2019年7月11日~13日の3日間、東京ビッグサイトで「働き方改革EXPO」(主催リードエグジビションジャパン)が開催された。本稿では開催初日に行われた総務省 大臣官房 総括審議官 吉田眞人氏による講演「テレワークの最新動向と総務省の政策展開~『テレワーク・デイズ』を通じた働き方改革 ~」、およびNTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部長 佐々木裕人氏による「テレワーク推進賞 『会長賞』 受賞!~働き方変革の柱となる、NTTデータのテレワーク導入事例~」と題された講演の内容についてレポートする。

進む少子高齢化時代、テレワークによる働き方改革が急務

総務省 大臣官房 総括審議官 吉田眞人氏総務省 大臣官房 総括審議官 吉田眞人氏

 はじめに登壇した総務省 大臣官房 総括審議官を務める吉田眞人氏からは、政府によるテレワーク推進に向けた取り組みが紹介された。日本は未曾有の少子高齢化時代を迎えており、経済においても以前のような高度成長が望めない状況にある。特に人口減の影響を受けやすい地方では、事業所数も減少しており、経済は都市部以上に縮小傾向にある。

 総務省はこれらの課題をITによって解決しようと取り組んできた。そのための施策の1つが、時間や場所の有効活用により柔軟な働き方を実現する「テレワーク」の推進である。政府は総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省の4省を中心に、内閣官房、内閣府の協力のもと関係府省連絡会議を設置し、テレワークの普及推進に取り組んできた。具体的には、総務省はITの活用を、厚労省は多様な働き方について、経産省は企業価値の向上を、国交省は都市部への過度の集中解消、といったように各省が所管する政策課題の観点に基づきつつ、多面的な角度からテレワーク普及に向けた取り組みを推進している。

 「テレワークは就業者、企業、社会全体の三方にとって、様々なメリットをもたらす。就業者には多様な働き方の実現、育児や介護、治療との両立、通勤時間の削減を、企業にとっては生産性向上や優秀な人材の確保と離職抑止のほか、コスト削減や災害時の事業継続を、そして社会全体には人口減少時代における労働力人口の確保、地域経済活性化、環境負荷の軽減をもたらす」(吉田氏)。

 実際、総務省が既にテレワークを導入している企業にアンケート調査を行ったところ、「非常に効果があった」「ある程度効果があった」と回答が8割を超えているという。一方、実際にテレワークを導入している企業は13.9%、「導入予定」と回答した企業を含めても、18.2%に留まっている。昨年の調査結果では導入企業は13.3%で、この1年間で0.6%しか増えていない実態も明らかとなった。吉田氏は、「大企業を中心に一定の理解が得られ導入は進んでいるものの、中小企業が伸びていない。また、導入済みでもその利用者数は従業員全体の5%未満の企業が半分を占めるなど、ごく一部にしか利用されていないのが実情だ」と説明する。

テレワーク導入企業の満足度。導入済み企業の満足度は非常に高いテレワーク導入企業の満足度。導入済み企業の満足度は非常に高い
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テレワークの普及状況。テレワーク導入企業は全体の13.9%。導入企業の約半数では制度利用者が5%未満にとどまっているテレワークの普及状況。テレワーク導入企業は全体の13.9%。導入企業の約半数では制度利用者が5%未満にとどまっている
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 吉田氏によれば、テレワークの導入を阻害する課題には、「技術・文化面の課題」と「労務・人事面での課題」の2つに分けられるという。前者では、「社内コミュニケーションに対する不安」「顧客等外部対応への支障」「情報セキュリティ」が挙げられ、後者では「テレワークに適した仕事がない」「適切な労務管理が困難」「人事評価が難しく対象者限定」といった声が寄せられている。

テレワークの導入を阻害する主な課題テレワークの導入を阻害する主な課題
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 吉田氏は、「これらの課題は決して解決不可能な課題ではない。既に取り組んでいる企業の先進事例を参考にすることで、自社に適合したテレワークの在り方を開拓できるはず」と強調する。

 「また、テレワークに適した仕事がない、と言うのは当然の話で、未導入企業は従来の仕事のやり方に最適化した形で業務が成り立っている。テレワークはITを使って現在の仕事のやり方、業務改革を行っていくものだ。したがって、テレワークではITの導入と業務改革を両輪として考えていく必要がある」(吉田氏)。

 また吉田氏は、「日本社会の悪しき風潮として、新しいツールを導入するにあたり、必ず“ゼロリスク”を求める傾向がある」と指摘する。

 「無論、テレワーク導入に際しても何かしらの問題が発生することはあるだろう。しかし、導入以前にも様々な問題が起きていたはずだ。テレワーク導入のリスクは、いまの問題を抱え続けるリスクと比較して高いのか低いのか、客観的に評価することが必要だ。そうした評価を行うとともに、中長期的に展望を見据えたうえでメリットがあると判断した企業が積極的にテレワークを導入している」(吉田氏)。

今年は複数日で開催される「テレワーク・デイズ」

 総務省はテレワーク推進に向けてさまざまな施策を展開している。テレワークマネージャーの派遣やセミナーの開催、テレワーク先駆企業の表彰はその一例だ。そうした推進活動の1つとして挙げられるのが「テレワーク・デイ」の開催である。これは2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開会式が開催される7月24日をシンボルデイとして、テレワークに関する意識向上を目的に、全国の企業等に一斉にテレワークを実施してもらうという国民運動プロジェクトである。2017年は全国の業種業界の950団体、6万3000人が参画、具体的な成果として、ピーク時間帯の地下鉄利用が前年比、最大10%の削減が実現されたほか、調査協力企業では消費電力を最大18%、平均7%削減できたという。

