[イベントレポート]

すべての企業、特に製造業や装置産業が向かうべき”サービタイゼーション”の最前線

IFS World Conference 2018(1)

2018年5月9日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

クラウド、モバイル、IoT、AIといった技術が牽引する破壊的な動きの中で、様々な製造業や運輸、建設、航空といった装置産業は、どう動くべきか?海外企業はどんな問題意識のもとで、どんなシステムやサービスを構築しつつあるのか?こうしたことを知る格好の場の1つが、有力ERPベンダーの一角を占める存在になったスウェーデンIFSが開催する「IFS World Conference」である。

 IFSは2016年秋に開催したIFS World Conference(WoCo)2016において、機器や装置に取り付けたセンサーやコントローラーなどのエッジデバイスと基幹業務を担うERPシステムを連携させるための製品、「IFS IoT Business Connector」を発表。製造業などが目指す方向として「IoT」、「デジタルツイン(Digital Twin)」、「サービタイゼーション(Servitization:事業のサービス化)」などを提示した(https://it.impressbm.co.jp/articles/-/14030)。

 それから1年半後の2018年5月1日~3日に米アトランタで開かれたIFS WoCo2018。今回はサービス、そしてサービタイゼーションに焦点を絞り込んだ印象だった(写真1)。もちろんERPソリューション「IFS Applications」の新版など複数の製品を発表し、IoTやAIなどに対する取り組みも熱心にアピールした。しかし、総じて言えば、それらすべては「サービタイゼーションを実現するためにある」と言わんばかりの勢いだったのだ。そこにはどんな問題意識があるのか。IFS WoCo2018から”サービタイゼーションを巡る最新事情”を報告する。

(写真1)多くの産業でサービス化が進むと指摘
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サービスこそが価値を生み出す時代へ

 まずサービタイゼーション、あるいはサービス化とはどういうことか。改めて調べると実は意外に古い言葉であることが分かる。30年前の1988年に書かれた論文「Servitization of business: Adding value by adding services」が原点とされ、「顧客にフォーカスして製品、サービス、サポート、ナレッジをバンドルまたはパッケージ化して提供すること。特にサービスが重要である」という定義である。

 決して分かりやすいとは言えない定義だが、この中で注意すべきは”サービス”という言葉かも知れない。日本では「サービス=何かを無料で提供する=タダ」というニュアンスが、昔から一般的だった。実際にかかった費用は徴収するが収益源とは見なさない、つまり「サービスはコスト」という考え方も広く、根強く残っている。銀行が口座管理手数料を徴収しない(できない)のはその例だろう。

 さすがに最近では、保守サービスや相談サービス、保険サービスといった表現が一般的になったし、クラウドサービスや電話サービスといった機能提供の意味でもよく使われる。当然、それらは有料なので「サービス=タダ」という印象は少なくなりつつあるが、モノの製造や販売に付随するサービスに関しては、今も無料か実費という風潮はゼロではない。

 しかし海外で語られる”サービタイゼーション”や”サービス化”には、そうしたニュアンスはない。むしろ「顧客は優れた体験価値を提供するサービスには喜んでお金を払う、だから提供する企業にとってサービスは収益の源泉」という共通の理解があると思えるほどだ。

(写真2)IFSのダレン・ルースCEO。前職のSAPではS/4 HANA Cloudを担当していた

 IFS WoCoで語られたことも、この文脈に則っている。「私が住むロンドンでは、ブラックキャブがUberに破壊されています。移動自体に違いはありませんが、乗車前後のサービスにはある。人はそこにお金を払います。ですからユーザーに寄り添うサービスはとても大事です」(基調講演に登壇したIFSのダレン・ルースCEO)。

”サービスが世界を食べている”とIFS

 だとしても、なぜサービタイゼーションなのか?2日目の基調講演の中で、IFSのマーク・ブリュワー氏(Global Industry Director)は、こう説明する。「なぜサービスが大事か?それは”サービスが世界を食べている”からです。すでに世界経済の70%はサービスですし、サービス収入が20%しかない製造業でも、利益では60%になるでしょう」。

 同氏の「サービスが世界を食べている(Service is eating the world)」というフレーズが著名ベンチャーキャピタリストであるマーク・アンドリーセン氏が2011年に書いた有名なコラム「Software is Eating the World」を引用していることは、本誌読者ならご存じだろう。はっきり見えたり体感できるわけではないが、「サービタイゼーションは大きな潮流となって世界を塗り替えつつある」といった論理だ。

 続けてブリュワー氏は、コーヒー豆を例に挙げてサービスのインパクトを説明した(写真3)。「1杯のコーヒーに必要な豆の価格はわずか0.03ドルです。インスタントコーヒーになると、便利さゆえに1杯0.12ドルになります。マクドナルドだと1.5ドル、スターバックスに至っては4.5ドルです!サービスを超え、体験(エクスペアリエンス)に支払っている。我々はそういう経済に生きているのです」。

(写真3)コーヒー豆を例にしたサービスの価値
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 これはやや誇張した例であり、次の話の方が分かりやすいかも知れない。「製造業ではかつて部品(parts)が収益を生み、サービス契約が顧客との関係と利益を生みました。今日、ベストなのはアウトカム(成果や便益)を提供することです。蘭Phillipsはスキポール空港に照明機器を売っていません。売るのは明かりそのものです。人々は製品ではなく、アウトカムを求めているわけです」。

 続いて、IFSのパートナーとして基調講演に登壇した米Accentureのエリック・シェーファー氏(Senior Managing Director)が、こう補足した。「我々は、製品とサービスをハイブリッドしたサービスベースのエコノミーにいます。価値は製品ではなく、デジタルが可能にするサービスが生み出します。しかも、まだ中間的なステップに過ぎず、次にアウトカムベースのエコノミーに向かっていきます(写真4)。例えば仏Michelinはタイヤからアウトカムへと事業を再発明しました。あなたが何かを運ぶとしてトラックを購入する必要はありません」。

(写真4)Accentureは「製品からサービス、アウトカム(成果)へのシフトが進む」と指摘
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 なお蘭Phillips、仏Michelinは、ともに広く知られた取り組み。「今、これらを取り上げるのは、よほど事例が少ないのか」と感じる人もいるかも知れないが、そうではない。事実、IFSのユーザー企業も様々な取り組みを実施している。しかし簡単に理解できる点で、両社に勝るケースが出てきていないだけである。

●Next:デジタル時代に備えよ──今後数年間に起こる10の変化

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