[CIO INSIGHT]

2009年度ITベンダー評価調査結果─ユーザー優位の力関係が鮮明に、インテルが初登場で1位に

Vendor Value 2009: IT Vendors Deliver More By Guy Currier

2010年1月8日(金)CIO INSIGHT

CIO INSIGHTが毎年実施するベンダー評価調査。2009年度の調査では8社の新顔がランクインし、それぞれが高評価を得た。全体的な評価ポイントが高まる中、特段の特徴を打ち出せなかったベンダーは相対的に順位を下げた。背景には、景気後退でユーザー企業がベンダーの取捨選択を推し進めたことと、ベンダーとユーザー企業の力関係が大きく変化し、ユーザーの発言権が高まってきたという事情がある。(翻訳 : 古村 浩三)

厳しい時代は、それに適応できる者に大きなチャンスを与える。このことはCIO INSIGHTが実施した2009年度のベンダー評価調査の結果からも明白になった。

不景気がもたらす影響は、ベンダーにとって想像以上に大きいようだ。IT投資が低迷したこの1年間、それでもベンダーは付加価値がより高い提案に努め、顧客満足度の向上に繋げてきた。一方、単に今までの顧客満足度を維持するだけにとどまり、改善まで至らなかったベンダーは軒並みランキングを落とす結果となった。

調査結果(総合)

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調査結果(総合)

2009年度調査におけるベンダー全体の獲得ポイントの平均は、2008年の67%から4ポイント上昇し、71%となった。08、09年の双方にランクインしているベンダーのうち、評価を落としたのは8社で、22社が評価を上げた。

高い評価を得るベンダーが続出した背景の1つには、深刻な経済情勢下、経費削減やIT戦略見直しの一環として、これまで取り引きのあったベンダーとの契約を解消するユーザーが増加したことがある。ユーザーの厳しい選択眼にかなうベンダーに絞り込まれた結果、必然的に評価が高くなったと受け取れる。取り引きのあるベンダー数の平均は、2008年の12社に比べて2009年では11社とわずかながら減少した。

初登場企業が軒並み高評価、ランキングが大きく変動

今年度の調査では、新規に登場したベンダーがランキングに大きな影響を与える結果となった。今回初めてランクインしたインテルは、品質面の満足度で93%という高スコアを叩きだし、総合ランキング首位の座を得た。ロイヤルティ(顧客忠誠度)は97%で、グーグルと並ぶ高い数値だ。

その他にも多くの新しい顔ぶれが健闘した。シーメンスは、ランキング常連のグーグル、レッドハットと同着で2位となった。品質に対する評価がやや奮わずにインテルに首位を譲ったが、この点さえ改善できていれば結果は変わっていただろう。APCはROI(投下資本利益率)の高い提案と、ユーザー企業のニーズに応える姿勢が好印象につながった。ネットアップは品質面での評価が奮わなかったものの、ユーザー企業のビジネスニーズに焦点を絞った手ごろな提案が評価された格好だ。WebExは品質や顧客対応のスコアは高かったが、納期や予算の順守能力に対する評価が伸び悩んだ。

“買い手市場”の様相が鮮明に、現状維持では評価されず

調査結果を見ると、今回の不況がユーザー企業優位の“買い手市場”を形成したことを改めて実感できる。今やどのユーザー企業もベンダーに対する要求を強めており、ベンダーから最大の価値を得やすくなっていることを反映したものだ。従来から高い評価を受けているベンダーが、これまで以上に顧客満足度を向上させようと奮闘する一方、これまでランク外だったベンダーも何とかして足場を固めようと努力している。

順位を落としたベンダーを見ると、競合環境が厳しさを増しているにもかかわらず、単に前年のレベルの維持にとどまったところが多い。

例えば、今回トップ10から陥落したデルやベリサインは、新規ベンダーの上位ランクインがなければ陥落を免れたはずだった。アドビシステムズやEMCも、新規ベンダーの存在がなければより上位にランクインしていたのは確かだ。だがこの4社を見ると、2008年から2009年にかけての獲得ポイントの上昇は1ポイント未満にとどまっており、もっと評価ポイントを上げたベンダーに上位の座を譲った格好だ。

称賛すべきなのは、今年大きく順位を上げて総合評価でトップ10に食い込んだサン・マイクロシステムズだろう。コストや予算管理の面でもっとも改善した企業を挙げるとすれば、サンはその筆頭としてふさわしい企業だ。改善点は多岐に及び、顧客の収益向上やビジネス上の問題点の解決といった点に加え、全体的な品質レベルの向上も実現した。

