[技術解説]

企業間連携や製品・製造原価の把握へ─機能強化が加速するSCM製品群

半歩先ゆくサプライチェーンマネジメント(SCM)Part4

2008年12月25日(木)IT Leaders編集部

サプライチェーンは製品開発や資材調達、生産、物流、販売など、自社と取引先のあらゆる業務が関連する。それだけにSCMシステムを構成する機能は、需要予測や在庫補充計画をはじめとする「計画系」、生産や販売のプロセスを実行して実績を蓄積する「実行系」と幅広い。パート4では、外資系大手ベンダーと国産ベンダーの製品戦略をまとめた。

SCMシステムを構成する機能は大きく「計画系」と「実行系」に分けられる(図6)。計画系の代表的な機能は需要予測。過去2、3年の販売実績や出荷実績に基づいて将来の売れ行きを予測する。需要予測に応じて適正な在庫量を維持するための補充計画を立案する「在庫補充計画」、需要予測や在庫補充計画から生産量を算出する「生産計画」も計画系に含まれる。

画像:図6

実行系は生産や販売、物流のプロセス実行や、実行結果を管理する。例えば「販売管理」は、いつ、どの製品が、誰に、何個売れたのかに関する情報を管理する。ほかに生産拠点や物流拠点ごとに製品の在庫を管理する「在庫管理」、生産に用いる部品や梱包材を管理する「資材管理」などで構成する。

以前は計画系のシステムを充実させて、生産計画や販売計画の見直しサイクルを月次から週次に短縮することがSCMのメインテーマだった。しかし、ユーザー企業の取り組みを見ると、最近は実行系の整備を急ぐ企業が増える傾向がある。中でも、企業内だけでなく取引先を含むサプライチェーン全体のプロセスを管理する仕組みの実現が最大の関心事になっている。

SAP、オラクルはSCM機能を大幅拡充

SCMの分野では外資系ベンダーの製品を活用する企業が多い。米ガートナーの調べでは、SAPとオラクル、JDAソフトウェアが世界のSCMソフト市場で3強とされる。各社共にSCM分野で豊富な製品ラインナップを揃えていることが、シェアの獲得につながっていると言えそうだ(表1)。

画像:表1
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SAPジャパンは2008年4月、SCM向けの統合ソフト「SAP Supply Chain Management(SAP SCM)」の新版「SAP SCM 2007」の提供を始めた。

SAP SCMは需要予測機能や在庫補充計画など、サプライチェーンの各種計画機能を備える。新版では複数の企業が情報を共有しながら、サプライチェーンのオペレーションを実行するための「協業支援機能」を強化した。

具体的には、サプライヤーや生産委託先の企業との間で、生産計画や進捗状況、製品の需要などをWebベースで共有できる。調達計画や生産計画に大きな影響を与える製品の設計変更についても、同様にWebベースで情報を共有。サプライヤーや生産委託先が迅速に生産計画を見直せるようにした。

SAPジャパンはSAP SCM 2007と同時に、輸送管理ソフトを国内市場に初めて投入した。提供を始めたのは荷主から顧客までの輸送状況を管理する「SAP Transportation Management 6.0」。経路や日程に加えて、輸送コストや物流業者まで管理できる。

一方、日本オラクルは2008年8月、製造業向けにサプライチェーン全体の計画を可視化するソフト「Oracle Advanced Planning Command Center」を発表した。生産や調達の進捗状況と、需給バランスを関連付けて管理するのが特徴だ。製造責任者や工場管理者の迅速な計画変更に役立つという。

これに先立って、日本オラクルは7月、保守パーツの在庫管理ソフト「Oracle Service Parts Planning」の提供を始めた。保守パーツは必要な時期や数量が読みにくく、複数の拠点に少量ずつ保管しておく必要がある。このため在庫が散在し、管理が煩雑になりがちである。

Oracle Service Parts Planningはサービス拠点ごとに保守パーツの在庫を管理する。ある拠点でメンテナンスの依頼を受けた際、保守パーツの在庫が切れていれば、近隣の拠点の在庫を確認して引き当てることができる。

SCMソフトの市場では、外資系のSCM専業ベンダーの再編が進んでいる。ジェイ・ディー・エイ(JDA)ソフトウェアは2006年7月にマニュジスティックスを買収。今年8月11日にはi2テクノロジーズを買収すると発表した。マニュジスティックスとi2テクノロジーズはかつて、SCMの分野でSAPやオラクルを凌ぎ、2強を誇ったSCM専業ベンダーである。イオンやキヤノンといった国内の名だたる企業がマニュジスティックスやi2テクノロジーズの製品を導入している。

JDAソフトウェアは欧米では大手の小売業や消費財メーカーに多くの導入実績を持つ。国内での実績は多くなかったが、マニュジスティックスとi2テクノロジーズの買収によって、国内シェアを一気に拡大している。

高速MRPやスケジュール機能を充実

国産大手では日立製作所や富士通、NECが外資系大手同様、サプライチェーンの計画系を担う統合ソフトを提供している(表2)。

画像:表1
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日立製作所の「SCPLAN」は、販売計画や需給計画などSCMに必要な計画系の機能を一通り備える。目玉機能の1つはMRP(資材所要量計画)である。計画通りに製品を生産するために必要な資材量を計算するMRPは、システムの負荷が大きく計算に時間がかかる。SCPソフトを導入して生産計画を週次や日次で見直せるようにしても、MRPがボトルネックとなり需要変動に応じた柔軟な生産を実行できなくなる可能性もある。そこで日立は独自開発のMRPエンジンをSCPLANに実装。通常15日程度かかる規模のMRPの処理を、最短1日で実行できるという。

需給計画や調達計画、生産計画を立案する際に、計画の実行可能性を自動的に評価してリスクを解析する機能も備える。拠点の在庫が安全在庫の基準を下回ったり生産計画に対して調達が間に合わなかったりすることが想定されると、各種計画の管理画面で“問題”のプロセスを警告表示する。警告表示されたプロセスをマウスでクリックすると、前工程へ次々さかのぼりながら原因を特定する。

富士通の「GLOVIA/SCP」は、精密機械やハイテク機器など組立型の製造業に特化した生産計画機能を備える「GLOVIA/SCP Factory for Assembly」と、化学品や食品などプロセス型の製造業に特化した生産計画を立案できる「GLOVIA/SCP Factory for Process」がある。いずれも富士通の中堅企業向けERPパッケージ「GLOVIA smart」と連携して動作する。

NECの「EXPLANNER」も、自動車メーカー向け「EXPLANNER/Ja」や食品メーカー向け「EXPLANNER/Jf」など、業種ごとに複数の製品シリーズで構成する。計画の実行が難しいプロセスを特定し、工程をさかのぼりながら製品別に原因を探ることができる。

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