[技術解説]

間違いだらけのSaaS選び、コスト構造や要求品質に冷静な目を

本丸に迫るSaaS Part5

2010年4月27日(火)IT Leaders編集部

利用モデル、月額課金、セキュリティ……。すでに語られ尽くした感があるSaaSだが、誤解も多い。本パートでは、SaaSの本質を「コスト」「サービスレベル」「アーキテクチャ」といった視点から改めて問い直す。

オンプレミスより結局は高くつく

「SaaSを5年間使い続けたとして月額利用料金を累積したら、オンプレミスのシステムを構築・運用した場合の費用を上回る」という意見は根強い。

計算上は、確かにそうなる。だが、自前システムには、ハードやソフトの維持管理がつきもの。バージョンアップや制度変更があるたびに、手を入れなければならない。「なかでも財務会計業務では、税制や法制度の変更が多い。最近では、IFRSへのコンバージェンスに伴うパッチ適用作業が数多く発生している」(エス・エス・ジェイの山田誠マーケティング企画部部長)。こうした手間や時間をコスト換算したらどうだろう。

SaaSであれば、上のような作業をサービスベンダーに任せられる。保守費用は月額使用料に含まれるので、追加コストは発生しない。しかも、オンプレミスのシステムは減価償却の対象となるのに対して、SaaSは自社で設備を所有しないため経費として計上できる。

対象業務によって一概には言えないものの、頻繁に改修があるケースならばSaaSのコストメリットは大きい。ただし、大半のSaaSではデータセンターの設定費用などで初期費用が発生することには注意が必要だ。

オンプレミス並みのSLAを要求すべき

SLAは、サービスベンダー選択の大きなポイントになる。SaaS利用に踏み切る際には、データ保護、稼働率、障害対応、セキュリティという4つの側面でベンダーのサービスレベルを確認し、SLAを結んでおきたい。

と言っても、ミッションクリティカル並みの可用性をSaaSに求めることに対し疑問を呈する声もある。ある大手SaaSベンダーの幹部は「絶対に停止してはいけないと考えると過剰品質になる。オンプレミスのシステムにも言えることだが、過剰品質は自ずとユーザー側のコストに跳ね返る」と話す。例えば、会計システムが1時間停止したら業務にどの程度の被害が想定されるのか、本当にそこまで高い可用性が必要なシステムかどうかを問い直し、コストとのバランスを検討すべきだ。

サービスアーキテクチャはユーザーに無関係

同じ“SaaS”という名を冠するサービスでも、ベンダーによってアーキテクチャは異なる。ガートナー ジャパンの本好宏次主席アナリストは、現在利用可能なSaaSをアーキテクチャの視点から4つに分類する。

第1は、複数ユーザーが単一アプリケーションと論理分割したデータベースを共用する「マルチテナント/シングルバージョン型」である。SaaSの最も基本的な姿であり、「マルチテナント/シングルインスタンス型」とも呼ぶ。第2は、全ユーザーに単一アプリケーションを提供して一括運用するが、データベースはユーザーごとに用意する「共有実行型」だ。

ユーザーごとに個別のアプリケーションとデータベースを割り当てたうえで、それらを集中管理するモデルもある。これが、第3の「分離テナント型」である。加えて、「マルチテナント/マルチバージョン型」と呼ぶべきサービスも出てきた。アプリケーションやデータベースの提供形態はマルチテナント/シングルバージョン型と同じだが、ユーザーごとにアプリケーションのバージョンを管理可能にしたモデルである。

本好氏は4つのモデルについて、「それぞれ異なるメリットがある。ユーザー企業は自社のニーズをよく見極めたうえで適切なアーキテクチャを持つSaaSを選択すべき」と提案する。共有実行型や分離テナント型には、データセキュリティ上の安心感がある。マルチテナント/マルチバージョン型には「不要なバージョンアップで使い勝手を変えたくない」といったニーズに応えられる。

だが、コスト面に目を向けた場合に軍配が上がるのは、マルチテナント/シングルバージョン型だ。すべてのユーザーが同じアプリケーションを利用するため、運用効率を最大化できるからである。ベンダーは自社サーバー上のアプリケーションを変更すれば、全ユーザーに対する変更作業を完了したことになる。ユーザー数が増えるほど規模の経済が働いて運用効率は高まるので、よりリーズナブルな費用でサービスを提供できるようになる。

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