[ユーザー事例]

日立物流がRPAの適用拡大で直面した諸課題と解決への道筋

2019年11月21日(木)杉田 悟(IT Leaders編集部)

国内のRPA市場は、世界でも類をみない勢いで伸長しており、すでに大企業の大半が何らかの形で導入済みだと言われる。こうして普及が進む一方で、適用を拡大していく過程でさまざまな課題に直面する企業も少なくない。物流大手の日立物流でも、稼働ロボット100体到達を前に壁に突き当たった。2019年10月にオートメーション・エニウェア・ジャパンが開催したセミナーに、日立物流 経営戦略本部V21センター業務プロセス改善グループの松本和久氏が登壇。課題とその解決策を明かした。

働き方改革の中心的ツールにRPA

 日立物流は、フォワーディング、3PL、重量・機工の3分野を主力業務とする物流業界大手。フォワーディングは、荷物を特定の場所から場所に届けるための手配業務。3PLはThird Party Logisticsの略で、物流業務そのものを第三者に委託するアウトソーシングサービス。重量・機工は、特殊な技能を必要とする超重量物や精密機器の輸送・搬入業務。

 同社は、「経営視点」「従業員視点」という2つの切り口で働き方改革に取り組んでいる(図1)。生産性向上、企業競争力強化を目指す経営視点の、具体的取り組みのひとつとして産性改革が挙げられており、その中心的ツールとして位置付けられているのがRPAだ。

図1:日立物流の働き方改革の取り組み(出典:日立物流)
拡大画像表示
写真1:日立物流 経営戦略本部V21センター業務プロセス改善グループの松本和久氏

 松本氏は「生産性を改革するツールは世の中に色々あるが、RPAを導入していくと業務プロセスを見直す機会が生まれる。そのことからも、RPAを中心に生産性改革を進めていくというのは理にかなったやり方だと考えている」という。

 日立物流のRPA導入プロジェクトは3カ年計画となっている。2018年度に事前検討を開始してPhase1(導入期)、Phase2(拡大期)を経て2020年度にPhase3(定着期)を迎えるというロードマップを描いている(図2)。Phase2にさしかかり開発したロボット数も100体に届こうとするなか、様々な課題が顕在化してきている。「RPA第2章に入ってきたのかなと感じている」。

図2:RPA導入のロードマップ(出典:日立物流)
拡大画像表示

RPAが抱える4つのリスク

 「ある程度課題が出てくることは想定していたが、実際に課題に向き合うとあらためてリスクはあるものだと感じている」という。それが以下の4つのリスクとそれぞれに取った対処である。

ロボットの管理不能リスク
 世間では「野良ロボット」だ何だと言われているが、「そんなものが、本当に発生するのか」と疑心暗鬼だったと松本氏。実際、ロボットが部署ごとでの管理となってしまい、どこで何が動いているかわからない状況に陥った。「野良ロボット」の発生である。

 対処として、組織・体制の強化、特にロボットの管理を担当する運用チームの強化を検討。後述するロボット情報の一元管理システムは、ロボットの効率運用だけでなく、野良ロボット対策にも有効。

ロボット実行の不安定性リスク
 そもそもRPAは環境依存が強いソフトウェアで、先天的に不安定要素を持っている。にもかかわらずエラー発生時の対応方法が不明確で、メンテナンスできる人もいない。そんな中、いかに安定的に動かしていけるかというのが課題となっている。

 対処として、環境依存の強いソフトウェアロボットは、その環境で実績のある成果物をできるだけ水平展開するのが、安定への近道と考えた。そこで開発のテンプレート化と実績のある機能をパーツ化して再利用することでリスクを回避する。

スキル不足による停滞リスク
 導入規模を拡大していくと、おのずとRPAに関わる人的リソースを増やしていく必要が出てくる。無理に増やした人材がスキル不足だと、難しい案件にチャレンジできなくなり、いくら人を増やしても広がりにはつながらないということになる。 

 RPAリソースを急速に拡大しなくてはならない状況が、スキル不足の人材を増やしている。対処として、ユーザー部門にまで広げた人材育成精度の充実、リソースの確保を着実に進めていく必要がある。

RPAのブームが過ぎ去るリスク
 今はまさにRPAブームの真っ只中にある。これからはその反動が怖い。RPA化する業務がすでにネタ切れになっている部門もあれば、部門の担当者がRPAに対する熱が下がり、フェードアウトしているところも出てきた。社内的なRPAブームは過ぎ去り、過去のものとして扱われることさえあるという。

 OCRやAIとの連携により機能・精度の向上、活用範囲の拡大を実現できるのもRPAの特徴と言える。対処として、その道を模索するとともに、RPAが確実に成果を上げられるよう、プロセスマイニングやタスクマイニングを使って導入すべきプロセスを探索していく作業も必要となる。

●Next:解決に導くための6つのポイントとは?

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
  • 3
関連キーワード

Automation Anywhere / 日立物流 / フォワーディング / 物流 / 運輸・交通

関連記事

トピックス

[Sponsored]

日立物流がRPAの適用拡大で直面した諸課題と解決への道筋国内のRPA市場は、世界でも類をみない勢いで伸長しており、すでに大企業の大半が何らかの形で導入済みだと言われる。こうして普及が進む一方で、適用を拡大していく過程でさまざまな課題に直面する企業も少なくない。物流大手の日立物流でも、稼働ロボット100体到達を前に壁に突き当たった。2019年10月にオートメーション・エニウェア・ジャパンが開催したセミナーに、日立物流 経営戦略本部V21センター業務プロセス改善グループの松本和久氏が登壇。課題とその解決策を明かした。

PAGE TOP