[インタビュー]

「受付業務には企業のIT活用センスが如実に表れる」─来客対応クラウドのACALL

2018年7月2日(月)川上 潤司(IT Leaders編集部)

どんな会社にでも存在するであろう受付業務。それを起点とする「来客プロセス」に着眼し、すべてを一貫してスマートに支援するクラウドサービスを提供するのがACALL(アコール)だ。同社で代表取締役CEOを務める長沼斉寿氏に、事業化の背景や展望を聞いた。

 カフェで昼食を済ませた後に訪ねた顧客先のオフィス。13時は午後一番の来客ピークらしく、受付にはズラリと人が並んでいる。列がなかなか進まないのを不審に思って見ると、飛び込み営業と思しき人物が担当者に取り次いでもらおうと受付嬢に食い下がっている…。おいおい、後ろで待っている人のことも考えろよと、ついつい心の中で悪態をついてしまう。

 やっと順番が回り訪ね先を告げたところ、「すいません、部署に田中が2人おりまして下の名前はお分かりでしょうか」。え1? 慌ててスマホを取り出してメールを検索する間、今度は自分が背後から冷たい視線を浴びる羽目になるとは…。何とかやり過ごし、数分後にやってきた先方様。「あいにく会議室がとれなかったんで近くで打ち合わせしましょう」と連れて行かれたのは、さっきまでランチを頬張っていたお店じゃないか──。

 顧客を訪ね歩く営業員のように外回りが多いビジネスパーソンならば、赴いた先で様々な「受付」を経験していることだろう。前述のような有人の仕組みの場合は、自分の企業名や名前、訪ね先を告げ(あるいは入館票に記入して)呼び出してもらうのが一般的。筆者も取材などで企業を訪ねることが多々ある1人だが、最もよく見かけるのは、エントランスのカウンターに内線電話端末が置かれていて、所定の番号をプッシュして呼び出すスタイルだろうか。最近では、タブレット端末が設置されておりタッチメニューで相手を呼び出す方式も増えている。

 いずれにせよ、受付は何かと煩わしい。相手の所属部署やフルネームを諳んじておかなければならないし、混み具合を想定して赴く必要もある。一定期間続くプロジェクトなどで頻繁に訪れる際にも、所定の手続きを毎回繰り返さなければならない。そんなの基本的なビジネスマナーと一喝されそうな気もするが、これだけITが進化しているのだから、もっとスマートにできるんじゃないだろうか──。やはり、そう考える人はいるもので、受付や来客にまつわる業務を抜本から変えようと挑む企業がある。ACALL(アコール)がそれで、同社のクラウドサービス(サービス名もACALL)を導入する企業は、昨年の50社から、2018年6月時点で約1000社へと急拡大しているという。

 この市場にフォーカスするに至るには、どのような背景があったのか。既存のソリューションとの違いや、先々の拡張計画は? 事業の陣頭指揮を執る代表取締役 CEOの長沼斉寿(ながぬま よしひさ)氏に話を伺った。

ルーツは自社の悩みの解決

─受付システムに取り組むことになった経緯をお聞かせいただけますか。

 元々は自社ニーズなんですよ。受託開発やSaaS事業の展開を基軸に2010年に創業した当社は、エンジニア中心の小さな企業でした。アシスタントさんなんていませんでしたから、ドアホンが鳴って来客があると気が付いた社員が随時対応することになるのですが、色々と問題がありまして…。

ACALL代表取締役 CEOの長沼斉寿氏

 一つには、開発業務をインタラプトされるのでせっかくの集中力が削がれてしまうのです。脳裏で整理していたアイデアや備忘録の類が一瞬にして飛んでしまう。生産性の足を引っ張っるのは言うまでもありません。一方で、尖ったエンジニアほど常識に欠ける面もあって(笑)、つっけんどんな対応で訪ねてきた相手に不快感を与えてしまうなんてこともありました。これは、双方にとってハッピーじゃないですよね。

 アポなしでやってくる飛び込み営業の人も結構おりまして、経験上、ほとんどがうちとは無関係なんです。本音を言えばスルーしたい所なのですけど、ドア口に赴いて会うまでは判断がつきません。たまたま対応にあたることになった人が“貧乏くじ”を引いてしまい、話の概要を聞いてお引き取り願うまでに5~10分と時間をロスしてしまうのが茶飯事でした。

 これは、どうにかしなければいけないなぁと。エントランスに内線電話端末を置くことも考えましたが、抜本的な解決策だとは思えません。ITのビジネスを自ら手掛けている訳だし、もっと別のやり方があるだろうと考えました。あれこれ知恵を巡らして、タブレット端末に気の利いたアプリを入れて、安価かつスマートに対処することを思い付いたのです。時代の流れや、自社が得意としていることからして、最初からクラウドが念頭にありました。自社のための自作というのが、そもそもの発端です。

─設計時に、どんな基本構想を描いたのでしょうか。その後に、事業化につながったいきさつも併せて教えてください。

 ゲストである来訪者とホストである対応者をマッチングさせるサービスとして考えてみました。第三者の手を煩わせずに、両者をスムーズに引き合わせばいい。“接点”のハンドラーとも言えるでしょうか。事前の約束がある場合は誰あてなのか、ノーアポの場合は売り込みなのか宅配なのかお弁当の出前なのか…条件分岐でそれぞれの処理を定義しておけば自動的に受付業務が回ると踏んだのです。

 例えば、タブレット画面でAさんあてに来た旨をタッチ入力すれば、そのAさんのスマホに来客ありのメッセージが瞬時に届くといったイメージ。誰にも迷惑をかけずにスムースにお迎えすることができます。自社用途とはいえ、しっかりとインタフェースを作り込んでユーザーフレンドリーなものに仕上げました。

 そうして実際に使っていると、いらしたお客さんから「この仕組み、いいですね。売ってないんですか?」と聞かれるようになったんです。一人や二人ならまだしも、何人もの方から問い合わせを受け、しかも好評だったので、これは将来性があるなと考えるようになり、外販を視野にきちんとしたプロダクトに仕上げることを決断するに至りました。

「来客プロセス」を一貫して支援する

─とはいえ、世の中を見渡せば受付業務を効率化するソリューションは既にあったかと思います。どのように独自色を打ち出そうと?

 当然ながら、競合製品の有無も含め、市場の動向なり、オリジナリティの打ち出し方なり、じっくりと考えてみました。重要なのは、広く一般の企業でどのような“ペイン”があるのかを洗い出してみることです。一言でいえば、いろいろと面倒くさいんですよ。

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

CX

関連記事

トピックス

[Sponsored]

「受付業務には企業のIT活用センスが如実に表れる」─来客対応クラウドのACALLどんな会社にでも存在するであろう受付業務。それを起点とする「来客プロセス」に着眼し、すべてを一貫してスマートに支援するクラウドサービスを提供するのがACALL(アコール)だ。同社で代表取締役CEOを務める長沼斉寿氏に、事業化の背景や展望を聞いた。

PAGE TOP