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[ITプロジェクト成功の要件「7つの行動特性」を理解する]

カギを握るベンダーとの信頼関係、そして経営に資するITへの理解:第4回(最終回)

2019年4月26日(金)野々垣 典男(プロメトリスト 代表)

前回まで、筆者が慶應SDMの修士研究で得た、TTプロジェクトを成功させるシステム発注者の7つの行動特性「PROMETList」を順番に解説してきた。最終回となる今回は残りの2つ、行動特性6「T:ベンダーとの信頼関係」と行動特性7「L:学習意欲」についてそれぞれ取り上げる。

行動特性6
T:ベンダーとの信頼関係─ベンダーから「この人のために頑張ろう」と思われるCIO

 第1回から、大規模ITプロジェクトを成功させるために発注側経営者が備えるべき7つの行動特性「PROMETList」(プロメトリスト、図1)のうち、行動特性1から行動特性5までを説明してきた。最終回となる今回は、残りの2つの行動特性を説明する。

図1:発注者行動特性7要素「PROMETList」(プロメトリスト)
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 第1回(関連記事IT発注者に求められる7つの行動特性「PROMETList」を編み出した理由)に記したとおり、米国のユーザー企業は、社内に開発プロジェクトを立ち上げ、エンジニアを雇い、自前でシステムを開発する。これに対して日本の企業の場合、ユーザー企業の社内に「◯◯システム開発プロジェクト」と銘打って体制を作るものの、システムを製造する業務のほとんどはベンダーに委託開発されている。その証拠に、米国で働くITエンジニアの約7割はユーザー企業に所属し、日本で働くITエンジニアの約7割はベンダーに所属しており、完全に逆転している。

 日本ではさらに、元請けベンダーは自社社員のみでシステムを開発するのではなく、開発プロジェクトのメンバーの多くを他のベンダーから調達するという「多重下請け構造」が形成されている。現状、このようなIT産業構造のため、今さら米国のような自前開発に転換することは不可能である。したがって、ITプロジェクトの体制にはベンダーの存在が欠かせず、プロジェクトを成功させるにはベンダーとの間に良好な関係性を構築し信頼を維持・向上させる必要がある。その範囲は下請け企業にまで及ぶ。

 最近は、発注側と受注側のメンバーが一体化して1つのチームを編成してプロジェクトを運営するケースや、アジャイル開発のように大部屋でユーザーとエンジニアが一緒にプロジェクトを進める形態がある。大規模ITプロジェクトの場合にはそのような手法で一体化することが難しいものの、成功したプロジェクトではさまざまな方法により発注側と受注側の双方が一体感を醸成し、信頼関係を構築する工夫がなされている。

 その信頼関係は現場レベルで関係づけられることも多いが、トップマネジメントである経営者同士が信頼関係で結ばれていると、現場にもその「空気」は伝わる。そのため問題が発生した際にも、必要に応じて経営者にエスカレーションされることによって、多層的でより高度なコンフリクトマネジメントが実施できるようになる。

 筆者が慶應SDMの修士研究で有識者インタビューを行った際、あるCIOに聞いたユニークなエピソードを披露したい。プロジェクトの途中でしばらく未解決の課題が残っていた。CIOが社内の進捗会議で問いただしたところ、担当者からは「その課題はベンダー側に問題があり解決に手こずっている」との回答を得た。多くのCIOはそこで納得するのだが、そのCIOは違っていた。進捗会議のあとで自室に戻り、ベンダーの役員に連絡した。「うちの担当者はこう言っているが、どのように解決するのか?」。ベンダーの役員の回答は、実はユーザー企業側にボトルネックがありベンダー側が「待ち」になっている、ということであった。結果的に、その課題は間もなく解決され、そのプロジェクトは遅れなく完了した。

 インタビューでは、ユーザー企業の経営者からもベンダーの経営者からも、プロジェクトを成功させる秘訣として、「ベンダーと対等の関係」というキーワードが語られた。常識的に考えれば、多くの読者は納得すると思う。しかし、プロジェクトの現場では、ベンダーを下に見る、問題が起こった時ベンダーに責任転嫁する、といったことが現実的には起こっている。

 最近は「働き方改革」のしわ寄せが、ベンダーや下請け企業へと向かっていると聞く。プロジェクトは「独自性」が特徴の1つであり、ベンダーもプロジェクトの内容上、初めての取り組みになることがある。したがって、計画どおりに進まないことも多く、ベンダーのみで解決することはできない。ユーザー企業も場合によっては譲歩し、あるいは解決策を提案して、プロジェクト成功に向けて両者が一丸となって取り組む姿勢が大切だ。

 あるベンダーの経営者は「この人のために頑張ろうと思った」と語った。「この人」とはユーザー企業のCIOである。このような信頼関係がなければ、大規模で複雑なITプロジェクトは成功しない。

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