[市場動向]

進化を続けるサプライチェーン

半歩先ゆくサプライチェーンマネジメント(SCM)Part1

2008年12月25日(木)IT Leaders編集部

サプライチェーン改革の第2章が幕を開けた。2000年頃に始まった第1章の主役は、需要予測や生産計画の立案を支援する「計画系」のシステム。現在進行中の第2章では、サプライチェーンを構成する企業間でビジネスプロセスを統合して製品供給を柔軟に制御する「実行系」が中核になっている。Part1では、ユーザー企業の動向とサプライチェーン改革の方向性をまとめた。

全体動向
ユーザー企業のIT投資最重点項目はSCM分野

 2000年前後、製造業を中心とする大手企業が、大規模なIT投資を伴うサプライチェーン改革を盛んに進めてきた。シャープは200億円をかけて、世界規模でサプライチェーン改革を断行し、松下電器産業(現パナソニック)はサプライチェーン改革を基盤とする経営改革に1400億円を投じた。

 その頃に比べても、ユーザー企業のサプライチェーン改革の意欲は一向に衰えていない。製品を市場に供給するまでのプロセスを管理するSCMは、金融機関を除くほとんどの業種にとっての事業基盤、すなわち経営そのものだからである(図1)。

画像:図1
サプライヤーから小売業者まで、製品を市場に供給するまでの一連のモノと情報の流れをサプライチェーンと呼ぶ


 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2008」によると、今後の重点的なIT投資先としてSCM分野を挙げる企業が最も多い。調査に回答したJUAS会員企業627社のうち18%が、生産・在庫管理システムへの投資を最重要視している。内部統制やIT基盤整備の関連投資を最重点項目とした企業の割合を、6ポイント以上も上回る(図2)。

画像:図2
サプライチェーンマネジメント関連システムへの投資意欲が最も高い


 取り組みの内容も多様化している。遂行できない可能性がある計画を見つけ、原因と解決法を探る「イベント管理」、国内やグローバルの受注から生産、在庫にいたる状況を共有する「情報の見える化」、メーカーによる資材供給先や流通との「コラボレーション」などだ。特定の主力製品から複数の製品へと、管理する対象を広げる横展開も主要な流れの1つである。

最新事例
改革意欲が再燃、日本コカ・コーラなどが方針発表

 日本コカ・コーラは2008年10月10日、新たなサプライチェーン改革の取り組みを発表した。コカ・コーラナショナルビバレッジが一手に担っていた調達・生産・物流のサプライチェーン関連業務のうち、生産と物流を地域ボトラー各社に移管する。より現場に近いところでSCMを実践して、需要の先読みが難しい飲料市場に迅速かつ柔軟に製品を供給できるようにするのが狙いである。

 サントリーも清涼飲料やウイスキーなど約1000品目を対象に、サプライチェーン改革を推進している。製品の需要に応じて生産計画を毎日見直せるようにするのが骨子。そのためにSCMシステムを刷新した。

 SCMの強みを生かして新サービスに踏み切るケースも出てきた。楽天は2008年10月23日、ネットショッピングモール「楽天市場」で新サービス「あす楽」を始めた。8万品目を超える日用品、生鮮品を注文の翌日に顧客に届ける。このサービスは楽天市場に出店する店舗のうち、独自SCMによって受注から在庫管理、配送まで一連の業務の効率化に成功した店舗が下支えしている。

 オフィス用品のSCMで先進的な仕組みを持つアスクルも、2008年4月に新サービス「SOLOEL(ソロエル)」を開始した。ソロエルは間接財購買のアウトソーシング・サービス。アスクルとサプライヤーを結ぶSCMを基盤に、豊富な品揃えを維持したまま間接財の集中購買を実現できるのが特徴だ。集中購買では一般に、対象品目を絞り込むことでコストメリットを出す。だが、現実には部署ごとに使い慣れた商品を別途購入してしまい、期待通りの集中効果を出せないケースが少なくない。この問題を解決するソロエルはサービス開始から半年で、すでにアサヒビールのグループ会社31社に加え、オムロンのグループ会社35社での採用が決まった。

詳細
プロセス全体の見える化がカギ

 2000年頃は、売れ行きのトレンド、つまり需要を予測することがSCMの主目的だった。正確な需要予測に基づいて生産や物流の計画を立てれば在庫を最適化できる、という発想が根底にある。そのため需要予測を基に各種計画を立案するSCP(サプライチェーン計画)ツールによる「計画系システム」に焦点が当たっていた。しかし今は、需要予測以前に、実績を見える化することがサプライチェーン改革に取り組む企業の大きな目的になっている。

 実績の見える化とは、サプライチェーンのプロセス全体でモノの動きを把握することを指す。実は、製品の供給をきめ細かくコントロールできるレベルまでモノの流れを把握している企業は、意外と少ない。

 サプライチェーンのプロセス全体で実績を見える化できなければ、余剰在庫を抱えるリスクが高まる。コカ・コーラの地域ボトラー会社ではかつて、新製品の発売後しばらくして在庫が山積みになったことがある。小売業者の店頭に製品が山積みになっていることを把握できなかったのが原因だ。自社の物流センターから大量に製品が出荷されたことから「売れている」と判断して生産を続けてしまった。

●Next:SCMシステムを構成するテクノロジー

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