そもそもAPI(Application Programming Interface)とは、プログラムを連携させる仕組みであり、開発者が使う用語である。では、ビジネス用語として使われる「APIエコノミー」とはなにか。APIエコノミーは、ネットワークを介して、様々な事業者が提供する機能をつなぎ合わせ、サービスを構築することが可能になったことで生まれた概念である。

すでに身近なAPIエコノミー

 APIエコノミーとはなにか。それを理解してもらうには、実例を挙げたほうが早いだろう。

 おそらく、現在最も利用者の多いAPIエコノミーの1つは、Google Mapsだろう。例えば、企業のコーポレートサイトを開いて、「企業情報」の「アクセス」ページを開く。すると、会社の所在地周辺の地図がGoogle Mapsを使って表示される。何も驚くことはない。多くの会社がしていることだ。

 このように、Google Mapsの地図情報は、自分のWebページに自由に組み込むことができる。これができるのは、Google MapsがAPIを公開しているからだ。

 API(Application Programming Interface)とは、プログラムから他のプログラムの機能を呼び出すための仕組みである。あまり意識することはないが、WebページもHTML、CSS、JavaScriptといった言語で書かれたプログラムであり、Google Mapsをページに埋め込む際には、JavaScript用のAPIを利用する。

 このほか、Google MapsのAPIは、AndroidやiOSといったスマホアプリ向けのものや、Webサービス向けのものなど、様々な種類が提供されている。

 今ではマップ機能を備えたスマホアプリは珍しくないが、アプリ開発者が自前でその機能を実装するのは非現実的である。そのため、Google Mapsやそれに類するサービスを利用して組み込むのが一般的である。一世を風靡したポケモンGOも、2017年末までGoogle Mapsを利用していた(現在はOSMという地図サービスに移行)。

 今や、Google Mapsの地図情報は、それ自身のWebサイト(https://www.google.co.jp/maps/)以外に様々なWebサイト、アプリで使われている。APIが公開されていて、開発者にとって使い勝手が良いからだ。

 ただし、すべて無料で使えるわけではない。Google Maps JavaScript APIの場合、無料で表示できるのは1日2万5,000回までで、それ以上表示するには有料プランの契約が必要である。また、有料のスマホアプリに組み込む場合なども、有料プランが必要になる。

API公開のビジネスモデル

 Google MapsのAPIは、サービスの利用量や利用形態に応じて課金するタイプだが、まったく課金しないタイプもある。それどころか、利用するとバックマージンがもらえるタイプもある。

 バックマージン型の例としては、配車サービスのUberが挙げられる。UberのAPIを使うと、開発者は自分のアプリに簡単に「配車」ボタンを設置できる。そして、このボタンを介してUberのサービスが使われると、開発者にバックマージンが支払われる(Uberの初回利用者1人つき5ドル)。

 例えば、あるテーマパークが来園者向けのアプリを開発し、配車ボタンを設置したとする。アプリのユーザーがボタンを押すと、ユーザーの現在地までタクシーがやってきて、そのテーマパークまで連れて行ってくれる。行き先はテーマパーク・アプリで指定しておけるので、ユーザーが入力する必要はない。

 テーマパークは、来園者の顧客体験を向上できるうえ、バックマージンまでもらえる。一方、Uberは、多数のアプリに配車ボタンが設置されれば、それだけサービスの販売チャネルを増やすことができる。

APIで繋がるエコシステム

 さて、Uberを使ったことがある人ならご存知だろうが、Uberアプリにはマップ機能が搭載されており、依頼したタクシーがどこまで来ているかリアルタイムに確認できる。この便利な機能は、Google Maps APIを使って実装されている。

 つまり、Uberを使うということは、APIを介してGoogle Mapsを使うということでもある。一方、Google MapsアプリからUberを使うこともでき、経路選択で「配車」を選ぶと、Uberアプリを介さずにタクシーを呼ぶことが可能だ。

 このように、APIを介して提供される機能を組み合わせて、リッチなサービスを実現できるのがAPIエコノミーの利点である。事業者は自社のコア技術に注力し、それ以外の部分はAPIエコノミーで調達する。それにより、サービス開発のスピードを加速させ、1社では提供できないサービスを実現することができる。

 このほか、別サービスのアカウントを使った認証サービスもAPIエコノミーと言ってよい。オンライン・サービスのログイン画面でよく見る「Googleアカウントでログイン」や「Facebookアカウントでログイン」といったものである。これが可能なのは、GoogleやFacebookなどが認証APIを公開しているからだ。

 新しい便利そうなサービスを見つけても、アカウントを作るのが面倒だったり、むやみにアカウントを増やしたくないといった理由で、利用を見送ることはよくある。別サービスのアカウントが利用できれば、事業者はユーザー獲得が容易になるうえ、認証情報を管理・保護するコストを削減できる。また、ユーザーは、新たなID・パスワードを覚える必要がなくなる。

APIエコノミーに参加するうえでの注意点とは

 すでに国内でもAPIエコノミーは広がりを見せている。例えば、金融業界ではFinTech推進のために、残高照会や入出金明細を安全に行うためのAPIを公開する銀行が増えている。2018年1月には「KDDI IoTクラウド API Market」のような、APIのマーケット・プレースも立ち上げリ、APIの調達も容易になってきた。

 それでは、APIエコノミーに参入、あるいは活用するにあたって、課題はないのだろうか。

 まず、APIを公開する側には、入念なビジネスシミュレーションが必要である。公開したAPIは、どれくらい利用されるのかわからない。便利な機能を無料で提供すればみんなに使ってもらえるだろうが、それではビジネスにならない。無料枠を設けるとしても、どこからを有料にするか、その金額はいくらが適当かなど、マネタイズについて考えておく必要がある。この判断を間違うと、無料プランばかりが使われて、有料プランが一向に売れないといったことになりかねない。

 次にAPIを利用する側だが、こちらにはAPI提供者に自社サービスの命運を握られかねないというリスクがある。

 例えば、本稿で挙げたGoogleとUberは、自動運転車開発において競合関係にある。そして、地図データは、自動運転技術の核となる部分だ。その核となる部分をGoogleに握られた状態では、ビジネスにどんな影響が出るのか、Uberとしては不安であろう。Google Mapsに自動運転車向けの機能が実装されても、そのAPIは公開されないかもしれないし、公開しても割高な料金が設定される可能性もある。こうした背景から、UberはGoogle Maps離れを画策し、2016年から独自の地図データ構築を進めている。

 直接的な競合関係にない場合でも、他社が提供するAPIを利用するうえでは、いざというときのためのリスクヘッジが必要だ。サービスを構築したあとも、現在使っているAPIをそのまま使い続けるか、それとも乗り換えるか、あるいは自社開発するかといった目で、APIエコノミーの市場を注視する必要があるだろう。

●KDDI IoTクラウド API Market
https://iot.kddi.com/services/iot_service/api-market/