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経営視点の5つの指標がIT投資の成否を分ける

Forrester Research's Analysis

2008年11月21日(金)フォレスター・リサーチ

IT投資の効果をどのように測定すべきか。CIO(最高情報責任者)が常に問われ続けてきた課題である。測定のキーポイントは指標の設定。ビジネスの成果に最もインパクトが大きい指標に限定して選ぶことが重要だ。ビジネス戦略に合致しているか、予算配分のバランスが崩れていないか、サービスレベルは十分に確保できているか。経営視点で設けた5つの指標がIT投資の成否の鍵を握っている。
※本稿は米フォレスター・リサーチ発行の記事「The Five Essential Metrics For Managing IT」を翻訳、編集して掲載しています。

ITは経営ツールであるにもかかわらず、IT投資の効果を測るための指標は、経営にダイレクトに結びついていないことが意外に多い。例えば、WAN(広域ネットワーク)の可用性やサーバーのダウンタイムなどを指標にする。

こうしたIT視点の指標では、技術を評価することは可能だが、ビジネスへの貢献度を把握するのは難しい。評価結果を基に、ITがもたらすビジネス上のメリットについて具体的に説明することも容易ではない。結果として、企業の多くがITコストをどれだけ削減できるかという分かりやすい指標に目を奪われて、ITコストの削減を目指し続けることになる。

この流れを断ち切り、真に有効なIT投資を実現するためにCIOは次のような視点の評価指標を盛り込んだスコアカードを作らなければならない。

マネジメント層が理解でき、かつ業務に関連する内容であること

ITとビジネスは違う言語を用いている。サーバーの可用性、ネットワークのスループット、ヘルプデスクのコールボリューム、設備の稼働率といったIT視点の指標は、マネジメント層には馴染みの薄い言葉だ。これらの指標はビジネスアプリケーションの可用性や事業を支援するコストなど、事業分野の担当者が理解できる言葉に翻訳しなければならない。技術の詳細はITの中だけにとどめておくべきである。

ITの導入をビジネスの成果に結びつける

マネジメント層は新製品や新サービスの導入、顧客のロイヤリティや満足度の向上、売上総利益の向上、マーケットシェアの拡大に注意を払っている。そのためITの評価指標もこうしたビジネス成果に直結していなければならない。特に、ITの導入がビジネスの成果にどれだけ貢献するかを示す必要がある。

5つの指標でIT貢献度の全体図を示す

IT投資の効果を測定するためのスコアカードは、大きく5つの指標で構成する。1ビジネス戦略に沿ったIT投資、2IT投資のビジネス的な価値、3IT投資の内訳、4重要なビジネスサービスの可用性、5運用管理のパフォーマンスである。

これらの指標を用いた評価は取締役会や経営幹部だけでなく、ITステークホルダーに対してもブレることなく伝わる。立場の違いに関係なくバランスが取れた評価が可能になるわけだ。

ここで挙げた5つの指標による評価は、簡単に思えるかもしれない。しかし、これらの指標でIT投資の評価をするには、高いレベルでデータ収集や報告をするITマネジメント力と成熟したプロセスが求められる。それぞれの指標で評価するポイントをみていこう。

指標1─ビジネス戦略に沿ったIT投資

IT戦略とビジネス戦略が緊密に結びついていなければ、ビジネスの価値を継続して生み出すことはできない。以前から最重要課題として指摘されてきたことだが、今でも変わっていない。実際、情報マネジメント協会(SIM)が2007年に実施した調査では、回答者の42%が「IT戦略とビジネス戦略の連携」を課題として挙げ、全体の第2位にランクインしている(SIMはITのビジネス価値向上を目指して、企業のCIOやIT分野のエグゼクティブ、コンサルタントなどで構成する組織である)。

ここでいう連携とは、ビジネス戦略とIT戦略のどちらか一方から順番に立案するのではなく、同時並行で立案することを意味する。ITのポートフォリオは、戦略的なビジネス目的やテーマを反映していなければならないということだ。

2つの戦略が連携しているかどうかはシンプルな図を使って表現できる。例を図1に示す。この図には4つの重要な要素が含まれている。

画像:図1

まずは戦略的に重要なテーマである。図1の例では「収益の増加」、「コストの効率化による利益幅の拡大」、「サービス品質の向上」、「戦略的提携の拡張」、「顧客向けアプリケーションの拡張」という5つが、重要な戦略的なテーマであることを明示している。

第2の要素はIT投資のポートフォリオである。図1では、ポートフォリオは大きく2つに分かれている。1つは、コンプライアンスまたは類似の理由による必須の投資。すなわち自由裁量で決められない領域の投資である。2つめは、5つの戦略的テーマに基づき自由裁量で決める投資だ。

