[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

魚の進化からイノベーションを考える

全日本空輸 デジタル変革室 イノベーション推進部 部長 野村泰一氏

2019年5月14日(火)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、全日本空輸(ANA)デジタル変革室 イノベーション推進部で部長を務める野村泰一氏のオピニオンです。

 すべての生物は海から生まれたと言われます。そして、ミネラル豊富な古代の海には多くの原始的な魚たちが悠々と暮らしていたそうです。しかし競争相手も多かったので、海を離れて淡水域に住まいを移す魚も現れます。淡水には確かに競争相手はいませんでしたが、海水に比べて栄養分が少なかったため、原始的な軟骨に代わって、体を支えると同時に体内にミネラルを蓄積して濃度を保つことのできる硬骨を獲得する魚がでてきました。さらに酸素濃度の低くなりがちな淡水域で効率よく呼吸するために、空気呼吸のできる肺機能を持つ魚も出てきました。

 こうなってくると、陸上でも生きていける条件が整ってきます。だんだん淡水域も競争相手が多くなってきたこともあり、ついに陸上に進出する動物が現れました。両生類の誕生、まさにイノベーションです。カエルやイモリのような両生類が淡水起源なのはこのためだと言われています。魚たちは淡水という厳しい生活環境に行くことで、結果として硬骨や肺機能という強みを得て、やがて陸という新たなマーケットへも進出することができたのです。なんとか生き延びようとするパッションと行動が、結果としてイノベーションを引き起こしたのではないでしょうか。逆に言えば、恵まれた海から直接陸に上がることは難しかったでしょう。

 私たちがイノベーションに取り組む時の道筋はさまざまです。デザイン思考を駆使したり、成功事例から学んだり、イノベーションを起こしやすい環境作りをしながら賢く行動しようとすることがあります。どれも間違いではないかもしれませんが、ミネラル豊富な海にいながら描く未来図のような印象を持ってしまいます。

 なぜなら、現在の延長線上に未来を描こうとするように見えるからです。サイロ型に立ち並んだ基幹系システム、老朽化更新のタイミングでしか次を考えられないシステム計画の上では、最新のツールや思考法をいくら駆使しても新種の生き物は誕生しない、イノベーションにはならないのではないでしょうか。

 クラウドモデル、マイクロサービス、各種のデジタルテクノロジーというトレンドを眺めていると、業務単位に発想せず、データや機能単位にデザインするマインドに心が動きます。データを組み合わせたり、組織を越えて利活用をすることは俯瞰的に業務をとらえたりすることのできる組織、すなわちIT部門が本来得意とすることであり、部門の活路がそこにあると思うのです。古くさいように見えるシステムも、違う角度から見ればデータの宝庫です。今こそ自らの行動で変革を起こすべきと思います。

 魚の話に戻しましょう。淡水域に誕生した硬骨魚類の中には再び海に戻るものも表われました。硬骨と肺機能の強化から進化した浮き袋を持ち、抜群の運動能力によりレガシーな軟骨の魚たちを駆逐していきます。私たちの泳ぐ海にもすでに進化した魚たちが泳ぎ始めているのではないでしょうか。

全日本空輸
デジタル変革室 イノベーション推進部 部長
野村泰一氏

※CIO賢人倶楽部が2019年5月1日に掲載した内容を転載しています。


CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOをはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。

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