 「この成果を踏まえ、2018年は『テレワーク・デイズ』として複数日の開催に拡充。7月24日をコア日とし、その前後の23日~27日の間において2日以上をテレワーク・デイズとして実施してもらえるよう、企業に呼びかけを行っている。なお、今年は2,000団体、延べ10万人の目標を掲げている」(吉田氏)。

 今後の展開として、総務省では年齢、性別、障害の有無、国籍、所得等に関わりなく、誰もが多様な価値観やライフスタイルを持ちつつ豊かな人生を享受できる、インクルーシブな社会の実現に向け、「スマートインクルージョン構想」を打ち出している。その施策の1つとしてテレワーク等を用いた障碍者の就労支援を掲げている。具体的にはサテライトオフィスの各ブースからリモートで業務を行うなど、IT機器の配布やソフトウェアの提供、IoTやAIの活用等を含めた環境の整備をモデル実証していく計画だ。

 「日本はいま厳しい状況にあるが、2030年から40年において、ITの力で未来を変えていく。将来的にはリビングルームから建設現場のチェックや無人遠隔制御、さらに長期的には、グローブ型端末やBMI装置を用いた重機の遠隔操等の可能性も見据えつつ、究極のテレワークを目指していきたい」(吉田氏)。

テレワーク推進賞「会長賞」を受賞したNTTデータが推進する働き方改革

株式会社NTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部長 佐々木裕氏株式会社NTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部長 佐々木裕氏

 続いて登壇した、NTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部長の佐々木裕氏は、2018年2月、日本テレワーク協会 テレワーク推進賞「会長賞」を受賞した、同社のテレワーク導入の取り組みについて解説した。

 佐々木氏は、「昨今、IT人材の著しい流動が起きている中で、NTTデータは、労働市場で選ばれる企業を目指している。そのためには多様な人材が活躍できる環境を整備し、持続的な成長を実現していくことが不可欠だ。一方、社員に対しても一人ひとりの自己実現をキーワードに掲げ、個々人の発想を大切にし、かつ、変化への対応力を身に付けてもらえるような環境を提供していくかなければならない。そうした双方の想いを踏まえ、会社働き方改革を推進してきた。その実践には、制度と仕組みをセットで整備していくことが必須となる」と強調する。

 NTTグループでは、その前身となる電電公社の時代から世に先駆けて様々な働き方に関する制度改革を実施してきた。1992年には介護休職制度を、93年にはフレックスを導入。2005年には「ワークスタイルイノベーション」宣言のもと、裁量労働制の採用やテレワークの制度化にも踏み出している。さらに2012年からはシンクライアントの導入を開始、現在ではグループ会社も含め、3万台以上のシンクライアントが稼働している。

 テレワークの導入は2008年にさかのぼり、当初は管理職または育児介護が必要な社員に対してリモートアクセスの仕組みを導入、同時に労働時間管理アプリケーションもセットで整備し、以降、裁量労働制も取り入れながら、テレワークの普及推進に努めている。

 佐々木氏によれば、テレワーク制度の実施により、「優秀な人材の確保」「BCP/DR対策」「通勤時間削減」「オフィスコストの削減」「介護、育児など多様な働き方への対応」といったメリットを享受できているという。

テレワーク導入により得られる5つのメリットテレワーク導入により得られる5つのメリット
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 佐々木氏は、働き方改革の目的として、「生産性の向上」「長時間労働の是正」「健康促進」に加え、4つ目のキーワードとして「グローバル化」を上げる。「グローバル化を推進するには、時差も考慮した柔軟性のある働き方を実現する必要がある。また、全社を通じた働き方改革をより一層推進するため、ここ数年、システム面のさらなる整備にも取り組んでいる」と佐々木氏は説明する。

 その1つが、先述したPCのシンクライアント化だ。具体策として、NTTデータの仮想デスクトップサービス「BizXaaS Office」を社内導入。サテライトオフィスや出張先からでも、オフィスにいるのと同様に業務ができるような環境を整備している。また、資料を共有しながらリモートからの会議参加が可能なWeb会議の仕組みのほか、単純労働の効率化に向けてRPAツール「WinActor」も導入。請求や購買等の処理な処理を自動化し、煩わしいルーチンの事務処理を抑制している。

 このほか、不動産事業者と契約し、サテライトオフィスも活用。社員の自由な働き方改革の推進に向けて、様々な取り組みを推進している。

 同社では、テレワーク・デイにも積極的に参加しており、昨年では約1万1,000名の社員中、8,750名の社員がテレワークや時差通勤を実施したり、休暇を取得したりしている。「これらの取り組みの結果、2012年から昨年度までで95時間の労働時間削減を果たしている。労働時間を大幅に削減できた。一方、労働生産性についても2014年と比較して11%向上している。労働時間を削減しながらも、ビジネス面での成果も上げられている」と佐々木氏は語る。

NTTデータにおける総労働時間の推移NTTデータにおける総労働時間の推移
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 最後に佐々木氏は未来の働き方について言及。今後、ロボットやAIの導入による業務支援の推進、自動運転による車移動における時間の有効活用、さらには自動通訳の進化による言語の壁を越えた、グローバルビジネスのさらなる推進の可能性について述べた

 佐々木氏は「社会は生まれた時からICTツールやインターネットに慣れ親しんできたミレニアル世代へと世代交代が進んでいる。そうした時代の変化をしっかり見据えたうえで、皆様と共に働き方改革を進めていきたい」と訴え、講演を締め括った。