[技術解説]

SaaSがSCMに与えるインパクト

半歩先ゆくサプライチェーンマネジメント(SCM)Part3

2008年12月25日(木)本好 宏次

米国では、多数の企業によるSCMを実現する手段として、SaaSを活用するケースが増えている。受発注業務、需要予測、VMIを含む在庫管理、 物流・製造ラインの可視化といったサービスを提供するSaaSベンダーが登場していること、多数の企業を結ぶ場合、外部のサードパーティにアウトソースする方が現実的であることが、背景にある。
本記事は米ガートナーが2008年7月28日に発行した「The Impact of SaaS on Multienterprise SCM Is Growing」を翻訳・編集して掲載しています。アンドリュー・ホワイト (監修:本好宏次 ガートナージャパン 主席アナリスト)

現状
SaaSの採用が加速

サプライチェーンの領域では、SaaSを活用するのは難しいという見方がある。SaaSはビジネスプロセスを第3者(サードパーティ)に委託する方法だと考えられてきたからだ。実際、SaaSはSFA(営業支援)やHCM(人的資源管理)のように、これまでプロセスの境界が明確な業務で広がってきた。これらの業務は、他の業務からの独立性が高く、サードパーティに委託しやすい。

しかし現実には前後の工程が密接に結びつくSCMにおいても、SaaSの提供、および利用が広がりつつある。ガートナーが調査したところでは、過去2年間に物流システムの刷新プロジェクトを実施した企業の約50%が、外部のベンダーが提供するSaaSを活用している。ほかにも次のような目的でSaaSの活用を検討する企業が増えている。

  • サプライチェーンの可視化
  • パートナーやサプライヤーのパフォーマンス管理
  • 需要予測
  • 協働作業による計画立案
  • サプライチェーン計画の立案とVMI(納入業者による在庫管理)

これを受けて、サードパーティ(SaaSベンダー)側の動きも加速している。そこには2つのタイプがある。比較的最近登場したeマーケットプレイス(オンライン市場)から進化したビジネスプロセス・ハブ(BPH)と、もっと古くからあるVAN(付加価値ネットワーク)が発展したビジネスプロセス・ネットワーク(BPN)である。

Wal-MartやDellのようにBPHやBPNを自前で運用している企業もあるが、増えているのがE2openやSterling Commerce、Wesupplyといった専業ベンダーである(本誌注:前2社は日本法人がある)。彼らは多企業間の受発注、需要予測管理、在庫管理(ベンダーによる在庫管理=VMIを含む)、 物流・製造ラインの可視化などのサービスをSOAに基づいて実装し、SaaSの形態で提供している。これによりサプライチェーンを構成する複数の企業は、共通のデータに基づいて業務処理を進めることができる。これは多企業間が連携するよい見本と言えるものだ。

多企業間BPPの技術要素

一方、多くの企業のCIOの立場から見ると、BPHやBPNを利用するためには、まず現在の情報システムのポートフォリオを見直す必要が出てくる。具体的には、自社独自のビジネスプロセス・プラットフォーム(以下BPP)を管理するのではなく、複数の企業にまたがるサプライチェーン全域を対象にした、「多企業間BPP」に移行する必要が出てくるのだ。

多企業間BPPの実現に向けたロードマップを示したのが図5である。ビジネスインテリジェンス(BI)のプラットフォームやマスターデータ管理(MDM)、ビジネスプロセス管理(BPM)といった要素の見直しが必要になる。このうちいくつかはE2openなどが提供中だが、より多様で成熟したサービスが今後4年以内に提供される見通しだ。

画像:図5

ここで多企業間BPPには、次のような技術要素が含まれることに注意して欲しい。

  • 企業間のデータ統合ツール−BPNに含まれる技術
  • ビジネスアクティビティのモニタリング−企業間にまたがるビジネスプロセスの中でイベントがどのように実行されているかを追跡
  • ビジネスインテリジェンス(BI)−アプリケーションで再利用される基本的な分析レポートサービス
  • ビジネスプロセス管理(BPM)−企業間にまたがるビジネスプロセスの設計と改善
  • ビジネスサービス・リポジトリ−再利用可能なアプリケーションやデータの管理
  • マスターデータ管理(MDM)−企業間にまたがるセマンティクス(データの意味)の一貫性を確保
  • パッケージアプリケーション−汎用的なビジネスアプリケーション。BPHに含まれる技術
  • ポータルデバイス−BPPの活用および操作

機能要素
多企業間BPPに求められる機能

多数の企業間で利用するアプリケーションは、1社向けのアプリケーションと性質が異なることに注意すべきである。前者は、複数の企業をまたがった作業の協調や調整に関わる問題を解決する。一方、1社向けのアプリケーションは、その特定の企業が抱える問題だけを解決する。ある企業のアプリケーションをWebブラウザやインターネットを介して外部から利用できるようにするケースは、単独のアプリケーションに近い。ビジネスプロセスが特定の企業に閉じているからである。

複数の企業にまたがる複雑なビジネスプロセスを、単独のシステムで処理しようとする試みもあるが、試験運用の範囲を出ていない。製品コードなどを企業間で共通化しなければならないが、企業ごとにデータの持ち方が違うことが障壁になっているからである。

この問題を解決するのが、上述のBPH(ハブ)やBPN(ネットワーク)を提供するE2openのようなベンダーの提供するSaaSである。これらのベンダー企業によってサプライチェーンの販売側に対し、次のようなサービスが提供されることが考えられる。

  • (顧客との)データの同期
  • 分散型注文管理
  • 納期の回答
  • カタログの提供と検索
  • 協働作業による計画立案
    一方、購買側(調達側)では以下のようなSaaSがあるだろう。
  • 戦略的ソーシング
  • 需要予測と補充
  • 供給のパフォーマンス管理
  • サプライヤーに関する情報管理

このようなサプライチェーンの販売側と購買側のサービスは別個のものではなく、統合される方向にある。サービスを支える技術要素−プロセス、システム・アーキテクチャ、データなど−が同じだからだ。こうしたサービスが提供されるようになれば、企業はサイクルタイムの削減、収益や顧客サービスの向上、より迅速な製品の投入、在庫の削減など、複雑に関連するビジネスプロセスに隠れて実態が見えにくくなっているいろいろな面でメリットを享受することができる。

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