[市場動向]

大企業こそイノベーションを!─国際標準「ISO56000」と経産省の「価値創造マネジメントに関する行動指針」を知る

2019年11月25日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

イノベーション大国と呼べるはずの米国でさえ、画期的なサービスやビジネスを生み出すのはベンチャー企業であり、既存の企業は追随するか、出資するか、あるいは買収するだけ。すなわち既存企業、特に大企業にはイノベーションはできない──。こんな通説を覆そうと、大企業によるイノベーションを促す動きが進んでいる。欧州を中心に進む「ISO 56000」という標準規格の策定と、それを受けた経済産業省の取り組みを紹介する。

イノベーションの実現を促すための国際標準規格

 読者は「ISO 56000」シリーズをご存じだろうか? ”イノベーションの実現”と”標準規格”という普通に考えれば相反するはずの2つを一緒にし、企業に対してイノベーションの実現を促すための国際標準規格である。

 ISO(国際標準化機構)のTC 279(技術委員会279)が策定を進めており、2019年初めから順次発行され、7月策定のISO 56002が現時点で最も新しいものとなる(画面1)。筆者自身、まだ勉強中だが、CIOやIT部門にとって有用、あるいは強力なツールになると考えられるので、どんなものなのかを紹介しよう。

画面1:企業に対し、イノベーション・マネジメントシステムの実装を促すISO 56000シリーズ。2019年7月に「ISO 56002」が策定された
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 始まりは2013年。きっかけは欧州、特に提案国のフランスにとっての「シリコンバレーや深圳のような取り組みは困難だし、真似ても成果にはつながりにくい」という問題意識だったとされる。英国でもドイツでも、あるいは日本でも、ベンチャー企業を育成する取り組みや仕組みは存在する。しかし投資マネーは米中と違って相対的に少額だし、人材の流動性も高くない。何よりも既存の大企業や中堅・中小企業がある。こうしたさまざまな要因が相まって、イノベーティブなスタートアップ企業や新規ビジネスの創出に関しては、目立った成果を上げられずにいる。

 だが足下を振り返ると、既存企業は昔から大企業だったわけではない。大半はイノベーティブな取り組みを原動力に現在の規模になったはずで、大企業だからといってイノベーションができないと決めつけるのは問題がある。

 一方で、ここ数年よく聞く言葉の1つである「VUCA(ブーカ)」。変化の大きさ(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑さ(Complexity)、曖昧さ(Ambiguity)を示す英語の頭文字をつないだキーワードだ。そんなVUCAの世界、時代の中で、しっかりした顧客ベースや技術を有する企業だからといって、窮地に陥らない保証はない。

 つまり既存企業はイノベーションを実現する能力があるし、しなければならない理由もある。何らかの原因でイノベーションを実現できないでいるだけだ。そこにメスを入れ、イノベーションを可能にする経営システムを導入できるようにすれば状況は変わる──大まかには、こんなストーリーのようだ。そうしてまとめつつあるのが「Innovation Management System」に関する標準規格=ISO 56000シリーズである(表1)。

ISO番号 タイトル 発行日
ISO 56000 Fundamentals and Vocabulary 2019
ISO 56002 Innovation management system ─ Guidance 2019/7
ISO 56003 Tools and methods for innovation partnership ─ Guidance 2019/2
ISO 56004 Assessment ─ Guidance 2019/2
ISO 56005 Intellectual property management ─ Guidance 2020
ISO 56006 Strategic intelligence management ─ Guidance 2020
ISO 56007 Idea management ─ Guidance 2021
ISO 56008 Metrics ─ Guidance 2021
表1:ISO 56000シリーズ。中心である56002が2019年7月に発行されている

強制ではないが認証の設置を想定

 なお、ISO 56000は、規格といっても準拠しなければならない決まり事ではなく、ガイダンス規格である点に注意が必要だ。ガイダンス(推奨事項)をまとめたものであり、実行は強制されない。一方で投資家や政府助成金、パートナーからの判断に役立つよう、ISO 9000やISO 27000など他のISO標準と同じく認証の設置も想定される。この点が前述した強力なツールになる根拠の1つだ。

 上記の表1に表示したように、2019年2月にISO 56003(Tools and methods for innovation partnership ─ Guidance)とISO/TR 56004( Innovation Management Assessment ─ Guidance)が発行され、7月にはアイデアの創出から市場での販売に至るイノベーションマネジメントシステムのすべての面をカバーする56002が登場した(ISO「SHAPE A NEW FUTURE WITH INNOVATION MANAGEMENT STANDARDS」)。タイトルから推察できるように、中心となるのはISO 56002。詳細はともかく、ISO 56000には合計10の条項(Clause)がある。

条項1 スコープに関するもの。この標準は、あらゆる組織に適用できる
条項2 この標準の使用をサポートするほかの標準への参照
条項3 この標準で使用される用語と定義
条項4 人、プロセス、テクノロジーから成る組織のコンテキスト
条項5 リーダーの必要性とその役割、責任
条項6 プランニング(計画)。リスク分析を含む
条項7 サポート。イノベーションを可能にする知識や能力、IT基盤、コミュニケーションなど
条項8 オペレーション。機会の特定、データの収集と分析、デプロイなど
条項9 パフォーマンス評価
条項10 改善(インプルーブメント)

 条項4と5がイノベーションの実践主体に関する標準、6~10がイノベーションのプロセスに関する標準。プロセス面では7をセンターにして、6、8、9、10がPDCAになっているイメージである。一方、これを受けて経産省はイノベーション100委員会と共同で2019年10月、「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO 56002)を踏まえた手引書~」をとりまとめた。

●Next:イノベーションを実現するための12の行動指針とは?

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