[市場動向]

情報サービス企業はいつまでSES契約を続けるのか? 今こそプロフェッショナルサービスを考慮すべき時

2019年8月26日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

労働人口減少に案件の小型化など、情報サービス産業を取り巻く環境は厳しさを増している。一方で、いまだに多くの開発現場で企業にとってもエンジニアなどのIT人材自身にとっても非効率な“人月ベース”の契約形態が続いている。はたして、このままでいいのか? 情報サービス企業は、契約のあり方ひいては自社のIT人材の働き方を真剣に考えるべき時にあるのではないだろうか。

 米デルテクノロジーズ(Dell Technologies)の日本法人がITコンサルティングサービスに関する説明会を開催した。詳細は関連記事ベンダー中立型のコンサル事業を100人体制で提供、EMCジャパンがアピールをお読みいただきたいが、質疑応答の時間で気になる話があった。サービスに関わる契約のあり方である。

 コンサルティングサービスという特性のため、料金が個別見積もりになるのは当然である。知りたかったのは契約(料金チャージ)の方法で、「①準委任契約、②請負契約、③タイム&マテリアル(T&M)契約のうち、どれが主体か」を聞いたところ、「まれに②の請負もあるが、多いのは①の準委任」という回答だった。筆者はコンサルティングサービスだけに、IT関連といえども③のT&Mが増えているのではと思って聞いた。しかしデルテクノロジーズでさえ、そうではなかった。

システム開発における3つの契約形態

 少し説明すると、準委任契約(SES:システムエンジニアリングサービス契約)は日本のシステム開発において主流の契約形態であり、コンサルタントやエンジニアは客先に常駐して仕事を行う。通常は1人月あたり幾らの”人月ベース”で料金を見積もる。法律上、指揮命令権は受託会社にあるものの(発注者は直接命令できない)、客先常駐なのでエンジニアなどは自分の時間を自分でコントロールすることは難しい。発注者からすれば、契約期間(時間)中は自社の業務に専念してほしいと考えるから当然だ。

 しかし、客先にいて常に仕事があるとはかぎらないし、逆に何もしなくても客先にいれば料金を請求できる点で、発注者(の人材)にも受注者にも効率がよいとは言えない問題もある。

 ②の請負契約では、受注者が仕事の完成責任を請け負う対価として、発注者はあらかじめ取り決めた報酬を支払う。要件を確定できるシステム導入や移行などのプロジェクトには適していても、発注者の主体的な努力や活動が成否を握るような案件には馴染みにくい。例外はあるにせよ、コンサルティングサービスではあまり聞かない。

 そして、③のT&M契約。ここがポイントである。優秀なコンサルタントの料金は当然高額になるし、必要なときに必要な時間だけ仕事をしてもらえば十分なケースも多い。発注者側のチームを指導したり、問題を提示して解決を任せる程度なら数時間で済む。そこで例えば時間単位の料金を設定し、クライアント(発注者)のために働いた時間や会議時間、移動に要した時間などを記録・合計して計上。発注者が納得すれば支払う方式である。

 例を挙げよう。仮に月額500万円かかるコンサルタントを3ヵ月確保すると1500万円かかる。しかしそのコンサルタントの時間あたりの料金が3万円だとすると、週10時間働いてもらえばOKの場合は3万円×10時間×4週×3ヵ月で360万円になる。このとき、コンサルタント1人の売上げは下がるが、複数の仕事に携わることが可能になるし、売上げにつながる時間以外の時間は情報収集や勉強、部下の育成など自らの価値を高めるために投資できる。そうすれば月や時間あたり料金を高められるのだ。

 このため日本でも、弁護士や会計士、経営コンサルタントなどではT&M契約が多いとされる。米国の情報サービス産業に詳しい山谷正己氏(Just Skill代表)は、「米国ではITコンサルタントも、データベース技術者もプログラマーも時間課金が常識」と指摘する。事実、デルのコンサルティング部門も「米国ではT&M契約が主流だ」という。しかし、こと日本の情報サービス業界に限ると発注者側の考えや長年の間に根づいた商習慣があるので、依然としてSES契約が主流になっている。

優秀なエンジニアを継続的に契約できることが企業の競争力につながる

減りゆく大規模プロジェクト

 では、このままでいいのか? 筆者はノーだと考える。何よりも、多くのエンジニアが人海戦術的に携わる必要のある大規模プロジェクトは減少の一途にある。それよりもさまざまなSaaSサービスやクラウドAPI、オープンソースソフトウェアなどを駆使し、新規開発を最少にしつつ適切なアプリケーションを開発するニーズが増えている。データ分析なども同じだ。

 今後のIT業務の多くは高度に専門分化するはずであり、1人のエンジニアやコンサルタントが付きっきりでこなさなければならないシーンは少なくなる。人月課金のSES契約のままでは待ち時間が増える一方で、高度なIT業務をこなすために不可欠の、学びの時間を捻出できない問題がある。

 それ以上に、IT業務に携わる人材が自分の時間を自分の意思でコントロールできるようになるのは、スキルアップやモチベーションの面で非常に重要だ。そのため、ITに関わる業務はできるかぎりT&M契約へ移行する必要があるだろう。

 最後にお知らせである。こうしたノウハウや知見を提供する専門性の高い仕事は「プロフェッショナルサービス」と呼ばれ、欧米ではこれをスムースに提供するための、プロフェッショナルサービスオートメーション(PSA)というツールが広く普及している。インプレスは、このPSAに焦点を当て、「情報サービス企業の明日の姿、『プロフェッショナルサービス企業』へと舵を切る」と題した緊急セミナーを2019年9月12日(木)午後に開催する(会場:東京・神保町/事前登録制:https://b-event.impress.co.jp/event/psa20190912/)。

 上述の山谷氏による基調講演、PSAソリューションベンダー3社(日本オラクル、Workday、Clarizen)によるPSAの解説とデモ、それに参加者の疑問に答えるQ&Aセッションを設けた。一朝一夕にプロフェッショナルサービスに移行するのは難しいのは当然にせよ、自社のITエンジニアやコンサルタントの業務を時間単位で記録・可視化する取り組みはすぐにも着手できるはずだ。そのためのヒントも得られるはずである。ぜひ参加を検討いただきたい。

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