[戦略的人事の要「HRTech」を理解する]

世界的トレンドはAIと「エクスペリエンス」─注目を集めるHRTechの現在地:第1回

2020年2月17日(月)秋葉 尊(オデッセイ 代表取締役社長)

少子高齢化や労働人口の減少を背景に、人事や人材関連の業務とAIやビッグデータ、クラウド、RPAなど、最新のテクノロジーを組み合わせた「HRTech(Human Resources Technology)」が注目を集めている。人事ソリューションの導入支援に豊富な経験を持つオデッセイ 代表取締役社長の秋葉尊氏が、HRTechの現在と未来を解説する。第1回となる今回は、世界的なイベントを通してHRTechのトレンドを紹介、さらに日本の現状を解説する。

 最近、いろいろなメディアで「HRTech」の文字を見かけることが多くなった。というよりも、「〇〇Tech」という言葉が流行りのようだ。なかでも、金融のFinTech、教育のEdTech、健康のHealthTechなどはよく見かけるのではなかろうか。意味合いとしては、それぞれの分野・業界において最新のテクノロジーを駆使した取り組みやソリューションを指している。

 HRTechも同様で、Human Resources(人事)とテクノロジーを組み合わせた造語だ。企業における人事関連の課題を、AIやビッグデータ、クラウド、RPAなど最新のテクノロジーで解決するソリューションという意味合いで使われている。従来の人事管理/人材管理システムではカバーしきれなかった領域の自動化を担っているほか、より戦略的な人事政策を支援するソリューションとも言える。

従業員体験や応募者体験の向上が狙い

 具体的なHRTechの活用例は次回以降で詳述するが、先に、HRTechの世界的なトレンドを押えておきたい。最先端の動向を知りたければ、「HR Technology Conference & Exposition」(以下HRTC)は外せないだろう。毎年秋に米国で開催されている世界最大規模のHRTechイベントで、2019年は22回目として、10月1日~4日の会期でラスベガスで開催された(写真1)。

写真1:2019年10月にラスベガスで開催された「HR Technology Conference & Exposition」(写真提供:オデッセイ)

 そのイベントに、筆者は2018年、2019年と視察に行ってきた。その中で最近のトレンドを示すテーマとして特に目についたのが、「Experience(体験)」というキーワードだった。具体的には、従業員のモチベーションを高めて離職を抑制することなどを目指す「Employee Experience(従業員体験)」、あるいは、採用応募者の入社確率を高めることを目的とした「Applicant Experience(応募者体験)」に関連した各社の取り組みだ(図1)。

図1:HRTechトレンドのイメージ(出典:オデッセイ)
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 最近日本でも注目されている「従業員エンゲージメント」という言葉がある。これは、会社への共感や仕事への貢献度など、会社と従業員の結びつき、関係性を示すものだ。Employee Experienceは、この従業員エンゲージメントと密接な関係にある。

 Customer Experience(顧客体験)が、顧客が企業ブランドとのあらゆる接点を通じて受ける満足感や体験がもたらす価値を意味するように、Employee Experienceは主に、企業とのあらゆる接点で発生する経験が従業員にもたらす価値のことを指している。仕事の内容や報酬だけでなく、オフィスの雰囲気や健康状態、福利厚生、制度などさまざまな要素が含まれる。

 例えば、仕事が充実している、満足のいく報酬が得られている、オフィス環境が良い、人間関係が良い、健康状態が良いなど、会社での“良い体験”が価値となる。その結果、従業員が会社の方向性に共感し、貢献しようという意欲が湧き、仕事へのモチベーションが高まる。つまり、従業員と会社の関係性が深まり、従業員エンゲージメントの向上につながる、というわけだ。

4つの視点でエクスペリエンスを管理

 Employee Experienceの代表的な機能と印象に残ったソリューションを挙げてみたい。まずは従業員エンゲージメントを定期的に計測、分析し課題を抽出、対策を講じるソリューションだ。筆者が注目しているソリューションは、独SAPが2018年に約80億ドル(約8700億円)で買収した米クアルトリクス(Qualtrics)のエクスペリエンスマネジメントツールである(画面1)。

