CIOコンピタンス CIOコンピタンス記事一覧へ

[Gartner’s Eye]

「一手先」の未来を読むIT戦略「パターン・ベースト・ストラテジー」

Gartner's Eye 第1回

2009年10月6日(火)ガートナージャパン

企業は先行き不透明な経営環境を受け入れ、競合他社より一手でも先を読んだ戦略を打たねばならない。その実現に向け、IT活用は新たなステージへと踏み込む必要がある。その1つが、社内外の膨大なデータの海から機会と危険を予見できる情報を探知し、行動に直結させる「パターン・ベースト・ストラテジー(PBS)」である。
※本連載は米ガートナーのリサーチ「Five Eras of IT Business Value Add: From Automation to Pattern-Based Strategy」および「Introducing Pattern-Based Strategy」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです

世界的な景気低迷を受けて、多くの企業が徹底したコスト削減に取り組んでいる。だがその一方で、景気回復後に備えて今のうちから必要なIT投資を進めておく必要もある。この相反する両者のバランスを見極める適切な判断が、いま経営トップに求められている。

とはいえ、将来、経済が好転したとしても、また突然急落するかもしれない。今日のような不確実性の高い“視界ゼロ” の経済環境が半ば「常態」になると仮定するならば、経営者がITに求める価値もおのずと変わってくる。

企業経営とITの関係を振り返ると、今日までに大きく5つのモデル(時代)を経てきた(図)。

図 5つの世代に分かれるITの価値と情報のあり方
図 5つの世代に分かれるITの価値と情報のあり方(画像をクリックで拡大)

商用コンピュータが世に登場した1950年代以降しばらくは、「定常業務の自動化・省力化」によるコスト削減に重点があった。ERPなどの業務アプリケーションの登場により90年代前半からITの貢献範囲は、効率偏重から効果・生産性・意思決定支援などへ多様化。コンピュータ内の経営情報を重視する姿勢が企業に生まれた。90年代後半のインターネットの到来は本格的な「デジタル情報」時代の幕開けで、それは2005年のWeb2.0の台頭でさらに高度化した。そして今、モデルは5番めの「情報のパターン化による最適活用」へと至っている。

イノベーションの「種」を社外の情報に求める時代へ

経営者が情報を重視する姿勢は、今も昔も変わらない。ただし、これまで「見える化」と言えば、売上・原価・商品・在庫・プロセスなどの主に企業内の情報可視化を指していた。これからの経営に影響する情報の多くは、顧客や消費者などが企業の「外」に所有している。しかもそれは「爆発」と形容されるほど膨大かつ、とらえどころがない。こうした状況を生んだのは、言うまでもなくインターネットだ。情報の発信・流通・検索・加工などにかかるコストと手間を、インターネット・テクノロジが劇的に下げてしまった。

「情報爆発」時代の情報活用の仕組みには、少なくとも次の6点を網羅している必要がある。

  • Findability(どこにその情報があるかを容易に探し出せる。検索技術の駆使がものを言う)
  • Granularity(「細粒化」した情報の影響力が強まる。商品単品管理や顧客個々人の属性や発信メッセージの把握が重要)
  • Separability(どこからでも情報にアクセスできる。あるいは情報の発信と消費が別々の場所で発生する)
  • Collectivity(必要な情報をどのように集約できるかが、アイデア管理などの肝になる)
  • Sensing(情報とはテキストだけではない。センサーにより人間の五感に訴える情報も経営に利用できる)
  • Agility(いかに早く、できればリアルタイムに情報を獲得できるかが鍵)

しかし、これら6点はあくまで下地に過ぎない。情報から見出したパターンを迅速に行動に直結させ、その結果を企業内で横展開できるかが、これからの情報活用の勘どころである。

未来のビジネス機会を能動的に「探知」する

「パターン・ベースト・ストラテジー(PBS)」とは、ITを駆使して多様な情報を分析する過程で、何らかの意味あるパターンを見つけ出し、今後起こり得る事象に効果的かつ効率的に対処するアプローチである。

これまでもBI(ビジネスインテリジェンス)やデータマイニングなど、データを抽出・加工して結果や傾向を導き出す手法はあった。PBSも、膨大かつ多様な「社外」の情報を対象とするものの、その実践手法は決して目新しいものではない。仮説立案・検証のPDCAサイクルを繰り返し、機会(あるいは危機)パターンを体系的にとらえることで、最適な打ち手の幅を見極める。PBSもこうした地道な活動がベースである。

では、PBSと従来の情報活用の違いは何か? それは、むしろ情報を扱う人の活動原則にある。これまでの情報活用のあり方は、言うなれば「Sense & Response」であり、経営変化が起きたことをいち早く「感知」し、いかに迅速かつ適切に「反応」するか、その受動的なスピードが差異化の焦点であった。これに対しPBSの特徴は、「Seek & Action」だ。つまり、競争の勝ち負けパターンを予見できる情報を、企業の外へ能動的に「探し」に行き、パターンを実際に「行動」に移すことで、成功の獲得(または失敗の回避)を再現するのだ。必然的に、PBSを実現するIT戦略は、パターンを見出す頭脳ワークと、予兆を示すシグナル情報の発見を助けることが使命となる。

本連載は米ガートナーのリサーチ「Five Eras of IT Business Value Add: From Automation to Pattern-Based Strategy」および「Introducing Pattern-Based Strategy」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
Gartner’s Eye一覧へ
関連キーワード

Gartner / IT投資 / CIO

関連記事

トピックス

[Sponsored]

「一手先」の未来を読むIT戦略「パターン・ベースト・ストラテジー」企業は先行き不透明な経営環境を受け入れ、競合他社より一手でも先を読んだ戦略を打たねばならない。その実現に向け、IT活用は新たなステージへと踏み込む必要がある。その1つが、社内外の膨大なデータの海から機会と危険を予見できる情報を探知し、行動に直結させる「パターン・ベースト・ストラテジー(PBS)」である。
※本連載は米ガートナーのリサーチ「Five Eras of IT Business Value Add: From Automation to Pattern-Based Strategy」および「Introducing Pattern-Based Strategy」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです

PAGE TOP