WeWorkは、2010年にニューヨークで創業した、個人や企業にワークスペース(オフィス空間)を提供するスタートアップだ。ソフトバンクとの合弁で日本法人を設立し、2018年2月に日本での営業を開始した。いわゆるシェアリング・エコノミーの一種だが、提供するのは“安さ”ではない。WeWorkが掲げるミッションは、共創的なコミュニティを実現することである。海外で高い評価を獲得しているWeWorkだが、果たして日本でも定着するのだろうか。

コミュニティのパワーを参加者のビジネスの成長に

 WeWorkの社名には、個人(Me)として活動しながらも、コミュニティ(We)の仲間になることで、より充実した人生を送れるようになる場所(を提供する)という意味が込められているという。このことが示すように、もともとWeWorkがサービス対象としていたのは個人であるが、現在は個人だけでなく企業も対象としている。それも、スタートアップのような小規模企業から、大企業までが対象になっている。大企業の顧客としては、マイクロソフトやフェイスブック、セールスフォース・ドットコム、シティバンク、アディダスなどが名を連ねる。

 サービス・プランも豊富だ。デスク1つを1日単位で貸し出すものから、希望する人数分のオフィス・スペースを固定で提供するものまで用意されている。また、同社が最近力を入れている「Powered by We」というサービスは、これまで蓄積したオフィススペースの構築・運用ノウハウを活用して、自社オフィスのリニューアルを考えている企業向けにコンサルティングやマネジメントを行うものだ。

 このように、WeWorkの顧客層、業態はシェアオフィスやコワーキング・スペースに対して抱かれる一般的なイメージからは大きくかけ離れている。同社のビジネスは、かたちの上では「オフィススペースの提供」ではあるが、それを通じて、うまく機能しているシェアオフィスに見られるような「共創的なコミュニティの実現」を目指しているのだ。

シェアオフィスの最大のメリットとは

 そもそもシェアオフィスの第一の目的とは、複数のメンバーがより集まることで、オフィスを構える金銭的負担を軽減するというものだ。シェアハウスのワークスペース版である。そこだけを切り取ると、「本当は自分(たち)だけのオフィスを持ちたいが、実現が難しいのでシェアオフィスで我慢する」という後ろ向きな選択理由が見えてくる。

 実際、シェアオフィスに煩わしい部分があるのは確かである。オフィスを共有する他のメンバーの迷惑になる行為は厳禁だ。好きな音楽を自由にかけることはできないし、自分用に割り当てられたスペースでも散らかし放題というわけにはいかない。

 では、シェアオフィスの利用者がみんな不満を抱えているのかというと、そうではない。シェアオフィスで働くことに心地よさを感じている人も多いのだ。

 人は集団で生きる生き物であり、個人として活動している人でも、周囲に人がいるほうが仕事がはかどるという人は少なくない。カフェでノートPCやタブレットを広げるノマドワーカーは、そのいい例だろう。

 自発的に集まって形成されたシェアオフィスでは、メンバー間の交流を深めるために、定期的に食事会など開いているところも多い。集まる人々は、職種が異なったり、職種は同じでも業界が違ったりとどこかしら違いがあるものだが、そうした中でお互いに刺激を与え合うことは、自身の仕事にとってもプラスになるものである。

 例えば、「今度の仕事のことで○○に詳しい人に話を聞きたいんだけど…」と話題にしたら人を紹介してもらえたり、フリーライターとWebデザイナーのメンバーが一緒に組んで仕事をしたりと、個人ではできなかったことがシェアオフィスというコミュニティに参加することで可能になる。おそらく、これからシェアオフィスに参加しようという人たちが望むのものだろう。

 クリエイターが寄り集まってコミュニティを形成することは、昔からあったことだ。第二次世界大戦前にエコール・ド・パリ(パリ派)の画家たちが集ったパリのモンパルナス/モンマルトル、1970年代のニューヨークのソーホー、手塚治虫を中心に多くの漫画家が集まったトキワ荘も例にあげることができるだろう。

 もっとも、自然発生的に生まれたコミュニティは、時間とともに廃れてしまうのが常である。中心的な人物がいなくなればコミュニティを維持するのは困難だ。ソーホーの場合は、観光地化やそれに伴う地価の高騰で創作活動に適した環境でなくなったことから、クリエイターが激減した。

 シェアオフィスの場合、うまく機能させるのにも、それを維持するのにも、それなりのエネルギーが必要になる。入居者の中にミュニティ活動に消極的な人が多ければ、賃料が安いだけで居心地の良くない空間になってしまうだろうし、コミュニティの維持に必要なエネルギーをうまく分散できなければ、誰かにしわ寄せがいき長続きしなくなる。

コミュニティ創造を仕組み化することは可能か

 さて、共創的なコミュニティを、意図的に作り出すことは可能だろうか。それにチャレンジしているWeWorkだが、そうした取り組みは、中小機構や各自治体が設置しているインキュベーション施設でも行われている。インキュベーション施設は、起業を志す人に対して事業計画や資金調達などの相談に乗るところだが、その中には施設内にシェアオフィスを用意しているところも多く、セミナーなどを通じて起業家のネットワークづくりを支援している。

 ただし、インキュベーション施設のサービス対象は、基本的に個人やスタートアップなどであり、ある程度の規模を備えた企業は対象外である。だが、共創的なコミュニティから得られるメリットを欲しているのは、小規模事業者だけではない。大企業には、外部との交流を通じて新しい風を取り込み、組織が硬直化するのを防ぎたいというニーズがある。

 共創的なコミュニティを作り出し、それに参加したいと願う人たちを企業規模の大小を問わず、招き入れる。それを実現するためにWeWorkでは、コミュニティの世話役としてコミュニティマネージャーをオフィスごとに配置している。コミュニティマネージャーは、利用者からの要望やクレームを聞いて本社にエスカレーションしたり、セミナーや交流会などのイベントを企画したりするほか、メンバー同士を引き合わせるといったビジネスマッチングを行ったりする。

 きれいで創造力を刺激するオフィス、最新のITインフラ、無料で飲めるコーヒーやビールといったファシリティやアメニティが注目されがちなWeWorkだが、その本質的な部分の成否は、コミュニティマネージャーが担っていると言えるだろう。

 もっとも、コミュニティマネージャーがどんなに優秀でも、それだけでは十分ではない。WeWorkの理念に賛同し、熱心にコミュニティ活動に参加してくれる利用者、いわゆるアーリーアダプターなどと呼ばれるユーザーが必要だ。数多く登場しては消えていったSNSを見てもわかるように、運営側がどんなに頑張ってサービス向上に努めても、それを活用して広めてくれるユーザーを一定数獲得できなければ、コミュニティは作れないし、維持もできない。

 WeWorkが日本に上陸してまだ半年。謳い文句どおりのビジネス・イノベーションの場が作れたのかどうかは、入居した企業のビジネス活動の変化も含めて、長い目で評価する必要があるだろう。