[市場動向]

【クラウド技術の標準化】鍵握る相互接続性 主要団体の最新動向

2010年10月12日(火)河原 潤(IT Leaders編集部)

今後、大多数のユーザー企業が自社のITインフラにクラウドコンピューティングを適用し、安心して利用できるようになるためには、ベンダーロックインの排除やデータの安全性確保が不可欠である。複数のクラウドサービス間、あるいはクラウドサービスとオンプレミスシステム間でアプリケーションを自由に移行可能で、しかも高いセキュリティの下で利用できるとなれば、ユーザー企業のクラウド化は一気に進むだろう。

 今、クラウドの相互接続性/相互運用性や、セキュリティ標準へのニーズが高まっている。本パートでは、クラウドにまつわる技術仕様/規格の策定・標準化やユーザー企業への利用促進に取り組む、国内外の主要な業界団体/コミュニティの動きを追う。

海外5団体の動き

 まずは、このテーマに取り組む海外の業界団体/コミュニティのうち、影響力の高い5団体の動向をそれぞれ見ていこう。

Open Cloud Manifesto(OCM)

 OCMは、クラウドのオープン化に関するマニフェスト(宣言文)「Open Cloud Manifesto」に賛同する企業・組織のコミュニティである。2009年3月、IBM、シスコシステムズ、SAP、EMC、ヴイエムウェア、ノベル、レッドハット、サン・マイクロシステムズ(現オラクル)、AT&Tなど欧米の大手ITベンダーが署名を寄せた同マニフェストがWeb上で公開されたのが活動の始まりで、マニフェストに記された、以下の6つの原則を活動の理念として、広く啓蒙していくことを目指している。

(1)クラウド事業者は、オープンなコラボレーションと標準の適切な利用により、クラウド適用の課題に協力して取り組む必要がある
(2)クラウド事業者は、極力、既存の標準を利用/適用する必要がある。また、既存の団体ですでに行われた標準策定作業を重複して行ったり、再策定したりする必要はない
(3)新しい標準(または既存の標準の修正)が必要な場合は、標準の乱立を避けるために賢明かつ実用的な態度を取る必要がある。標準は技術革新を促進するものであり、妨げるものであってはならない
(4)オープンなクラウドに向けたあらゆるコミュニティ活動は、顧客のニーズに基づき推進されるべきであり、クラウド事業者の技術的な必要性にのみ基づいて進められるべきではない。テストや検証も実際の顧客の要件に基づいて行われるべきである
(5)クラウド関連の標準化団体、支持団体、コミュニティは、互いの活動が矛盾または重複しないよう協業し、調和を保つ必要がある
(6)クラウド事業者は、市場での立場を利用して特定のプラットフォームに顧客を囲い込んで、事業者の選択肢を狭めてはならない

 OCMによれば、公開後2カ月で250の企業・組織が同マニフェストへの賛同を表明し、その数は2010年9月時点で370を超えるに至っている。ただし、その中にマイクロソフト、グーグル、アマゾン・ドットコムは含まれていない。

Open Cloud Consortium(OCC)

 OCCは2008年、複数の提供者によるクラウドサービスの相互接続性向上を目的とする、米国イリノイ大学シカゴ校やヤフーなどの企業・組織からなる業界団体である。OCCの活動で目を引くのは、「Open Cloud Testbed」と呼ばれる実証テスト環境の運営だ。このテスト環境は、参加組織のデータセンター間を10ギガビットEthernetで接続したサーバー群で構成され、2008年6月より、広域クラウドネットワークの演算性能ベンチマークをはじめとする各種の実証実験を行っている。

Open Cloud Standards Incubator(OCSI)

 OCSIは、IT運用管理技術の業界団体DMTFにおいて2009年4月に設立された、仮想化/クラウド環境の運用管理やサービス間の相互運用性の問題に取り組む作業部会である。幹事企業には、インテル、マイクロソフト、オラクル、AMD、CA Technologies、デル、ヒューレット・パッカード(HP)、EMC、IBM、シスコ、シトリックス・システムズ、ヴイエムウェア、富士通、日立製作所などの大手ベンダーが名を連ねている。

SNIA Cloud Storage Initiative(CSI)

 CSIは、ストレージ・ネットワーク技術の業界団体SNIAの作業部会であるSNIA Cloud Storage Technical Work Groupが運営するコミュニティだ。EMCやHP、日立データシステムズなどが参加する同団体は、2010年4月にクラウド管理インタフェース規格のCloud Data Management Interface(CDMI)を策定した。同規格は、クラウド・ストレージに格納されたデータのサービスレベル管理やサービス間のデータ移動に関する共通仕様などを定めたものだ。

Cloud Security Alliance(CSA)

 CSAは2009年4月、イーベイ、セールスフォース・ドットコム、PGP、クアリス、INGなどが設立した、クラウド環境におけるセキュリティ対策に特化した業界団体である。同団体では規格の策定は行わないが、クラウドサービス利用時のセキュリティレベルを高める技術/手法の啓蒙や管理者向けのガイドラインの策定などを行っている。

 なお、2009年5月には、情報セキュリティの業界団体Jericho Forumが賛助会員として加わり、クラウドセキュリティに関するベストプラクティスの確立に向けた共同研究を行っている。

