[イベントレポート]

インメモリーに注力するSAP、技術開発の主軸はリアルタイム性の追求

SAP TechEd 2010

2010年12月1日(水)鳥越 武史(IT Leaders編集部)

ペタバイト規模から知見を得る鍵はリアルタイム性とデータ品質の追求、買収したサイベースの技術を随所に生かす──。2010年10月下旬、IBM、Teradata、SAPの年次カンファレンスが立て続けに米国で開催された。企業が蓄積し得る膨大なデータ群から、競争力につながる知見をいかに速やかに得るか─。その解を追求するのが各カンファレンスに共通するテーマだ。

レポート3. SAP TechEd 2010
技術開発の主軸はリアルタイム性の追求
買収したサイベースの技術を随所に生かす

2010年10月18〜22日 米ラスベガス/独SAP

講演する独SAPのヴィシャル・シッカ最高技術責任者(CTO)講演する独SAPのヴィシャル・シッカ最高技術責任者(CTO)

景気後退を乗り越えた企業が今求めているものは、効果をすぐに体感できるIT投資だ。そうしたなか、独SAPは技術者向け年次イベント「SAP TechEd 2010」を米ラスベガスで開催。基調講演に登壇した最高技術責任者(CTO)ヴィシャル・シッカ氏は、同社が今後注力する技術として、(1)インメモリー・コンピューティング、(2)モビリティ、(3)クラウド、の3分野を挙げた。一見バラバラな3技術だが、それぞれにおける取り組みすべては、今回のTechEdのテーマである「Instant Value. Sustained Results.」を具現化する要素である。

インメモリー─瞬時の分析を可能に

サーバー上のメモリーにデータを展開し、分析処理などを高速化する「インメモリー・コンピューティング」。「ますます安価かつ高速になるメモリーの技術を最大限に生かす」(シッカ氏)ことが、同社がインメモリーに注力する理由だ。

この分野の中核製品として、インメモリーデータ分析アプライアンスの「SAP High-Performance Analytic Appliance(HANA)」を2010年11月30日からリリースすると発表した。これはインメモリー分析基盤ソフトである「SAP Business Analytic Engine」とサーバーをセットにしたアプライアンス製品だ。SAPがハードウェア仕様を決定し、同社製品の販売パートナーであるハードウェアベンダーが販売する。米ヒューレット・パッカードや米IBM、米シスコシステムズ、富士通のドイツ子会社である独富士通テクノロジーソリューションズ、米インテルと共同開発する。基調講演では、10億レコードのデータから、売り上げデータを1秒とかからず集計して表示するデモを披露し、会場の注目を集めた。

SAPは以前からインメモリー型アプライアンスの開発を進めている。2005年には、データウェアハウス製品「SAP NetWeaver Business Warehouse」に保管するデータを対象に、処理を高速化するインメモリー分析アプライアンス「SAP NetWeaver Business Warehouse Accelerator(BWA、旧BI Accelerator)」を米インテルと共同開発し、富士通がサーバーと組み合わせてアプライアンスとして販売していた経緯がある。

BWAとHANAの違いは何か。それは、HANAがデータウェアハウスだけでなく、同社のSAP ERPを中心とした業務アプリケーション群「SAP Business Suite」のデータベースから直接データを取得し、リアルタイムな分析を可能にしようとしている点だ。これを実現すべく、「サイベースの買収で得た『データレプリケーション』の技術開発に力を入れる」(シッカ氏)。データレプリケーションは、システムが利用するデータベース上のデータを、システムの稼働中に他のデータベースに高速に複製する技術。サイベースは、データレプリケーション製品の「Sybase Replication Server」を販売している。

基調講演の会場。会期中には、約5500人の技術者が参加した
基調講演の会場。会期中には、約5500人の技術者が参加した

モビリティー─場所を問わず使えるシステムへ

システム面ではなく、人的プロセスのリアルタイム性を高める要素としてSAPが注力するのが、モビリティ技術だ。高度な情報処理機能を持つスマートフォンなどのモバイル端末の普及により、外出中でも業務処理をこなせる環境が整ってきたことが、その背景にある。豊富なモバイル関連技術を持つサイベースの買収により、取り組みを一層加速させる。

象徴的な製品として、2010年末のテスト提供を目指してSAPが開発中なのが、単一目的別の軽量アプリケーション群「Mobile Instant Value Applications」だ。

交通費精算機能を持つ「Travel Expense Capture」は、その1つ。飛行機のフライトや宿泊先のホテルの予約、経費精算機能を持つ出張管理システム「SAP Travel Management」と連携して動作する。出張前にTravel Managementでフライトやホテルを予約し、出張先で旅費のレシートの写真を撮影。これを社内のリポジトリに送信し、Travel Managementに登録することで、交通費精算できる仕組みだ。「画面上でのタッチだけで操作できるので、外出中でもすぐに申請を完了できる」(モビリティ担当バイスプレジデントのソーステン・ステファン氏)。

サイベース買収の成果の1つとして、モバイル端末からSAPアプリケーションの機能を利用可能にするための開発キット群である「Mobile SDK」を、2011年前半に提供する。同時期には、SAP製品と他社製アプリケーションとの連携基盤である「Project “Gateway”」も提供。この1つとして、グループウェアからSAPアプリケーションを呼び出して利用可能にする製品を米マイクロソフトや米IBMと共同開発している。

展示会場のSAPブース。モバイル関連のブースは常に人だかりができていた
展示会場のSAPブース。モバイル関連のブースは常に人だかりができていた
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