[市場動向]

運用支援や技術者育成へと拡大─外資主要ベンダーのソフトウェア保守サポート最新動向

ソフトウェア保守サポート戦略的活用元年 Part3

2010年1月19日(火)IT Leaders編集部

ソフトウェアの保守サポートというと、不具合の修正や障害対応などメンテナンスに焦点が当たりがちだ。しかし、その内容を詳しく調べると、システムのリスク診断や性能改善といったオペレーションの支援から技術者の育成まで、実に幅広い項目が含まれていることが分かる。SAPジャパン、日本IBM、マイクロソフトの保守サポートを解剖し、「使える」ポイントを明らかにする。

SAPジャパン
料率を22%に引き上げ 既存ユーザーは段階的に改定

SAPジャパンは2009年12月、2010年1月から適用予定だった「SAP Enterprise Support」の価格決定を延期すると発表した。「ユーザー企業の声を真摯に受け止めた」というのが理由の1つだ。

Enterprise Supportは、SAPジャパンが2008年7月に始めた新しい保守サポートプログラムである。従来の「標準サポート」や「プレミアム・サポート」をEnterprise Supportに一本化。従来17%だった年間保守サポート料の料率を2009年1月から毎年見直し、2015年に22%にする(図3-1)。ただし、2008年7月1日以降にSAP製品を購入した企業は1年目から上限である22%の料率が適用される。

図3-1 SAPジャパンの保守サポート料率引き上げの流れ
図3-1 SAPジャパンの保守サポート料率引き上げの流れ(2008年6月30日までにSAP製品を購入した企業が対象)
SUGEN:SAP User Group Executive Network(画像をクリックで拡大)

料率の引き上げは、世界各国のユーザー会を代表する企業と調整のうえで実施する。具体的には、北米や中南米、欧州、日本の12のユーザー会の連合組織「SUGEN(SAP User Group Executive Network)」と取り決めた評価指標「SUGEN KPI Index」に基づき、ユーザー企業の満足度を毎年測定。満足度が当初設定した目標に達した場合にのみ料率を上げる。満足度の評価プログラムには世界のユーザー企業100社が参加しており、その1割以上が日本企業という構成になっている。

単純なメンテナンスから脱却
オペレーション支援を拡充

値上げに不満を爆発させたSAPユーザーは少なくないが、料率だけをみれば、実はSAPジャパンが取り立てて高い水準を設定していたわけではない。

業務アプリケーションの保守サポート料の相場は、ライセンスの正価に対して17〜20%程度と言われている。これに対し、2009年1月からSAPジャパンが適用した1回目の引き上げ後の料率は18.3%。2010年1月から適用が見込まれていた料率は18.9%程度だった。

不満が相次いだ大きな要因の1つは、従来の標準サポートとEnterprise Supportでは内容がガラリと変わったのに、それを既存のSAPユーザーに周知できなかったことにある。

Enterprise Supportと標準サポートの最大の違いは、オペレーション支援が含まれるかどうかである。標準サポートはソフトウェアの不具合修正プログラム(パッチ)や法改正に対応したプログラムの提供といったメンテナンス中心の内容だったが、Enterprise Supportではパフォーマンス監視や障害予兆の検出による予防保守など、オペレーション支援にまで踏み込んだ内容に拡充させた(図3-2)。

図3-2 SAPジャパンの保守サポート「SAP Enterprise Support」のポイント
図3-2 SAPジャパンの保守サポート「SAP Enterprise Support」のポイント(画像をクリックで拡大)

中でも、パッケージソフトをカスタマイズすることが多い国内企業にとって価値がありそうなのが、「継続的品質チェック(CQC)」と呼ぶサービスだ。カスタマイズ部分をSAP製品の標準機能に置き換えられるかどうかを調べたり、アップグレードや機能強化プログラム導入時の影響範囲を診断したりする。

ユーザー企業がEnterprise Supportのメリットを100%享受するには、SAPが開発した専用の運用管理ツール「SAP Solution Manager」を導入する必要がある。最短で2週間程度、運用業務プロセスの整備状況によっては導入に半年ほど要するが、その後はSAPジャパンのサポートセンターでユーザー企業のシステム稼働状況に応じて、「ストレージの消費を加速するようなデータ量の異常な増加を検知して改善策を提案するなど、企業ごとに適したサポート実施プランを立案したりできる」(SAPジャパン サポート事業本部の竪谷幸司ディレクター)。

日本IBM
体系を5ブランドで一本化 料率ではなく金額を明示

日本IBMの保守サポート体系はInformation Management(DB2など)、Rational、Tivoli、WebSphere、Lotusと5つあるソフトウェアブランドすべてに共通で、大きく3つのレベルがある。1つは「セルフ・ヘルプ」。文字通り、保守サポート契約を結ばずに自社でIBM製品を運用する企業向けのもので、Webサイトを通じて既知の不具合情報などを無料で提供する(図3-3)。

図3-3 日本IBMのソフトウェア保守サポートの体系
図3-3 日本IBMのソフトウェア保守サポートの体系(画像をクリックで拡大)

2つめは、年間契約で主にメンテナンス関連サービスを利用する企業向けの「基本サポート」である。新版ソフトへのアップグレード権や修正プログラムの配布、リモートでの障害対応などのメニューからなる。ソフトウェアを新規に購入してから12カ月は無償で提供する。

