[ザ・プロジェクト]

Windows機をシンクライアントに全面移行、共有化などで6500台のPCを半減へ─ソフトバンクテレコム

2010年8月19日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

Windows Vistaの導入を見送った企業の多くが、パソコンのリプレース時期を迎えている。その1社であるソフトバンクテレコムは2010年4月、6500台のWindows XP機をシンクライアントに全面移行する決断をした。コスト効果をどう算出したのか? 進行中のプロジェクトの全容を聞く。 聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉

諸岡 みどり 氏
諸岡みどり氏
情報システム本部 ITサービス統括部 サービスデリバリ部 部長
1986年に日本ソフトバンク入社。ソフトバンクBBにて、セキュリティオペレーションセンターの構築やシステム運用監視センターの業務などを担当。2008年4月から現職。グループの通信3社の情報システム部を兼務し、合計2万人を対象にパソコンのデリバリやOAシステムのサポートを担当している

 

清水 繁宏 氏
清水繁宏氏
営業推進本部 副本部長
1991年10月、日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)に入社。事業計画やチャンネルプロモーションを担当した後、データ系サービスの営業推進や事業企画業務に携わる。2010年5月から現職。現在は全サービスの営業推進および事業企画、営業プロモーションを担う

 

立田 雅人 氏
立田 雅人 氏
クラウドサービス開発本部 基盤サービス開発部 部長 兼 クラウド事業推進室 副室長
1989年に日立製作所に入社し、通信事業者向けの営業を担当する。その後、EMCジャパンやベリタスソフトウェアを経て、2005年に日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)入社。仮想サーバーのホスティング事業などを推進し、現在はクラウドコンピューティング事業の企画/開発/運営に従事している

 

竹内 俊雄 氏
竹内 俊雄 氏
クラウドサービス開発本部 基盤サービス開発部 デスクトップサービスグループ グループリーダー
1996年、国際デジタル通信に入社。VoIP商品の企画などに携わる。同社と日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)が合併した2005年以降、インターネットの商品企画や仮想化サーバーのホスティング事業を手掛け、現在は仮想化デスクトップのホスティング事業の企画・立ち上げを担当している

 

─ パソコンをシンクライアントに移行する作業の真っ最中だそうですね。まず、きっかけから教えてください。

諸岡:当社は過去、5年ごとにパソコンを全面入れ替えしてきました。5年も使うと老朽化しますから。そして今年は2005年に一斉導入した6500台のパソコンの更新期に当たるんですよ。

─ 老朽化といっても、シロアリに食われたり、食品のように腐りはしませんよね? 昨今の経済状況でリプレースを先送りする企業も少なくない中、ある意味、贅沢な話に思えます。

立田:いえ、そうではなくて本当に腐るんです(笑)。

─ !?そんなわけは…(笑)。

諸岡:本当なんですよ。簡単な話をすれば、壊れるパソコンの台数は右肩上がりで増え続けます。2009年度には約1900台が故障して修理しました。

─ ちょっと待ってください。1900台といったら6500台の約3割、年間の営業日が200日だとすると1日当たり10台近く故障する計算ですよ。

清水:そんなものかな。最近はもっと多い印象があるけど。

諸岡:2010年度は2279台が壊れると予測し、必要な予算を措置しています。多いのはやはりハードディスクの故障とノートパソコンゆえのバッテリー寿命です。液晶が割れたりするケースもありますが。

─ 修理費にするとどのくらい?

諸岡:2009年度は、1億5200万円かかりました。2010年度は1億8200万円になる見込みです。

─ 1台あたり8万円ほどかかる計算だ。

立田:ええ。でも多くの企業が似た状況だと思いますよ、当社が特別にパソコンを酷使しているわけではないので。それに故障だけでなく、性能面でも腐ります。

─ それは、OSのレジストリが汚れてパフォーマンスが下がるとか?

