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[イベントレポート]

「日本企業は、日本流の“CSR”や“美”を追求すべき」─経産省 情報経済課の前田泰宏氏

IBM SMARTER PLANET FORUM 2009から

2009年9月1日(火)IT Leaders編集部

日本IBM主催のフォーラム「IBM SMARTER PLANET FORUM」に、経済産業省情報経済課の前田泰宏課長が登壇、「2050年世界~グローバルに展開する新しいインフラ構築競争市場に向けて~」と題する基調講演を行った。前田氏は経産省の中で情報政策通として知られる官僚の1人だ。以下、その講演録をお届けする。

 「六本木ヒルズに住む友人がいた。彼に『休日は何をして過ごすの?』と聞くと、『文庫本を読む。ただしプライベートジェットに乗って温泉地に行き、風呂に浸かりながら』という答が返ってきた。それがほんまに日本人の理想かと思う。文庫本を読むんやったら、そんなややこしいことせずに、ジェットなどに乗らずに、自宅で読めばええやん、と(笑)」(前田氏)。

 このようにユニークだが、前田氏の話のポイントは、ITバブルや金融バブルの批判にはない。むしろ今や利益至上主義、市場原理主義が通用する時代ではないとの前提に立ち、それに代わる新たなパラダイムを提示しようとしたものだ。前田氏のいう、新しいパラダイムとはどんなものか。キーワードを拾い出すと、「日本美の追求」「ネイチャーグリッド」「信頼資本、生命経営、感性市場」といったものになる。長文になるが、できるだけ話の流れに忠実に講演内容を記してみよう。なお、実際の講演はウィットに富んだものだったが、すべてを再現したわけではない点をご容赦頂きたい(編集部)。

講演はまず、今回の基調講演を引き受けた理由から始まった。

 「私は地域の中小企業が20人、30人で行う講演は受けているが、(大手)企業からの講演依頼は原則として断っている。ではなぜ本日の講演を引き受けたか。しかも最近放映されているテレビドラマ、「官僚たちの夏」を見ると、昭和30年代、日本IBMと経産省は──。

 それはともかく、引き受けた理由の1つは、世界のIBMの中で日本IBMに存在感を高めてほしいということ。これは非常に大事と考えている。もう1つはIBM自体のことだ。100年前にインターナショナルなビジネスマシンという社名をつけた先見性、それから続くDNAはただ者ではないと感じる。100年を越えて、第一線で活躍している企業は訳が違う。そして今、地球全体を考えて、スマートプラネットという概念を提唱している。このことに感銘を受けた」。

続いて、講演の趣旨。

 「今回のフォーラムの内容は世界に発信される。そこで自分としては新しい提案をしたい。まだ政府で認められたものではないが、今後、経産省で、そして政府で実現するべく頑張っていきたい事柄だ。

 昨年の洞爺湖サミット以来、大きな経済停滞、景気後退の中で、各国は矢継ぎ早に経済対策を打ち出している。これは異なるものではなく、根は同じで、生き残りをかけた市場戦略といえる。2009年は(環境問題のような)大きなトレンドと、(経済対策を初めとする)短期の動きがシンクロするユニークな年である。このような動きを1つの契機として、グローバルに展開されるマーケットに対して、日本や日本企業が果敢にチャレンジせずに、一体何をするのか、そんな問題意識がある」。

そして本題に入る。

「(各国の温室効果ガスの削減目標をリストアップした資料を示しながら)この数字はバナナのたたき売りだ。例えば日本は2050年に、60~80%削減する目標を掲げている。これは実現可能とは思えない数字だ。簡単に言えば、江戸時代の生活に戻れという数値と言ってもいい。しかし実現困難だからと言って、40年後に忘れてくれとはいえない。一方、日本企業はこの数値に対して傍観しているが、米国では放置すればマンハッタンが沈むという危機感ゆえに、真剣な議論をしている。

 そうした流れと景気対策の中で、各国はグリーンニューディールを発表している。環境問題は将来への投資なので、これがスローダウンすることはない。よく生物多様性が議論の的になるが、それだけではない。人間が絶滅危惧種になるかどうかの問題だ。しかしグリーンニューディールには、私は反対である。もっととんがったところで、競争をすべきだと考えるからだ。

 さて話を大きく変えよう。私は経産省の課長で部下は17人いる。来場者の皆さんも、そうかもしれない。そんな中で、軽い鬱になっている人が急速に増えている。1人目はでてしばらくすると、2人目、3人目と増えていく。なぜそうなるのだろうか。完璧な健康はない。どこか調子が悪いことをことさら意識する。本当の病気は別にして、医者に診断させると、診断書を出す。メンタルについて書かれたパンフレットを読んだら、自分も病気だと思う。この調子が悪いことを意識する点に、問題があるように思う。

 では18時半に帰宅するようにすればいいのか。それで問題は解決するのか。そうではなくて、残業してでもやりたい仕事を与えていないところに問題があるのではないかと思う。つまり価値の提示が必要なのに、それがない。日本に今ビジョンがないとはそういうことなのだ」。

この「日本にはビジョンがない」という点は重要な問題提起である。前田氏は、その状況に対するビジョンとして「CSR」、そして「美」の追求を提示する。

 「今日は(8月27日)総選挙の前だが、結果がどうなるにせよ、生活者の視点だけに依拠した政策からはビジョンはでてこない。これまで日本は「世界2位の経済大国」という、このフレーズ一本に頼ってきた。海外から見れば、江戸時代は黄金の国、ジパング。明治から昭和の初めは軍事大国、ここ数十年は世界第2位の経済大国だったのだ。では今後、景気が回復したとして、日本には何があるのか。周知の通り、まもなく中国はGDPで日本を抜く。「経済大国」という言葉に安住することは、もはやできない。

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