第3の要素は投資の規模感。図中の「円」の大きさが、ポートフォリオに占める投資額の比率を示している。この例では「コストの効率化による利益幅の拡大」に関連する投資が最も高いレベルになっており、最重要課題に位置づけられていることが一目瞭然に分かる。円の大きさが戦略の重要度にそぐわない場合は、IT投資のポートフォリオを調整し、資金を効率化関連のプロジェクトから別のプロジェクトへと移すといった軌道修正ができる。

そして4番目の要素が投資対効果の期待値である。図1は投資の規模に加え、期待される効果を戦略的テーマごとに示している。例えば左から1番目に示した必須の投資で期待される効果は非常に低い位置にあるのに対し、左から2番目に示す収益増に着目した投資によって期待される効果は非常に高い。この図を見れば、経営マネジメント層とITの幹部の両者は効率化に向けた投資から、収益増を目的とする投資に軸足を移すべきだと合意できる。

指標2─IT投資の累積的なビジネス価値

IT投資の効果測定に用いる第2の指標は、ポートフォリオ全体の利益である。図2のようにIT投資全体の累積利益に注目することで、IT投資がビジネスにもたらす価値を総合的に測定し、効果を判断することが可能になる。すべてのIT投資案件を正味現在価値(NPV)で評価した単純な図だが、この中からIT投資がビジネスに与えるインパクトについて、いくつもの情報を読み取ることができる。

画像:図2

例えば最大の利益が分かる。図2のL1の部分である。61件のプロジェクトを通じて、合計4億1000万ドルの利益が得られていることを示している。

実際の値を読み取ることもできる。L2は、71件のプロジェクトによって得られた利益が3億2500万ドルであることを表している。つまり、一部のプロジェクトのNPVがマイナスになっており、最大値よりも少ない利益しか得られていないことを意味する。

L4は失われた価値を示す。図2の例では、L3の右側にある10件のプロジェクトによって、合計で8500万ドルの価値が失われていることになる。図2からは、もう1つ興味深い事実を発見できる。プロジェクトごとのビジネスへの貢献度の違いだ。L5を見てほしい。L5は、全体で71件あるプロジェクトのうち、10件のプロジェクトだけで利益全体のほぼ80%を上げていることを示している。大半のプロジェクトの利益は非常に少ないか、あるいはマイナスということだ。

この事実は経営やITの幹部からさまざまな意見を導き出し、IT投資のポートフォリオを見直す格好の判断材料になるだろう。例えば、利益がマイナスであることが明らかな62番目から71番目のプロジェクトをなぜ継続しているのか。コンプライアンスや規制などの理由で必須のプロジェクトなのか、あるいは単純に時間と金を無駄にしているのか。

11番目から61番目のプロジェクトはどうだろうか。10番目までのプロジェクトに比べれば、利益率が小さいプロジェクトが多く含まれている。それらのプロジェクトを真剣に見直していくことが、IT投資のポートフォリオのバランスを整え、利益を最大値に近づけることにつながる。

指標3─新規とメンテナンスの投資内訳

第3の指標は全体のIT投資についてのものだ。業界にもよるが、IT予算は収益の2%から15%を占め、設備投資全体の半分以上を占める。しかし企業の多くは毎年、既存システムを維持するための予算を増やし続けるサイクルにはまってしまい、新規システムへの支出は年々減っている。我々の調査では、平均的な企業はIT予算の70%から80%をメンテナンスに費やしており、新たなシステムへの支出はわずか20%から30%に過ぎないことが分かっている。

一方、ベストプラクティスを持つ企業ではメンテナンスと新規の支出率が60%対40%になっている。50%対50%まで新規への支出率を上げている企業もある。この比率はIT投資の効率と、実際に価値を生み出しているかどうかを判断するうえで大切な指標となる。

図3は新規のシステムへの支出と、メンテナンスのための支出の比率を四半期ごとに表している。2007年の数値は実際の結果で、2008年は目標値である。この企業は2007年当初に新規20%、メンテナンス80%だったIT投資の支出率を、2008年末までに32%対68%にしようと計画している。

画像:図3

この企業の収益が10億ドルで、そのうち5%をIT投資にまわしていると仮定すると、IT予算の総額は5000万ドルとなる。2007年当初は20%を新規のシステムに支出していたので、実際の投資額は1000万ドルだったことになる。新規への支出率を32%まで引き上げることができれば、その投資額は1600万ドルまで増える。つまり、新規と既存への支出率を見直して、予算の12%をメンテナンスから新規に振り向けることで、IT予算を増やさずに新規のシステムへの支出を60%増やせる計算だ。新規のシステムに充当する600万ドルは、運用コストを削減することなどで捻出する。

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