日本発の取り組みも加速

 国内においても、クラウド技術の標準化に向けた業界団体やコミュニティの活動が活発化している。以下、積極的な活動を展開する2団体の動向を、キーパーソンの言葉を交えつつ紹介する。

オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)

 OGCは、政府系クラウドサービスの構築および各種規格の策定・標準化に取り組む業界団体。日本オラクルやIIJ、アクセンチュア、NEC、TIS、新日鉄ソリューションズ、CTC、トーマツ、沖電気工業などの企業が参加している。政府のe-Japan戦略に基づいて2004年に発足したオープンスタンダード・コンソーシアム(OSC)が、2009年6月に組織再編して再始動した団体である。

 刷新された活動方針には、OSC時代に十分な成果を生むことのできなかった反省が込められている。OGCの副代表幹事を務める中村彰二朗氏は、「OSCの活動は、はじめにシステム構築ありきという従来のIT投資モデルに沿ったものだった。そこでの教訓から、OGCでは『使い手が現れたらシステムを増やす』というように、投資構造自体をクラウド型へと転換した」と語る。この新たな活動方針は、政府主導のクラウドプロジェクトとして総務省の霞ヶ関クラウド構想に反映されている。

 OGCが掲げる目標は次の4つだ。

(1)クラウド環境のオープン化を実現するOpenAPIの整備・推進・普及
(2)クラウド環境の信頼性向上のためのガバナンス機能の強化と監査
(3)クラウド環境を支える環境配慮型データセンターの、デザインの普及と分散配置
(4)クラウド環境を支える、高度IT人材育成による産業振興

 大きな特徴と言えるのが、(2)のガバナンスの強化と監査への取り組みで、各種APIと併せて、セキュリティ/データ監査のためのAPIの策定が進んでいる。OGCは政府系だけでなく、企業が基幹系システムに安心して適用できるクラウド基盤の提供を目指しており、その際には「J-SOXやIFRS(国際会計基準)に準拠するため、データの所在や妥当性の監査を容易に行える監査APIが重要な役割を果たすことになる」(中村氏)。

 一方、ロードマップ(図1)に基づき、現在、急ピッチで作業を進めているのが、(3)の環境配慮型データセンターだ。そこで掲げられたPUE値1.2の達成や、日本の電力品質やデータセンター設備の要件に即した「日本版TIA942」の実現といった目標は、環境配慮もさることながら、データセンターの大都市集中化や高い電気料金などによって、現状、他国に大差を付けられている日本のデータセンターのコスト競争力の向上を意図してのものだという。

 「データセンターの郊外移転に加えて、建設法などの規制緩和によって『使う分だけ追加する』発想のコンテナ型データセンターの採用が進めば、コスト構造が劇的に変わる。OGCでは、まずはインフラ領域の国際競争力を引き上げることで、クラウドにまつわる日本の高い技術を海外へ輸出する、技術移転の礎を築きたいと考えている」(中村氏)。

オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)のロードマップ
図1:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)のロードマップ(出典:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム)

クラウド・ビジネス・アライアンス(CBA)

 CBAは、SaaS/PaaS/IaaS事業者が提供するクラウドサービスの相互連携を目的とした業界団体だ。ネットワンシステムズが設立を呼びかけ、趣旨に賛同したエクシードやソリトンシステムズ、ビープラッツなど15社により、2009年10月に発足した。現在の参加企業数はSaaS/PaaS事業者を中心に129社。ここにきて、IaaS事業者やユーザー企業の参加も増えているという。

 CBAは、クラウドビジネスのトライアルと、「SaaS/PaaS/IaaSイネーブル・フレームワーク」と呼ばれるフレームワークの策定・技術検証を活動の2本柱に掲げている(図2)。「活動が単に規格の標準化とその技術検証にとどまったら、ユーザー企業にとっては結局、お仕着せのものとなってしまう」(ネットワンシステムズの荒井透 取締役)との考えからだ。

図2 クラウド・ビジネス・アライアンス(CBA)の標準化対象領域
図2:クラウド・ビジネス・アライアンス(CBA)の標準化対象領域(出典:クラウド・ビジネス・アライアンス)

 発足から1年が経過し、同フレームワークの一部のAPIや、OpenSocialベースのSaaSユーザーインタフェースの標準化といった作業が順調に進んでいる。ビジネス面でも、SaaS/PaaSのマーケットプレース開設や、クラウドサービスの継続性に関するエスクロー系の取り組みが進められているという。エクシードの鈴木義則社長は、「SaaS/PaaS/IaaSのレイヤ分けで参加企業の役割分担を明確化したことで、それぞれのコアコンピテンシーに集中しやすくなったことも大きな成果だ」と話す。

 CBAの今後の活動について荒井氏は「参加企業各社がより主体的にかかわることで活動をより発展させていく。すでに、参加企業同士の協業による新規ビジネスがいくつか生まれており、今後は特に中小/ベンチャー企業にとってのクラウド関連ビジネスのマッチングの場としての役割がより重要になっていくと見ている」と語る。

河原 潤
ITジャーナリスト/本誌編集委員

 

関連キーワード

標準化 / 相互運用性 / OGC / SNIA / CBA / クラウドセキュリティ

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