高評価のカギは顧客視点の徹底

ここ数年、全般的に高い評価を得てきたセキュリティベンダー。だが2008年を境に、この傾向に陰りが現れ始めた。今年は業界全体が不景気の影響を大きく受け、コスト削減能力や期限、予算の順守といった点での評価を大きく落とす結果となった。

セキュリティベンダー全体の平均スコアは71%と、2008年に比較するとそれほど低くなったわけではない。だが今年の全般的な評価向上の中で、従来のトップの座を守るにはこの数字では不十分だったということだ。

シマンテックは、セキュリティベンダーの中では唯一、激化する競争に何とか対応できている。実は、同社は今年の調査で評価の上昇率が4番目に高いベンダーとなった。2008年度の調査と比較して、コスト削減や納期・予算順守、高いROIの実現といった点が大きく評価された。

一方、ハードウェアやネットワーク関連ベンダーはここ数年で提供サ−ビスの強化に努めており、顧客が必要とするサービスに焦点を絞った結果、大幅な評価の改善につげることができた。ハードウェアはHPやサン・マイクロシステムズ、富士通、IBMといった主力ベンダーが健闘し、全体平均で76%を獲得してもっとも高い評価を受けた。シーメンスが牽引したネットワーク分野は平均73%で2位を確保した。テレコミュニケーション分野ではベライゾン・コミュニケーションズの評価が劇的に向上したが、業界全体への評価は相変わらず厳しいものだった。

不況をチャンスと捉え、サービスレベル向上を

停滞する経済状況下、ベンダーに対するユーザー企業の要求は、単に経費削減や高い価値の提供といったことにとどまらなくなってきている。主要なベンダーは、コスト削減やROI向上といった課題に対処するだけでなく、ユーザー企業が将来をより良く展望できたり、柔軟性に富んだ組織体制構築を支援するサービス体制を整備しつつある。

今日ではIT部門に対するビジネスからの要求が多様化し、ITインフラそのものの変化も激しい。ベンダーが今後ユーザー企業からの高い支持を得るには、ビジネスの課題解決やコスト削減、マネジメントを、ITを使って簡単に実現するアプローチを提供できることが条件となるだろう。

ユーザー企業のIT部門はこの環境をうまく利用し、コストを削減しつつサービスレベルの向上を図るべきだ。IT部門のエグゼクティブは、ベンダーに対して特定の技術やビジネスニーズへの対応といったものを超えた要求ができる環境にある。ビジネス効率やコンプライアンス、環境への配慮、収益の向上といった今日の企業全体にとってのゴールやビジネス戦略に即応するためのIT体制の継続的な見直しは、いかに賢いベンダーと付き合うかによってその成否が決まるといっても過言ではない。

力関係の変化の兆しは2008年にも見える
─前年度評価調査を振り返る

ユーザー優位の力関係が明確になった2009年度ベンダー評価調査。この兆しはリーマンショック直後の08年10月にCIO INSIGHTが実施した、[node:511, title="前回(2008年度)の評価調査"]にも垣間見られる。

今年度調査とは異なり新規登場ベンダーは5社と少なめだったが、既存ベンダーの順位が大変動。07年度調査に比べ、22社の評価が上昇し、15社が下落した。総合評価1位は新顔のRSAセキュリティが獲得。予算・納期順守などが評価された。

08年度の大幅な順位変動の背景には、景気後退によるユーザー企業の意識の変化があった。予算削減のなか、高いROIと顧客対応を重視するユーザーが続出。その期待に応えられたか否かが評価に大きく影響した形だ。09年度調査で際だったユーザー優位の傾向は、08年の調査段階から現れ始めていたようだ。この変化をいち早く認識し即応できたかどうかが、09年度の調査結果に反映されていると考えてよいだろう。

各分野ごとにも興味深い動きがあった。ソフトウェア分野ではグーグルが、携帯電話プラットフォームのアンドロイドをはじめとしたモバイル分野進出を武器に評価を伸ばし、長年首位の座にあったレッドハットを抑えて分野別1位を獲得。同社は今回の調査でもトップを維持し、底堅い評価を印象づけた。ネットワーク分野では、新登場のジュニパーネットワークスとスリーコムが、シスコシステムズに次いでそれぞれ2、3位を獲得。93%という高いロイヤルティを誇ったジュニパー社は、09年度調査でも分野別3位と高位置に着いた。(本誌)

●Next:分野別順位と講評を一挙掲載

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