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独SAPが最新の技術戦略を披露、米ラスベガスで開発者向けイベント開催

2010年10月21日(木)IT Leaders編集部

統合業務(ERP)パッケージベンダーとしての強みを生かしつつ、R&D(研究開発)やM&A(企業の買収・統合)を通じて新技術を積極的に自社製品に取り入れようとしている独SAP。同社が米国ラスベガスで開催中の技術者向け年次イベント「SAP TechEd 2010」で明らかにした技術戦略や新製品情報を中心に、現地での最新情報をレポートする。

「Instant Value. Sustained Results.」をテーマにした今年のTechEdは、ラスベガスのほか、独ベルリン(2010年10月12~14日に開催済み)、印バンガロール、香港など世界4地域で順次開催する。ラスベガスのTechEdには2010年10月18~22日の会期中、世界各国からのべ約5500人の技術者の参加を見込む。現地はSAPが示す最新の技術情報や製品情報を熱心に収集する人たちで賑わいを見せている。

19日の基調講演には、独SAPの最高技術責任者(CTO)であるヴィシャル・シッカ氏が登壇。同氏は直近の発表内容を中心に、同社のテクノロジーロードマップや、新製品を改めて説明した。

●最新技術
クラウド/モビリティ/インメモリーに注力

同社が今後の製品開発に当たって注力する技術は、(1)クラウド、(2)インメモリー・コンピューティング、(3)モビリティの3分野だ。

(1)のクラウドの中核を担う製品は、業務アプリケーションをSaaSとして提供する「SAP Business ByDesign」。統合業務(ERP)システムや顧客関係管理(CRM)、販売管理といった機能をネットワーク経由で利用できる。

同社のパッケージ製品群「SAP Business Suite」とはソースコードを共通化しておらず、ゼロから開発している。2010年8月に発表したバージョン2.5からは内部アーキテクチャを刷新し、マルチテナント機能を実装。顧客ごとに個別のサーバー環境を用意する必要をなくした。

Business ByDesignはSaaSとしての提供だけではなく、そのアプリケーション実行基盤部分をPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)としても提供する。併せて特定業務向けのSaaSも提供する。「ユーザー企業やパートナーが比較的シンプルで軽量なアプリケーションをこの基盤上で開発し、当社のERPやCRMなどの機能と連携させて利用する、といった用途を想定している」(シッカ氏)。

サービス基盤となるデータセンターは、サービスによって複数のセンターを使い分ける。Business ByDesignは独ヴァルドルフにある同社のデータセンターで稼働。企業のCO2排出量の可視化やレポートの作成機能を持つ「SAP Carbon Impact」はAmazon EC2上で動作している。日本国内のデータセンターの利用については国内事業者との協業によって進めており、既に同社のデータ分析SaaS「SAP BusinessObjects BI OnDemand」を富士通のデータセンターで稼働させている実績がある。

(2)のインメモリー・コンピューティングは、サーバー上のメモリーにデータを展開し、分析処理などを高速で実現するもの。「ますます安価かつ高速になるメモリーの技術を最大限に生かす」(シッカ氏)ことが、同社がインメモリー・コンピューティングに注力する理由だ。

この分野の中核製品として、インメモリーデータ分析アプライアンスの「SAP High-Performance Analytic Appliance(HANA)」を2010年11月30日に出荷開始すると発表した。これはSAPの分析ソフトウェアとサーバーをセットにしたアプライアンス製品。SAPがハードウェア仕様を決定し、同社製品の販売パートナーであるハードウェアベンダーが販売する。2010年5月にドイツのフランクフルトと米国フロリダ州オーランドで同時開催したユーザー企業向けカンファレンス「SAPPHIRE NOW」で、米ヒューレット・パッカードと共同開発することを発表している。

SAPはHPやIBMと協業し、既にアーリーアダプターへの同製品の試験提供を進めていることを明らかにした。さらに新しい開発パートナーとして、米シスコシステムズと、富士通のドイツ子会社であるFujitsu Technology Solutions(旧Fujitsu Siemens Computers)、米インテルが加わるという。

SAPは以前からインメモリー型アプライアンスの開発を進めている。2005年には米インテルとインメモリー分析アプライアンスの「SAP NetWeaver Business Warehouse Accelerator(BWA)」を共同開発し、富士通がサーバーと組み合わせてアプライアンスとして販売していた経緯がある。「HANAはBWAの進化版として捉えてほしい」(SAP米国法人ののMarge Breyaソリューション担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー)。

(3)のモビリティについては、「既存のSAPシステムと、モバイル端末との連携に力を注ぐ」(シッカ氏)。同社が今後開発・販売するモバイル関連製品には、買収を発表した米サイベースの技術が色濃く反映される。SAPとサイベースの共同チームである「Mobile Business Unit」は、SAPのアプリケーションの機能を各種モバイル端末から利用可能にするための開発キット群である「Mobile SDK」を開発中だ。2011年前半の提供を目指している。

●既存製品の強化
アプリ基盤と分析ソフトに新版

新技術だけではなく、当然ながら既存製品の機能強化も進める。会場で発表した新製品は、いずれも既存製品のアップグレードが中心だ。まずは同社のアプリケーション基盤製品群の最新版「SAP NetWeaver 7.3」。エンタープライズサービスバス(ESB)製品「SAP NetWeaver Process Integration(PI)」を機能強化し、新たにJavaのアプリケーションサーバー(APサーバー)のみでの導入や稼働を可能にした。今までは、JavaのAPサーバーのほかに、同社の開発実行基盤である「ABAP(Advanced Business Application Programming)」のAPサーバーが必要だった。ビジネスプロセス連携機能である「ccBPM」など、一部の機能はABAPのAPサーバーが必要となる。

バージョンアップした製品はPIをはじめ、ポータル製品「SAP NetWeaver Enterprise Portal(EP)」、ビジネスプロセス管理(BPM)製品やビジネスルール管理(BRM)製品を含むJavaアプリケーション開発・実行基盤製品「同Composition Environment(CE)」、データウェアハウス(DWH)やビジネスインテリジェンス(BI)ツールを含むデータ分析製品「同Business Warehouse(BW)」、モバイル基盤製品「同Mobile」の5製品。それぞれの製品は今までバージョンアップのタイミングが異なっていたが、今後はバージョンアップのタイミングを揃えるという。

一方、同社のデータ分析基盤製品群の新版「SAP BusinessObjects 4.0(BO 4.0)」も発表した。新たに、複合イベント処理(CEP:Complex Event Processing)製品の「SAP BusinessObjects Event Insight」と、データ品質に関する現状把握を支する「SAP BusinessObjects Information Steward」を新製品として製品ラインナップに加えた。ほかにもBO製品群同士のユーザーインタフェースの共通化の推進といった強化点がある。


写真1:基調講演に登壇した独SAPのヴィシャル・シッカ最高技術責任者(CTO)

関連キーワード

SAP / ByDesign / BusinessObjects / HANA / NetWeaver / ABAP

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