[技術解説]

CRMの第一歩は、顧客の属性分析と業務プロセスの見える化から

不況を乗り切るCRM Part3

2009年4月22日(水)吉田 融正

「CRM製品の導入=CRMの実践」ではない。それ以前に重要なのは、顧客の属性分類と、業務プロセスの見える化だ。「当然のことでは?」と思うかも知れないが、そうしない企業は思いのほか多いという。Part3では、CRMを熟知する筆者が「CRMの第一歩」を解説する。(本誌)

顧客の嗜好や購買パターンなどを見極め、引き合いから受注、アフターサービスに至る一連の業務プロセスを正しく把握する。そう、顧客属性の分類と業務プロセスの見える化が、CRMの最初のステップだ。ERPパッケージやSCM(サプライチェーンマネジメント)システムを導入する際、真っ先に業務プロセスを洗い出すのと同じである。これを疎かにしたら、どれだけ高機能なCRMシステムを導入しても、投資に見合う効果を得ることは難しい。

ところが現実には、このステップをおざなりにしたまま、システムを先行して稼働・利用するケースが少なくない。CRMの目的を定めない例も多い。定めたとしても「売り上げをXX%アップする」というレベル。結局は「顧客訪問件数を増やせ!」を合言葉に、場当たり的な営業攻勢を繰り返すことになる。訪問先名や営業担当者の活動履歴はどんどん蓄積されるが、それだけだ。

そうなってしまう原因はさておき、顧客属性の分類と業務プロセスの見える化を実施するのとしないのでは、結果として大きな差が出る。見える化をすれば、営業プロセスの非効率な面や気づかなかった顧客との関係が浮かび上がってくる。仮説を作り、検証するPDCAサイクルを回せるようになる。言葉だけのPDCAと、内容のあるPDCAの違いは、本誌読者なら自明だろう。

そこで以下では、ほとんどの企業に適用できる顧客属性の分類と、属性ごとの業務プロセスの特徴を紹介する。

基本的な4分類と目的別の重点エリア

意外に感じるかもしれないが、顧客属性の分類は、血液型のようにA型やB型といったザックリとしたところから始めるべきである。いきなり何種類もの要素を組み合わせて詳細に分類しようとしても、時間がかかったり、きれいに分類しきれないからだ。

図3-1に、そうしたシンプルな顧客属性の分類の一例を示した。縦軸に顧客の種類として「新規(見込み)」と「既存」、横軸に「ダイレクト」と「非ダイレクト」の2種類の販売チャネルを取っている。人材や費用を投じる優先順位を決定する際の参考になる。あらゆる業種業態に通用するわけではないが、このような図を作ることで、大雑把でも明確に顧客属性を分類することが肝要だ。その後で「A型のタイプ1」、「A型のタイプ2」といった具合に段階的に分類の粒度を細かくすることで、顧客との関係は次第に明らかになっていく。

 図3-1 CRMで最も基本的な顧客属性の分類例と、各属性の特徴

次に4つの象限を説明する。

第1象限

営業担当者や店舗、インターネット経由で、商品やサービスを販売した顧客(既存顧客)が含まれるのが、右上の第1象限である。一般には、この象限の顧客が売り上げと利益の中核である。そこで顧客個々のニーズや事情に適した情報を定期的に配信したり、所有する商品や利用中のサービスに関連する新サービスを提案したりして、売り上げと利益の安定を図る。

当然だが、この象限の顧客を、売り上げ規模や自社へのロイヤリティによって、さらに分類することが必要だ。自社製品の購入頻度が高く、成長している顧客が、最も重要な顧客である。そうした顧客とそうでない顧客では、対応を分けることも考えられる。

第2象限

左上の第2象限は非ダイレクトチャネル、つまりパートナー経由で獲得した既存顧客だ。第1象限に比べると利益率が下がる傾向にあるが、売り上げと利益に貢献する点では、第1象限の顧客と同様だ。そのためパートナーを通じて囲い込みを狙う。

例えば、パートナーと共同で顧客向けのセミナーを開催する。ITのように顧客への技術支援が必要な商品を扱う企業なら、パートナー向けのテクニカルサポート組織を用意して、間接的に顧客支援体制を整える。

第3象限

左下の第3象限に位置するパートナー経由の新規顧客は、いったん受注を獲得したら、利益を生み出す第2象限の顧客に“昇格”する。ただ受注獲得に向けて販促キャンペーンを実施するにしても、ダイレクトチャネルより費用対効果を図りにくいケースが多く、人手をかけにくい。そのため、比較的安価に幅広い潜在顧客へのアプローチが可能な電子メールやダイレクトメールを使って、引き合いを呼び込むのが一般的だ。

第4象限

右下の第4象限、ダイレクトチャネルの新規顧客は、受注を獲得できればメジャーアカウントになる可能性を秘めた顧客群だ。顧客への訪問予約に始まるプロセスの進捗をSFAシステムで管理し、最終提案時にはトップセールスや役員を同行させて成約につなげる。

以上は極めて基本的な分類だが、ここからスタートして各エリアごとに実践的なアプローチに落とし込んでいく。第1象限の顧客への売り上げ拡大が難しい状況であれば、第2象限の顧客開拓を強化する。そのためにパートナーと協力して第2象限の顧客向けサービスを強化する。直販比率を高める目的でCRMに取り組むなら、第4象限の顧客向けのマーケティングを充実させる。

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