[市場動向]

「狭いAIから、多用途で安全に使える広いAIにシフトする」、IBMとMITの産学連携AIラボが会見

2019年5月16日(木)日川 佳三(IT Leaders編集部)

日本IBMは2019年5月16日に会見し、米IBMとマサチューセッツ工科大(MIT)による産学連携のAI(人工知能)研究所「MIT-IBM Watson AI Lab」について説明した。AIの適用分野や用途を広げるべく、基礎研究に注力する。研究者は約100人で、IBMの研究所やMITの教職員・学生が参加する。米IBMは同研究所に対し、10年間にわたって2億4000万ドルを投資する。

 「“狭いAI(Narrow AI)”から“広いAI(Broad AI)”へのシフトが研究所のテーマだ。あらゆる用途に対応できるAI、少ないデータで学習できるAI、信頼性・倫理性や説明能力を持ったAIを実現する」――。IBM Research(IBM基礎研究所)でDirectorを務めるDario Gil(ダリオ・ギル)氏(写真1)は、MIT-IBM Watson AI Labの意義をこう説明する。

写真1:IBM Research(IBM基礎研究所)でDirectorを務めるDario Gil(ダリオ・ギル)氏写真1:IBM Research(IBM基礎研究所)でDirectorを務めるDario Gil(ダリオ・ギル)氏
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 現在主流のAI技術は、“狭いAI”である。特定の業務を自動化できる画像認識のモデルをディープラーニングで生成する、といった事例が実用化されている。この一方で、何にでも使える汎用AIはSF(サイエンス・フィクション)であり、当面は実現しない。こうした状況の下、現在有望なAI分野が、各種の用途で活用できるようにした“広いAI”である。

 会見では、“広いAI”を実現するための道筋と研究テーマについて、IBM Research(IBM基礎研究所)に在籍し、MIT-IBM Watson AI LabのIBM Directorを務めるDavid Cox(デビット・コックス)氏(写真2)が説明した。研究所の研究テーマの柱は4つある。(1)AIアルゴリズム、(2)AIのための物理学、(3)AIの産業応用、(4)AIのもたらす豊かさの社会的共有、である。この下で、合計で50のプロジェクトが稼働している。

写真2:IBM Research(IBM基礎研究所)に在籍し、MIT-IBM Watson AI LabのIBM Directorを務めるDavid Cox(デビット・コックス)氏写真2:IBM Research(IBM基礎研究所)に在籍し、MIT-IBM Watson AI LabのIBM Directorを務めるDavid Cox(デビット・コックス)氏
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 AIを研究する学生も増えている。「MITでは、2010年までAIを志望する学生は横ばいだったが、2010年にマシンラーニング/ディープラーニングによるAI革命が起こって以降、急増した」と、MIT-IBM Watson AI LabのMIT Directorで、Electrical Engineering and Computer ScienceのProfessorであるAntonio Torralba(アントニオ・トラルバ)氏は指摘する。

 研究テーマの柱の1つ、(1)AIアルゴリズムでは、マシンラーニングと推論の能力を拡張するための高度なアルゴリズムを開発する。(2)AIのための物理学では、ハードウェアの開発や、量子コンピューティングとマシンラーニングの組み合わせについて研究する。(3)AIの産業応用では、セキュリティやヘルスケアなどの分野に向けて新しいアプリケーションを開発する。(4)AIのもたらす豊かさの社会的共有では、AIがどのように経済的・社会的なメリットをもたらすことができるかを検証する。

 AIの産業利用で注力する分野の1つがセキュリティである。自動運転や顔認識を安全に利用できるようにする。例えば、顔認識においては、カラフルな眼鏡をかけることで別人に成りすませた例がある。自動運転関連では、道路標識の画像の一部のピクセルを茶色に変えたらテディベアと認識してしまった例がある。「攻撃者が工夫すれば、AIを騙せてしまう」と、David氏は指摘する。攻撃と防御を繰り返すことで、攻撃に強いAIを実現する。

 ヘルスケア分野では、ICU(集中治療室)における最適な治療方法を、各種センサーによる監視データから導く、といった使い方に利用する。金融分野では、人から人への金銭取引の流れとつながりをグラフデータベース化して視覚化し、不正を検出できるようにする、といった使い方がある。

 説明性については「よりよい意思決定のためには、データの相関関係が分かるだけでは不十分で、因果関係が分からなければならない」(David氏)と指摘(写真3)。例えば、米国Maine(メイン)州では離婚率と1人あたりのマーガリン消費に相関があるが、これらは因果関係としてはつながらない。原因を推論し、よりよい意思決定につなげられるようにする、としている。

写真3:左から、MIT-IBM Watson AI LabのIBM DirectorであるDavid Cox(デビット・コックス)氏、IBM ResearchのDirectorであるDario Gil(ダリオ・ギル)氏、MIT-IBM Watson AI LabのMIT Directorで、Electrical Engineering and Computer ScienceのProfessorであるAntonio Torralba(アントニオ・トラルバ)氏写真3:左から、MIT-IBM Watson AI LabのIBM DirectorであるDavid Cox(デビット・コックス)氏、IBM ResearchのDirectorであるDario Gil(ダリオ・ギル)氏、MIT-IBM Watson AI LabのMIT Directorで、Electrical Engineering and Computer ScienceのProfessorであるAntonio Torralba(アントニオ・トラルバ)氏
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