[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

テクノロジーが変える顧客体験、Amazon Goに見る取り組み

2018年4月6日(金)CIO賢人俱楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、元あきんどスシローの情報システム部長で、現在は、たなかさとる&Co. LLCのCEOを務める田中覚氏のオピニオンです。

 最近、米Amazon.com(アマゾン)関連のニュースに事欠かない。税金を払っていないとか、他企業の脅威であるとかいったビジネス面のこともあるが、ここで取り上げたいのは家庭用のスマートスピーカー「Amazon Echo」の日本での発売やレジのないコンビニ「Amazon Go」のオープンなど、テクノロジーをフル活用したサービスのリリースである。

 一般消費者にとってアマゾンはオンラインショッピングサイトだが、ITに携わるものであればアマゾン=AWS(Amazon Web Services, Inc.)であり、世界最先端のテクノロジーカンパニーという認識があるため、これらのニュースにそれほど違和感は感じないだろう。

 筆者は前職のあきんどスシローで、アマゾンが次々とリリースするサービスを利用して、IoT/ビッグデータを活用した業務改善や、来店予約アプリやテイクアウト注文など顧客の体験価値を向上させるサービス開発に取り組んだ。今だから言えるが、アマゾンの新サービスの情報を得るとそれを使って何かできないかと考えて、始めた取り組みもある。

 手段が目的になっているわけで若干の後ろめたさもあったが、できなかったことを実現して得るリターンは大きく、AWS上に構築したシステムは業務の改善、高度化に大いに役立った。店頭でお客様を長時間待たせるストレスから開放した来店予約アプリに至っては、ネット上で“神アプリ”と絶賛されたほどだ。当然、顧客の囲い込みに大いに貢献した。

 寿司屋のような昔ながらのビジネスですらテクノロジーが劇的な変化をもたらしたのだから、ほかの業界で同様もしくはそれ以上の成果が期待できる。次々と新しい技術が実用化されていく現在において、それを使ったら何ができるのか、自社のビジネスにどのように貢献するのかを、想像力を膨らませて考えることはますます重要になる。IT部門、特にCIOには、感度良く最新のテクノロジーの情報をキャッチし、経営や事業に取り込むことが求められている。

 話を冒頭で触れたAmazon Goに移そう。アマゾンはAmazon Goを実現するテクノロジーの詳細を公表していないため推測にはなるが、どのような新しいテクノロジーが使われ、どんな顧客体験、ビジネスの進化が生み出されようとしているのかを考察してみる。まずAmazon Goにはレジがない。代わりに天井には多数のカメラ、商品棚にはセンサーが設置されていて、AWSで提供している「Amazon Rekognition」のようなDeep Leaningによる画像分析技術を使って、誰が、いつ、何を、いくつ取ったのかを正確に把握する。

 当然、支払うという行為もない。Amazon.comのアカウントと紐付けられたAmazon Goのアプリ画面を、入店時に入り口のゲートにかざすだけである。退店時にその人が取った商品の代金がアカウントに請求される仕組みであり、例えば自分が取った商品をこっそり友人のポケットに忍ばせてみても友人ではなく、自分に課金されるらしい。画像解析や行動認識、商品に貼ったラベルの追跡と高精度の読み取りなどの合わせ技の成果として、極めて高いレベルの認識を実現しているのだ。

 実際、ネット上には世界中の挑戦者がAmazon Goを騙そうとして敗れ去ったエピソードがあふれている。日本では、実店舗での決済手段の話と言えばSuicaやWAONのような電子マネーやWeChatのようなQRコードでの支払い手段の導入がよく話題となる。Amazon Goの取り組みは、ネットの決済手段をそのままリアルに持ってくればいいというコロンブスの卵のような話である。

 さて、顧客体験はどう変わったのだろうか?日常の買い物でストレスを感じることと言えば、やはりレジで並ぶこと、それから商品がどこにあるかわからなかったり品切れしていることだろう。筆者自身の買い物を振り返ると、レジには不満が多い。少ししか買わないのにレジで行列していれば購入を断念することすらあるし、セール品やインスタント食品ばかりを買った時などは後ろの人やレジ係にカゴを見られるのが気恥ずかしく、会計後に袋詰めするのも正直、めんどくさい。

 Amazon Goなら棚から取った商品をそのまま自分のカバンやポケットに入れたり、入り口で渡されるバッグに入れて、そのまま出ていける。この手軽さは、スーパーやコンビニのような来店頻度の高い普段使いの店舗においては、安さや品揃えとは違う、新しい店舗を選択する理由になるかも知れない。しかも商品が非常にキレイに陳列されていて選びやすい。画像認識で商品を正確に把握するために必要な作業なのであろうが、AIが棚にある各商品の在庫数や陳列の乱れを常に監視していて、適切に店舗スタッフに商品補充や整理整頓を指示しているようだ。

 筆者はこの商品陳列こそが今後のビジネスを進化させる部分だと考える。どの棚にどの商品があり、在庫や陳列状況が管理できていて、誰がどの棚の前に何秒立ち止まり、どの商品を取って、やっぱり戻したのかが把握できる。そうであれば、バイヤーや店長よりも効果的な棚割を考えたり品揃えを最適化したりして売上を伸ばすことができる。

 アマゾンはPB商品の開発に力を入れているが、店頭でいわゆるA/Bテストを簡単に繰り返せるため、細部まで仕様を詰めたPB商品の開発が可能でヒット商品を生みやすい。メーカ各社はこのようなマーケティング情報を収集するために莫大な費用をかけているので、PB商品を開発しないカテゴリーは、調査会社のように情報を売ったり、製品試験を代行したりすることで収益を上げることも可能である。

 今回、Amazon Goを例にテクノロジーが顧客体験を変え、自社のビジネスの未来をどのように変えるのかを考察した。アマゾンのような企業文化だからこそ、ここまで振り切ったことができる面はあるにせよ、どんな業界でもシステム部門にいる人間くらいはテクノロジードリブンで、ビジネスを考えて頂きたいと思う。

たなかさとる&Co. LLC 
CEO 田中 覚
(元あきんどスシロー情報システム部長)

※CIO賢人倶楽部が2018年4月3日に掲載した内容を転載しています。

CIO賢人倶楽部について

大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。

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