[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

デジタル施策を担うドイツ企業各社のイノベーションラボ:第4回

2019年8月28日(水)麻生川 静男

グローバルITトレンドの主要発信源と言えば、やはりGAFAを筆頭に有力IT企業がひしめく米国で、ゆえにこの分野の海外ニュースは米国発に偏りがちである。しかし本誌の読者であれば、自動車、電機、運輸、エネルギーといった世界をリードする各産業でITの高度活用に取り組む欧州の動きも追わずにはいられないだろう。本連載では、ドイツをはじめとした欧州現地のビジネスとITに関わる報道から、注目すべきトピックをピックアップして紹介する。

 ドイツの経済誌カピタール(Capital)は、2017年からコンサルティング会社のインフロント(Infront)と共同で、ドイツのイノベーションラボ数十社を調査し、ランキング表を公表している。今年の結果は、同誌7月号に掲載されている。過去2年間にランキングも合わせて、ラボの評価基準や代表的なラボの内情について紹介する。

 ドイツは最近、大企業だけでなく中堅企業も自前でイノベーションラボを設立する傾向にある。それは、本体の事業収益があり余っているから、という理由でなく、収益がそれほどよくなくとも、将来のビジネスのネタを見つけるというのが目的だ。というのも、本体の事業部体制では新規ビジネスを開拓するというのは雰囲気的にも、また人的にも難しいので、その目的は本体と一応は切り離されたラボに委ねるというかたちを取っている。

「伸びるラボ」と「伸びないラボ」の差

 カピタール誌の調査によれば、「伸びるラボ」と「伸びないラボ」の差は次の6つの観点から測ることができるという。

統率力:ラボがどの程度自由度を持つか、経営トップがどの程度積極的にサポートしているか、目的は明確か?

テーマ選定:どのような基準でテーマを選定したか? 選んだテーマをどのようなプロセスを経て具現化しているか?

事業者間の結合:ラボと会社本体はどの程度、密接に情報交換や人事交流をしているか?

活用プラン:ラボの活用や運営に関して、熱心に議論しているか? ラボと会社本体は共同開発について意見を交換しているか?

事業展開:ラボが考えついたアイデアをいかに早く事業展開するかについて真剣に議論しているか?

ネットワーク:ラボは製品について、見込顧客や外部パートナーと協力関係を築いているか?

 カピタール誌の記事では、これら個々について具体的にどうすればよい、というアドバイスはしていない。ただし、項目全体を眺めてわかるように、ラボが成功するには「ラボは本体のビジネスと直接関係がないからかかわらない」という素っ気ない態度ではなく、「ラボが思いついたアイデアをビジネスに具現化する方法について、本社部門は積極的に議論をすべき」という主張が浮かび上がってくる。

イノベーションラボのランキング評価項目

 さて、イノベーションラボのランキング表であるが、ラボは設立された年度やそれぞれの目的に応じて、達成すべきものが異なる。それで同誌では、ラボを次の3つのカテゴリーに分けて評価している。

イノベーションの発掘:イノベーションのアイデアを発見できたか? アイデアの技術レベルとアイデアを具現化するまでのスピード感はどうか?

イノベーションの発展:イノベーションのアイデアからプロトタイプを作れたか? 技術的観点からだけでなく、マーケット的観点からマーケターや顧客からも魅力的なプロトタイプと評価されたか?

イノベーションのビジネス化:商品化に成功して、製品を市場に出せたか? ビジネスプロセスをいかに早く作り上げることができたか?

 この基準から、製造業とサービス業で次の2社がそれぞれトップの評価を得た。

[製造業]
Audi Denkwerkstatt
Viessmann WaTTx
Qiagen Digital Accelerator

[サービス業]
SAP Innovation Center Network(画面1
EnBW Innovation
ProSiebenSat.1 Accelerator

画面1:SAP Innovation Center NetworkのWebサイト
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 カピタールの今年と過去2年間、合計3回のランキング表は毎年少しずつ評価基準や分類のしかたが変動する。したがって3年分を直接比較することは難しいが、参考のため、昨年、一昨年に上位にランキングされた会社を以下に示す。

[2018年]
Lufthansa Innovation Hub
SAP Innovation Center Network
EnBW Innovation-management
Linde Digital Base Camp
VW Data:Lab
Daimler Fleetboard Innovation Hub

[2017年]
Lufthansa Innovation Hub
Daimler Business Innovation und DigitalLife
MAN X-Lab
Axel Springer Plug and Play
ProSiebenSat.1 Accelerator
Allianz X

●Next:ドイツ4社の先端的イノベーションラボの特徴

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