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セカンドライフ批評の裏で進化する3D仮想空間サービスの新潮流

2009年4月2日(木)箱田 雅彦

セカンドライフ(Second Life)の登場によって、一気に認知度が高まった「3D仮想空間サービス一時の真新しさがなくなり、最近は「失敗」や「誤算」を指摘する声も聞かれる。しかし、そんな批判の影で、3D仮想空間サービスは確実に洗練され続けてきた。オープンソースを使って、独自のサービスを提供する環境も整いつつある。セカンドライフや続々登場する新サービスの検証、技術開発に伴う業界動向を踏まえ、3D仮想空間サービスの将来展望を解説する。

 回線のスピードは遅く、通信コストは高い。加えて、パソコンのスペックは低い――。こうした制約があった時代、ネットで送受信する情報の中心はテキストだった。

 ところが、ここ10数年で状況は様変わりした。インターネットの高速化・低価格化が一気に進み、パソコンのスペックが以前とは比べものにならないほど高まったことで、今では画像や音声、動画がネット上を行き交う。さらには、「空間」さえもネットを介して配信できるようになった。ここで言う空間とは、3D仮想空間のことである。

 「3D仮想空間」と聞いて、真っ先に思い浮かべるものは何だろうか。ネット業界に関わる読者であれば、「セカンドライフ(Second Life)」を挙げる方が多いだろう(図1)。セカンドライフは2007年頃に話題となったので、非ネット業界に携わる方でも、ニュースなどで名称を聞いたことがあるかもしれない。

 3D仮想空間の実情を把握するにあたり、まずは多くの読者にとって聞き慣れたサービスであるセカンドライフについて見ておこう。

図1 2007年頃に話題となったセカンドライフの画面例

セカンドライフに個人と企業が一斉に注目

 セカンドライフは、米リンデンラボが2003年に開始した3D仮想空間サービスである。ユーザーは自身のアバターを操作して、他のアバター(ユーザー)と文字や音声でコミュニケーションを楽しんだり、モノづくりを進めたりできる。音声を使うボイスチャットでは、自身のアバターの右にいるアバターの声が右のスピーカーから聞こえるなど、音響面での3D化も工夫している。

 特筆すべきは、セカンドライフで使うアイテムの制作の自由度である。ユーザーはアバターの服や髪の毛、肌から、家具や家などさまざまなアイテムをオブジェクトとして制作し、スクリプトで挙動を制御できる。現実に存在するモノだけでなく、ないモノまで自身のアイデアで生み出せる楽しさが受け入れられ、2009年1月時点で1600万人を超える会員がセカンドライフの3D仮想空間を利用している。

 セカンドライフ内で流通する仮想通貨「リンデンドル(L$)」が、米ドルと換金できることも、セカンドライフが注目を集めた理由の1つだ。セカンドライフ内の不動産取引で100万ドル相当を売り上げたユーザーもいるという。クリエイティブなユーザーの中には、セカンドライフ内でオリジナルアイテムを作って販売する個人も多い。

 セカンドライフに注目したのは、個人だけではない。企業もセカンドライフを新しいビジネスインフラと位置づけ、相次いで3D仮想空間に支店をオープンしたり、キャンペーンに活用。そうした企業の動向は、連日のようにニュースで報じられた。

 ところが、である。最近はセカンドライフの名を新聞や雑誌、テレビなど各種メディアで目にする機会がめっきり減った。たまに登場したとしても、日本人ユーザー数の伸び悩みや企業活用の減少など、ネガティブな話題が目立つ。「失敗」や「誤算」という言葉とセットで報じられることも多い。

 確かに一時期に比べ、セカンドライフを活用する企業の事例は随分と少なくなった。日本人ユーザーが以前の勢いで増えていないのも事実である。

●Next:セカンドライフ以外も続々市場参入するも……

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