[インタビュー]

[座談会] 過去の“蹉跌”、そして展望─全体最適の意識が薄かった 長期的視点の利益追求で今後はBPMが不可欠に

あらためて見つめ直すBPMの価値 Part3

2010年8月17日(火)川上 潤司(IT Leaders編集部)

日本においてなぜ、BPMは広がらないのか。そもそも必要性がないのか。最前線の場でBPMの意義を訴え続けてきたベンダー4社の担当者が、これまでの国内ユーザーの状況を振り返りながら語る。(進行は本誌編集長の田口 潤 写真:的野弘路)

渡辺 隆氏
渡辺 隆氏
日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 SWブランド&チャネル・マーケティング WebSphereマーケティング・マネージャー
国内ベンダーでデータモデリングやOracle周辺ツールのマーケティングに従事した後、 2000年より日本ラショナルソフトウェアのマーケティングを担当。UMLやRUP、構成管理の普及に務める。Rational社のIBMへの合併を経て、現在は、BPMやSOAのマーケティングを担当している

 

力 正俊氏
力 正俊氏
パワード プロセス コンサルティング 社長
国内ベンダーにおいてロジスティクスシステム導入に従事。SAPジャパンを経て1999年10月にIDSシェアー・ジャパンに入社し、2004年から社長を務めた。2008年7月にパワード プロセス コンサルティングを設立。2008年から、独jCOM1社の日本総代理店として、BPMツール「jCOM1」を展開中

 

高野 忍氏
高野 忍氏
ソフトウェア・エー・ジー 第1営業本部 システムエンジニアリング マネージャー
大手製造業や通信会社に勤務し、多くのプロジェクトにマネージャーとして参画。 2006年8月、ウェブメソッド(現ソフトウェア・エー・ジー)に入社。ユーザー時代の経験を生かし、顧客視点からEAIやSOA、BPMの提案、実装を支援。現在、システムエンジニアリング部門を統括している

 

高野 忍氏
神沢 正氏
SAPジャパン ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部 プラットフォーム営業部 部長
外資系ベンダーにおいてSOA/ ミドルウェア事業を担当した後、2008年4月にSAPジャパンに入社。SAP ERPを中心とするオンプレミス型アプリケーションや、オンデマンド/オンデバイス領域を横断するプラットフォームの営業・事業開発を担当。現在、SAPのBMP戦略立案や提案活動に携わっている

 

— 業務をプロセス単位で可視化して組み替えを容易にし、それに沿って柔軟にシステムを連携させようというBPMは、非常に分かりやすいソリューションです。しかし率直に言って、国内でBPMの利活用が進んでいるとは言い難い。海外ではどうでしょうか。BPMを実践する企業は多い?

渡辺:米国ではかなり普及が進んでいます。フォード・モーターやジョンソン・エンド・ジョンソンといった企業の事例は有名ですよね。

:欧州でもBPM需要は伸びていますよ。例えば、ドイツの自動車大手であるアウディは2005年からBPMに取り組んでいます。そもそもの発端は「2015年までに、社員数や設備をそのままに、生産台数を2倍にする」という経営ビジョンです。同社はこのビジョンを実現するために、設計・開発や調達業務におけるリードタイムを2分の1に削減するという目標を立てた。そしてそれには、BPMによるプロセス改善を着実に進めるしかないと決断したんです。

高野:ちなみに、ドイツにいる当社のCEOはBPM市場を、「ERPの2倍は盛り上がる」と言っていますよ。

プロセスのとらえ方に差
欧米企業は担当役員も

— では日本と欧米で、BPMの取り組み状況にはなぜそんなに差があるんでしょうか。

神沢:日本企業には、「全社の業務プロセスを見える化して再整理しよう」という全体最適の視点があまりないように感じます。その点、海外企業は全体最適を意識したガバナンスの効かせ方がうまい。

渡辺:海外と国内企業の取り組み状況を比較して強く感じるのは、プロセスのとらえ方の違いですね。欧米人が言うプロセスの粒度は、我々が思うより大きいんですよ。彼らは、調達・製造・物流といった部門をまたがったレベルでプロセスをとらえている。BPRで業務プロセスを抜本的に見直したうえでERPを導入し、プロセスを標準化。さらに、BPMでプロセス改善を継続するというステップを踏んできたからでしょう。一方、日本企業はプロセスというと、文書回覧など現場での業務手順に近いものを思い浮かべます。このため、BPMの意義を理解しづらいんです。

— 現場の手順なら、担当者の工夫でなんとかできる。わざわざ部門を超えるプロセスを見直す必要はないと普通は考えるでしょうね。

渡辺:そう。それで結局、局所的なカイゼン活動に閉じてしまいやすい。日本と欧米の違いをもう1つ挙げましょう。欧米の大企業には必ず、社内の業務プロセスを管理する組織があります。プロセスオーナーがいて、その下にプロセスアナリスト、プロセスモデラーという体制です。ある大手米銀は、200人以上のプロセスモデラーを抱えているといいます。

:あちらには、「CPO」という役職もありますよ。

— CPO?

:Chief Process Officer。最高プロセス責任者のことで、欧米では大企業の多くが設置しています。CIOより格上のポジションなんですよ。業務プロセスの最適化に責任を持つ役員がいる。これは日本との大きな違いです。

BPMの真の実力を伝えきれなかった

— 日本と欧米企業の間には、プロセスのとらえ方、プロセス改善に携わる人材の有無といった違いがある。そんななか、ベンダーとしてはどのようにBPMツールを訴求してきたんですか。

神沢:従来、我々ベンダーはBPMツールの売りとして開発生産性を訴えることが多かったように思います。「画面上にプロセスを描けば、その裏側でシステム同士が自動連携します」などと言って。

—プログラミングの必要はありませんよ、楽ですよ、と。

神沢:そう。でもなかなか響かなかったですね。ユーザーにしてみれば、定型的な業務にはパッケージを導入した方が速いし、独自システムのスクラッチ開発は手慣れたもの。開発生産性という切り口では、わざわざBPMツールを導入するメリットを見出せなかったんでしょう。

高野:BPMという3文字略語も、かなり“悪さ”をしました。「また新しいバズワードが出てきた」とユーザー企業を警戒させてしまったんですよ。実際、提案活動で「BPMってBPRとどう違うの?ERPは導入したよ。ちょっと前はSOAって言っていたよね」という反応が返ってくることもしばしばでした。これは我々ベンダーだけでなく、メディアにも責任の一端があると思いますけど。

— 耳が痛い(笑)。

:私の経験をお話すると、ERPを導入する際のツールとして、BPMを提案することが多かったですね。フィットアンドギャップ分析を実施するとき、自社の業務を整理するのにモデリング機能を使おうというわけです。確かに、この売り方で導入数は増えた。しかし、現場がプロセスをデザインし、継続的に改善していくというBPMの真価が発揮されたかというと疑問です。

— 業務を整理して可視化するためのドローイング・ツールという役割だけで終わってしまった?

:はい。正直に言うと、1回モデリングして終わり、というケースは少なくなかったですね。

— お話を聞いていると、ベンダー側がBPMの意義を伝えきれていなかったことも、普及を阻害していたように思える。

高野:それはあったかもしれません。でもこのところ、事情が変わってきた。ユーザーのBPMに対する認識は確実に高まっています。特に製造企業は強い関心を持っていますよ。

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