そして3つめが「プレミアム・サポート」だ。ユーザー企業ごとに専属の保守サポート担当者をアサインして予防保守をしたり、オンサイトでの技術支援を提供する。

この体系は2001年からそれほど変わっていない。唯一ともいえる大きな変更点は、基本サポートを提供する標準期間を延長したこと。従来は製品出荷後「3年」だったものを、2006年に「5年」に改定した。

日本IBMの保守サポートで最大の特徴は、基本サポートの料金を料率ではなく金額で明示している点だ。例えばDB2 Enterprise Server Editionの保守サポート料は、1プロセサ・バリュー・ユニット(PVU)当たり9234円、WebSphere Application Serverは同じく1323円となっている。PVUとはプロセサ性能に応じてIBMが定めた独自の課金単位で、Xeon 5500シリーズだと1コアあたり70PVUになる。

もっとも、これらの単価はやはり一定の料率を基に算出している。DB2やWebSphereなどのミドルウェアはライセンス価格の20%程度、Lotus Dominoは26%程度である。

活用度合いの底上げに向け
ユーザー向け説明会開催へ

日本IBMの保守サポート体系は長らく大幅な変更がなかったので、その内容はユーザー企業に広く浸透しているようにも考えられる。しかし、実際には「保守サポートの活用度合いは企業によってバラつきがある」と、日本IBMでソフトウェア事業の保守サポートプログラムを長年手がけている川田篤氏は話す。「新版ソフトの利用に限ってみても、ほとんどダウンロードしない企業があれば、全部ダウンロードする企業もある」。

こうしたバラつきを解消して保守サポートの活用度合いを底上げするため、日本IBMはユーザー企業向けの保守サポート利用促進プロジェクトの検討を始めた。その準備として現在、「ユーザー企業と接する機会が多い営業担当者などを対象に保守サポート内容の勉強会を繰り返している」(川田氏)。

マイクロソフト
最新版の提供は当たり前 技術者の育成支援も提供

マイクロソフトの保守サポートには、ソフトウェアのライセンスと一体になった「ソフトウェアアシュアランス(SA)」と、保守サポート単体の「有償保守サポート」がある。どちらかというと前者は、ユーザー企業のシステム環境の標準化や技術者の育成支援に主眼を置いている。後者は他の多くのベンダーと同様、メンテナンスとオペレーションの支援が目的だ。こうした違いはあるが、メニューをきめ細かく分類し体系化している点では、どちらも共通している。

SAは複数のライセンスを割引価格で購入するボリュームライセンスに適用されるもので、メニューによって「Open License」から「Enterprise Agreement」まで大きく5段階のグレードに分かれている。

すべてのグレードに共通して最新版へのアップグレード権利が含まれるのは当然だが、それ以外にもいくつか“得”がある。例えば、Office製品のコピーが1つ提供される。この権利を行使すれば、社員が会社のパソコンで利用しているのと同じバージョンのOffice製品を、自宅用パソコンに導入して使うことができる。

Enterprise Agreementには、マイクロソフトのパートナーが運営する技術者向けの有料トレーニング講座の受講券が含まれる。受講可能日数はライセンス数によって異なるが、250ライセンスの場合で延べ20日分マイクロソフト認定資格プログラム「MCP」の取得に向けた技術の習得が可能だ。。

サーバー仮想化ソフト「Hyper-V」のインストールや仮想環境の構築方法など基本的な技術を習得する大塚商会の1日コースの講座を例に採れば、20人が受講できる。受講料は1人あたり4万円(税別)なので、合計80万円分の受講券がSAに付随してくる計算になる。

4種のメニューを組み合わせ
契約形態も多様化

マイクロソフトが有償保守サポートで提供するメニューは、(1)「サポート・アカウント・マネージメント」、(2)「問題解決サポート」、(3)「サポートアシスタンス」、(4)「インフォメーションサービス」の4つに大別できる(図3-4)。(1)は、ユーザー企業ごとに専属の担当者や担当チームをアサインして障害対策などに当たる。(2)は24時間365日体制で問い合わせを受け付けたり、障害時にオンサイトで原因を切り分けたりする。(3)はシステムのリスク診断やワークショップを開催するもの。(4)は専用Webサイトを通じた技術情報の提供だ。

図3-4 マイクロソフトの有償保守サポート体系
図3-4 マイクロソフトの有償保守サポート体系(画像をクリックで拡大)

有償保守サポートには、これらのメニューの組み合わせの違いで5段階のグレードがある。最上位の「プレミアサポート」は、(1)から(4)まですべてを含む。同様に、その1つ下位「プレミアファウンデーション」も4つのメニューを含むが、(1)のサポート・アカウント・マネージメントに少し違いがある。プレミアサポートではユーザー企業に専属の担当者をアサインするが、ファウンデーションではアサインしない。

一方、最下位のプロフェッショナルサポートは、(2)の問題解決サポートの提供。その1つ上の「アドバイザリーサービス」は、(3)サポートアシスタンスを提供する。

契約形態もグレードによって違う。プレミアサポートなど上位の3つは年間契約だが、アドバイザリーサービスは1時間単位での契約になる。また、プロフェッショナルサポートがインシデント単位での課金体系を採用している。料金はPart5の一覧を見てほしい。

●Next:ガートナーアナリストの見解

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