諸岡:そうです。

清水:セキュリティを強化し続けてきたこともあって、起動時には各種セキュリティ対策ソフトで検疫を終えてからネットワークに接続し、メールを確認するまでに15分かかるのが実態です。

諸岡:Windowsの修正ファイルやセキュリティ対策ソフトのパターンファイルを更新するのにも、毎月1人当たり10分はかかっています。

立田:その間、業務の機会を失っているわけで、人件費を考慮すると年間で合計11億円相当の時間を損失している計算になりました。

─ 見えない費用ですが、かなりの額ですね。加えてモバイル利用が前提だと、情報漏えいを防ぐ意味でも、シンクライアントを採用する必然性はある。

清水:その通りです。

1年半前に導入を検討 コストが折り合わず様子見

─ 実際にシンクライアントの導入に着手したのは、いつ頃ですか。

諸岡:いきなりすべてを入れ替えるのではなくて、2009年12月にまず100台分のパソコンをシンクライアントに切り替える予算を確保しました。2週間程度でシステムを構築して、サーバー上に100人分の仮想デスクトップ環境を設定。2010年1月には情報システムと営業の各部門で試験利用を始めました。

─ 本格的に社内に展開し始めたのは?

諸岡:オフィスソフトやセキュリティ対策ソフトといった全社で標準的に利用するソフトの動作を確認した後、2010年3月後半にシンクライアントへの全面切り替えを決めて、4月の経営会議で承認されました。7月中にまず2000人分のパソコンをシンクライアントに移行し、2011年1月から3月をめどに完全移行する計画です。ただ、シンクライアントの導入自体は、それよりずっと前から検討してきました。

─ というと?

諸岡:2008年12月に、サービス契約情報などの入力業務を行うセンターを中国・大連に開設したんですよ。そのとき、普通のパソコンを導入すると保守が大変になるので、シンクライアントでシステムを作ったんです。サーバーは日本にあるので、現地に行かなくても保守できます。

立田:当然、本社のOA環境もシンクライアントにしたいと考えましたが、コストが見合わなかった。パソコン1台の費用はリース料や管理費を含めて、せいぜい月5000円程度。シンクライアントについて試算したら、1万円ほどになってしまいました。

─ 大連のセンターは採算が合った?

立田:ええ。入力センターなので、個々の利用者がそれぞれの領域にデータを保管するOA環境と違って、ディスクやメモリーの容量が少なくて済みます。

清水:そもそも大連に関しては、個人情報保護の観点から現地にいっさいの情報が残らない仕組みを作る必要がありました。

─ なるほど。それが今なら、国内でシンクライアントを展開してもペイすると判断した。

立田:最近1年間でハードのコストパフォーマンスが良くなりましたからね。それに加えて、大連での経験を生かして仮想デスクトップ環境の集約率を高め、クライアント1台当たりの維持費を下げられる見通しも立ちました。

200種類のアプリごとにネットワーク設定など確認

─ コストの折り合いがついたし、大連でも、国内でもテストした。とするとプロジェクトが本格化した2010年4月以降は、一気呵成で導入を進めている?

諸岡:ところが、そうでもないんです。営業部門だけを見てもネットワークの部隊やモバイルの部隊があって、それぞれ使う業務アプリケーションが異なります。ネットワーク構築とシステム構築の部隊でも違う。

清水:何しろ200種類以上の業務アプリケーションが動いていますから、1つずつ仮想環境に移行して、シンクライアントで問題なく使えるかを確認するのに相当な労力がかかるんですよ。

─ 確かに、それは大変だ。予期せぬ問題は結構、ありましたか。

立田:ちょいちょい、といったところです(笑)。

─ ちょいちょい、やっかいな問題が見つかった(笑)。

清水:ほとんどはソフトウェアの設定の問題ですぐに解決するものばかりでした。単純なところでは、ドライバが入っていないのでプリンタが使えない、PDFが見れないといったものです。

諸岡:あとはネットワークの設定。当社ではアプリケーションによってはIPアドレスで利用できるエリアを制限したり、端末のMACアドレスで利用者を制限したりしています。その設定を洗い出して、必要に応じてネットワーク機器のポートを解放する作業が発生しました。

清水:そういった業務アプリケーションの細かな点は、標準的なソフトを使った1月からの試験運用では出てこないかったんです。営業担当が本格的に参画した4月からの検証で実際にサーバーとの疎通確認をし、問題を1つひとつ解決する必要がありました。

─ 200種類となると、ひと通り検証するのに随分と時間がかかったでしょう。

清水:かなり集中してやったので、1カ月程度で終えました。6月28日からは段階的に本番利用をスタートしています。

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