[技術解説]

ソフトウェアの「所有」から「利用」へ─SaaS導入によって得られるメリット

SaaSが企業を変える日

2007年6月25日(月)IT Leaders編集部

SaaSが注目を集めている。インフラとしての十分な整備を終えつつあるインターネット上で、従来のソフトウェアが別なものに変質しようとしている。開発、流通、利用において新しい形式を獲得したソフトウェアは、これからどのように変化し、どこへ向かおうとしているのだろうか。 第1回となる今回は、SaaSの基本的な意味を押さえ、SaaSユーザーとなる企業にもたらすメリットを紹介する。

SaaS-ソフトウェアの「所有」から「利用」へ

SIによる独自開発やパッケージ流通が主体であったソフトウェアは、ベンダーにとっても、ユーザーにとっても「製品」だった。開発・製作のすべてをベン ダーが受け持ち、ユーザーはSIベンダーなどからソフトウェアを買い、自社のコンピュータにインストールして使用していた。ソフトウェアの使用ライセンス という意識を一般のユーザーが持つようになったのは、それほど昔の話ではない。たとえそれが使用というライセンス形態であっても、ユーザーから見たソフトウェアの「購入」→(インストール)→「所有」という意識は変わらなかった。

しかし、ソフトウェア流通にインターネットを利用するASPに注目が集まり始めたころより、ソフトウェアに対するユーザーの意識は「所有」するものから 「利用」するものに変わった。この「所有」から「利用」への移行は、ASP、SaaSに共通した、それ以前のソフトウェアとの大きな違いだ。

「所有」から「利用」へのパラダイムシフトが起こる原因としては、現在のコンピュータリソースおよびそこに抱える情報量が、すでに個人や企業の管 理・処理能力を超えたレベルに達しているためだと考えられる。多くの企業が、管理・運用コストの増大、リテラシーの問題(ハード、ソフトのバージョンアッ プ、トラブルに対応できない)、高度なセキュリティが確保できないといった課題を抱えている。これがASPやSaaSを利用することによって、

  • 導入・運用コストの低減
  • 高度なITの技術・運用知識が不要
  • セキュリティの向上

 といったことが期待されるわけだ。

SaaSとASPの共通点と相違点

SaaS(Software as a Service)を説明しようとしたとき、まず問題になるのがASP(Application Service Provider)との違いだろう。インターネット経由でサーバーにアクセスして利用するソフトウェアという点は、SaaSもASPも同じではないかと思う人は多い。

それも当然で、ベンダーが所有するインフラで稼働するアプリケーション機能を利用するという観点からは、両者に違いはないように見える。SaaSベンダーといわれる当事者側においても、「ASP=SaaS=オンデマンドソフトウェア」といった表現もされているし、そうしたソフトウェアの提供形態を指して「SaaS/ASP」という並列表記も見られる。

実際、平成19年4月に特定非営利活動法人であるASPIC Japanと総務省が協同で作成した「ASP・SaaSの普及促進策に関する調査研究」報告書によれば、一義的な唯一の定義は存在しないとしながらも、ASPとは、「特定及び不特定ユーザが必要とする機能を、ネットワーク通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル」と定義している。そして、ASPを「ASP・SaaS」と同義語として用いるとしている。

利用形態やビジネスモデルという点からすれば、これも1つの見識であり、ASPもSaaSもソフトウェアをサービスとして提供するという基本的なコンセプトは同じである。SaaSは、ASPの発展した形態とみなすことには異論はないだろう。

しかし、Salesforce.comのサービスがSaaSの代表的な例だとすると、これまでASPと呼ばれていたサービス(これ自体千差万別で、Exchange ServerのホスティングサービスもASPであるし、特定業種の専用アプリケーションのASPもある)とSaaSと呼んでいるものには、それなりの違いも存在すると考えている。

企業導入におけるSaaSのメリット①
導入コストの低減

SaaSを導入する際の企業ユーザーのメリットを見ていきたい。といっても、ここで挙げられるメリットは、今のところASPとSaaSを区別する必然性はない。もちろんネットワークの高速化や、サーバーの高パフォーマンス化が背景にあるため、ASPという概念が出てきた当時に比べ使い勝手は格段に向上しているが、多くの特徴は変化していない。

企業にとってのASP/SaaSを利用するひとつのメリットは、導入に際しての敷居が低いことやすぐに利用が開始できる点だ。ハードウェアの低価格化が進む一方で、ビジネスソフトウェアのライセンスは相対的に高価になってきている。定期的な買い換えが当然のコンピュータに対して、定番となったアプリケーションはバージョンアップしながら使われ続ける。ベンダーサイドでは、新規の販売本数とバージョンアップ分の本数を予想し、必要な売上確保を図るわけだが、コンピュータ普及期とは異なり、新規購入本数が爆発的に増大するとは考えにくい。数年に一度のバージョンアップがある前提で、新規導入価格とバージョンアップ料の差も小さくなってきている。こうしたビジネスアプリケーションを社員の人数分のライセンスとなると、100人程度の企業でも、一度に数百万円程度の出費となるのは珍しいことではない。

これに対してSaaSの場合は、導入に際して、多くの場合月額(あるいは年額)利用料で済み、契約期間中はバージョンアップ料金を必要とせずに常に最新バージョンの利用が可能だ。前払いライセンス料を気にせずに、運用を中止することもできる。また、利用者の増減に対応した処理も時間がかからず、その場合全体でのコストの変動は微々たるものだ。

ただ、確かに導入コストの低いのはメリットだが、企業規模とライセンス価格によっては、長期的にはライセンスモデルとSaaSモデルが逆転するケースも考えられる(図1)。もっとも、市場の変化の激しい昨今において、3年の減価償却を強いられるライセンス購入より、ASP/SaaSモデルのほうが、経営的にはメリットがあるともいえる。


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