすい。それに対してOSSが体現しているシェアリングエコノミーのようなモデルはリソースの節約につながり持続的な社会を築くための示唆に富んでいる。3カ国の連携を通じて、人類の未来のために貢献できれば望ましい」と語った。

写真3 日中韓の政府担当者。左から、経済産業省 商務情報政策局 審議官の前田泰宏氏、中国 工信部情報化・ソフトウェア服務業司司長のXie Shaofeng氏、韓国 科学技術情報通信部ソフトウェア政策局局長のRho Kyungwon氏。3氏は共同文書に調印した。
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OSSがデジタル変革に不可欠

 本イベントのテーマは「SMART SOCIETY AND TECHNOLOGY INNOVATION」であり、副題のキーワードにビッグデータ、AI、ブロックチェーン、VRというキーワードが並んだ。本稿では、多数の講演からいくつかのトピックスをダイジェストでお伝えしたい。OSSというソフトウェアそのものの先進性もさることながら、OSSを生み出している、コミュニティを軸にした“共存共栄”のエコシステムやバリューチェーンが、持続性や柔軟性をもたらすビジネスや産業化のスキームとして戦略的に導入されていることが伺えた。

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