回復とまではいかなくても景気に底打ち感が出始めた今、情報システムの構築や刷新プロジェクトが増加しつつある。しかし従来のままプロジェクトに挑めば、トラブルが続発するのは必至だ。何しろ業務要件はもとより、パッケージやIT製品の組み合わせによってシステムは年々、複雑化している。必然的に開発コストが膨らんだり、予定する稼働時期に間に合わず、稼働を断念するケースが増える可能性がある。損害賠償訴訟や「動かないコンピュータ」のネタも増えそうだ。
見積もりの不透明性が問題
問題の根源はどこにあるのだろうか。筆者はズバリ、見積もりの不透明性とソフトウェアの品質問題が大きいと思っている。情報システムの開発では、要件定義がよく問題視される。しかし発注者が定義する必要のある業務要件は、最初の段階から詳細を決めることはできない。プロセスを踏みながら確定するし、要件の変更も常態である。変更に備えるなら変更管理を決めて合意しておけば済む話で、業務要件の不確定要素が見積もりを不透明にしているわけではない。
問題は、そもそも情報サービス業界には発注者が内容を理解できる標準積算手法や積算基準がないことにある。内訳のよくわかる単価の表示もない。例えば見積もりにはリスクが見込まれるが、そのリスクの内容が明示されることはない。
見積もりの不透明性は発注者の不信を呼ぶ。品質に至っては基準も保証の仕組みもない。バグがあるのは当たり前とばかりに、非無謬性を正当化するような姿勢すら見られる。しかしリコールのないソフトウェアも、ハードに組み込まれるとリコールに追い込まれることも起こる。
情報システム開発と契約問題
一方、「○○一式」に代表される契約の曖昧さが根源だという見方もある。そうした見方に則って経済産業省は、2007年に情報システムの信頼性向上と取引可視化に資するモデル契約書の第1版を、2008年にはパッケージやSaaSなどを対象にした追補版を、それぞれ公表した。
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