[市場動向]

IoTエッジ特化のRTOS新版とCSIRT、そして都市OSへ─現在のTRONプロジェクト注力領域と"その先"

2020年1月29日(水)杉田 悟(IT Leaders編集部)

坂村健氏(東洋大学情報連携学部長)を中心に、1984年に「TRONプロジェクト」が始動して36年。同プロジェクトによって研究開発が続けられてきたTRON系の組み込みOSは、自動車や携帯電話をはじめさまざまな製品に搭載されてきた。今やメインストリームのIoTは、坂村氏が従前掲げてきたコンセプトとの共通項が多く、IoT/エッジコンピューティング時代のプラットフォームへと主戦場をシフトしつつある。2019年12月開催の年次イベント「TRONSHOW」で坂村氏が語った、プロジェクトの進捗や自身の取り組み、2020年代に向けての展望などをお伝えする。

TRONの最新OSはIoTのエッジノード向けに最適化

写真1:トロンフォーラム会長で東洋大学情報連携学部長を務める坂村健氏

 μT-Kernel 3.0は、IoTのエッジノードでの使用を想定して設計されたTRON仕様リアルタイムOS(RTOS)の最新版。RTOSの国際標準であるIEEE 2050-2018規格に準拠している。小容量のROM/RAMで動作し、MMU(メモリー管理ユニット)を持たないシングルチップマイコン向けRTOSとなっている。

図1:μT-Kernel 3.0のシステム構成(出典:パーソナルメディア)
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 2018年、TRONプロジェクトが開発を進めてきた「μT-Kernel 2.0」をベースとした国際標準「IEEE 2050-2018」が、IEEE(米国電気電子学会)標準のIoTエッジノード向け国際標準OS仕様として正式に採用された。これを受けて坂村氏が次世代の組み込みノードのOSの研究をするために立ち上げたプロジェクトがT3。そのプロジェクトで開発した新たなOS仕様がμT-Kernel 3.0だ。仕様はGitHubで公開されている(関連記事トロンフォーラム、TRON仕様のエッジノード向け組み込みOSをGitHubから一般公開)。

 μT-Kernel 2.0は、MMUを持たない小規模マイコン向けに開発された汎用向けのRTOS。これに対してμT-Kernel 3.0は、IoTエッジノード向けに最適化されたRTOS。μT-Kernel 2.0にはあった、プロセス管理機能や仮想記憶を実現するための機能が省かれているほか、μT-Kernel 2.0と高い互換性を維持しつつ、最新のマイコンへの移植性を高めた仕様となっている。

 トロンフォーラムはμT-Kernel 2.0の知的所有権をIEEEに完全譲渡しており、今後μT-Kernel 2.0のメンテナンスはIEEEが責任を持って行う。トロンフォーラムはその完全上位互換版であるμT-Kernel 3.0の開発に注力していくことになる。

組み込みのCSIRTを目指すIoT脆弱性センター

写真2:TRON IoT脆弱性センター(TIVAC)(出典:トロンフォーラム)

 IoTのセキュリティが注目されるなか、IoTのエッジノードを対象にした攻撃に対応するための組織として「TRON IoT脆弱性センター(TIVAC)」(写真2)を設立した。

 IoTの普及は一般家庭にも及び、今後家の中にはスマート家電が増えてくる。そのスマート家電、サイバー攻撃を受けるリスクがあり、それに伴う実被害も想定される。例えば、スマート家電がクラッキングされると、攻撃者に住人が在宅しているかどうかがわかるようになり、在宅していない時を空き巣に狙われてしまう恐れがある。

 「エンタープライズ領域にはCSIRT(Computer Security Incident Response Team)などインシデント情報を共有するための組織や仕組みがあるのに、組み込み領域でIoTノードを守るための体制が確立していない」と考えた坂村氏が設立したのがTIVACだ。トロンフォーラムはIEEEの技術パートナーになるなど世界的に知名度が高く、組み込みに関する情報を収集し易い立場にある。組み込み領域の重大なインシデント情報を入手したらいち早く周知する活動を行っていく。

 坂村氏が、トロンフォーラムの知名度の高さを象徴する例として挙げたのが、2019年の「URGENT/11」におけるDHS(米国国土安全保障省)とのやり取りだ。URGENT/11は、米国のセキュリティベンダーであるArmisが2019年7月に公開した、組み込みOS「VxWorks」についての11件の脆弱性のこと。VxWorksは米Wind Riverが提供する業界標準的なRTOS。

 1度採用されると何十年にもわたって機器に搭載されるのが組み込みOSの特徴。そのため、脆弱性が見つかったのは現行バージョンではないものの、対象となるバージョンのOSは現在でも億単位の機器に搭載されている。

 URGENT/11を重大な脅威と考えたDHSは、米国の関連団体に緊急警告を出した。日本で唯一その緊急警告を受けたのが、トロンフォーラムだったという。

 TIVACでは、このようなトロンフォーラムのポジションを活用して、また、「TRONは組み込みコンピューターの代名詞」との自負から、TRON以外の組み込みOSについてのインシデント情報も積極的に公開していくとしている。将来的には、組み込み業界におけるCSIRTを目指す考えだ。

●Next:Society 5.0を実現する「都市OS」とは?

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