画面1:Qualtricsの「デジタル管理」画面(出典:Qualtrics)
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 Qualtricsは、従業員のみならず、さまざまなエクスペリエンスの管理を標榜したソリューションで、従業員(Employee)、顧客(Customer)、製品(Product)、ブランド(Brand)の4つの視点でエクスペリエンスを調査、分析できる。従業員の視点ではアンケート調査によるエンゲージメントの測定と要因分析機能がベースになる。

 続いては、Employee Experienceを向上させる仕組みの1つで、仕事の評価とは関係なく従業員間で活躍を認めた従業員を互いに表彰するレコグニション(Recognition)を挙げたい。具体的なソリューションとしては、レコグニション単独のソリューションではなくタレントマネジメント等のシステムに付随しているケースが多い。

 レコグニションの例として、非常に世話になった同僚や何かしらの業務に大きく貢献した社員に対し、感謝の意を伝える意味でバッジのようなものを送るためのアプリなどが挙げられる。同僚から「評価された」「賞賛された」と認識することで、やりがいを感じEmployee Experienceの向上につながる仕組みになっている。

AIチャットボットで応募者とコミュニケーション

 最後は、採用応募者のApplicant Experienceを向上させるソリューションを取り上げたい。Applicant Experienceは、応募者が選考期間中に的確で配慮のあるサポートを受ける(良い体験をする)ことで、入社意欲が向上し入社確率を高めるといった効果が狙いだ。

 大量の応募がある企業の場合、採用担当者の手が回らずコミュニケーションが薄くなり、応募者の関心を低下させてしまうことが多々ある。Applicant Experienceは、AIチャットボットなどのテクノロジーを利用して、タイミングよく応募者と有効なコミュニケーションを取り、質問に対しても丁寧かつ的確に対応させる。これにより応募者のエンゲージメントを高め入社意欲を向上させる。採用選考中の人事部の対応を支援する仕組みになる。

 具体的なソリューションとしては米アリーオー(AllyO)が提供する採用自動化プラットフォームが挙げられる。AllyOは、AIチャットボットが応募者とコミュケーションを取ってきめ細かなサポートをするだけでなく、会話を通じて応募者のポテンシャルを計測したり、面接日時の調整をしたりすることができる。また、どんな時間帯であっても、AIチャットボットがリアルタイムで対応することで、応募者のストレスを溜まらせないこともApplicant Experienceの向上につながる。

 AllyOのように、現在のHRTechではAIの活用が著しい。AIはHRTechにかぎらないITの大きなトレンドだが、HRTCでもこの傾向は顕著に見られた。これまで人が行っていた採用や評価にAIを活用することでより公正な結果が得られる、膨大なデータからAIが最適な人材を選び出すなどAIを組み込んだ具体的なソリューションがいくつも登場してきている。2019年のHRTCでは450社の出展のうち2割弱にあたる83社がAI関連のHRTechソリューションを出展していた。実際、AIというカテゴリーが2018年に新設され、その後出展が急増していることがマーケットの関心の高さを表している。

従業員コーチングのスタートアップがグランプリ

 HRTCでは毎年恒例でピッチフェスト(Pitchfest)が開催されている。事前に選抜されたスタートアップ企業30社が開催期間中に自社ソリューションのプレゼンを行い、投票によりグランプリを決定するコーナーだ。今回のピッチフェストでは、AIを活用して従業員へのコーチングを行うソリューションを発表した米パイロット(PILOT)がグランプリを受賞し2万5000ドル(約270万円)の賞金を手にした(写真2)。

写真2:ピッチフェストの模様(写真提供:オデッセイ)

 コーチングというのは、主に管理者が社員一人ひとりとコミュニケーションを取り、個々の目標達成に必要な知識やスキルなどを明確にして自発的行動を取るように促す人材開発手法。PILOT CoachingはスマホやPCを利用し、週に10~15分のコーチングを受けた結果についてインパクトを分析し、次のコーチングに反映する。AIが各社員へのコーチング結果を分析し、その結果を次回以降のコーチングに反映することによって、コーチング担当者の負荷を大幅に軽減するだけでなく、コーチング精度の向上も実現するソリューションとなっている。

 私の知る限りAIがをコーチングのソリューションに組み込んだ例は他にないので、その斬新さが評価されたのだと思う。

●Next:HRTechへの期待値が高い業務は?

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