[技術解説]

[識者の目]継続的改善が成功への道─初めから完璧などない!

あらためてSOAに挑む! Part3

2010年12月14日(火)生熊 清司

ここ数年、IT関連のセミナーや雑誌でSOAというキーワードを見聞きする機会が減っている。 しかし、SOAの意義は決して薄れていない。 本パートでは、SOAの本質を改めて整理するとともに、導入する際に考慮すべきポイントを洗い出す。

2009年1月5日、IT調査会社である米バートングループのバイスプレジデント兼リサーチディレクターであるアン・トーマス・メインズ氏のブログに「SOA is Dead; Long Live Services(SOAは死んだ;サービス万歳)」というエントリーが上がり、たちまち話題を呼んだ。ご記憶の方も多いだろう。これに呼応するように、米ガートナーのアナリストがブログに「Ahh Shucks, SOA Is A Failure(嗚呼、SOAは失敗だ)」と題して「SOAにより、コストはむしろ上昇し、プロジェクトは長期化し、システムはより脆弱になった」と書き込んだ。これらの意見をめぐって、ネット上で賛否両論、様々な意見が飛び交った。

SOAは無意味なバズワードだったのだろうか。答えは「No」だ。この話題に入るには、SOAとは何かを今一度、整理する必要がある。

SOAの本質はソフトウェアの部品化

近年、「不確実性の時代」や「戦略のパラドックス」という言葉で表現されるように、企業を取り巻く環境の変化はあまりにも急激である。こうした変化のスピードにシステムが追随できず、むしろビジネスの足を引っ張るリスクになりかねないという不安がIT部門の間で拡大している。SOAは、こうした不安を解決するために有効な手法として登場した。SOAにより、アプリケーションの重複開発を排除できるほか、開発の柔軟性が高まるメリットを期待できるからだ。

では、そもそもSOAとは何か。ITRは、SOAを「ソフトウェアをサービスという部品に分割し、それらを組み合わせてシステムを構成する手法」と定義している(図3-1)。つまり、SOAの本質はソフトウェアの部品化である。そう考えれば、SOAは新しい概念ではないし、何かの突然変異で現れたものでもない。構造化プログラミングをはじめ、古くから同様の発想はあった。

図3-1 ITRが考えるSOA
図3-1 ITRが考えるSOA 出典:ITR
図3-2 SOAの基本構造
図3-2 SOAの基本構造 出典:ITR

SOAの基本構造はシンプルだ。(1)サービスを組み合わせて必要な処理を行うプログラム(サービスコンシューマ)、(2)汎用的に利用できる1つの機能を持つプログラム(サービス)、(3)サービスコンシューマとサービスを接続する通信とメッセージ、という大きく3つの要素から成る(図3-2)。

実際にSOAを用いたシステムを構築する際には、こうした基本構造に加えて、複数のサービスコンシューマが、サービスの在処や接続方法を知らなくてもサービスを呼び出せる環境を提供する技術を利用する。具体的には、サービスを検索・照会するためのイエローページ(UDDI)、標準化した通信を行うためのメッセージ言語(XML)や通信プロトコル(SOAP)、基盤としてESB(Enterprise Service Bus)などである。ただし、SOAは構築手法であるので、必ずしも特定の技術や製品を利用しなければならないわけではない。SOAにおいて、技術や製品はあくまでも手段であって目的ではない。

実施済み企業は1割以下
欧米との間に大きな温度差

それでは、国内においてSOAの実施はどの程度進んでいるのだろうか。ITRは2005年度から毎年、「SOAによるシステム構築」の導入状況を調査している。2009年度の調査結果を見ると、「すでに実施している」と回答した企業の割合は全体のわずか7.8%だった。ただし、同項目の数値は年々増加しており、現在集計中の2010年度の調査結果でも、前年を若干上回る見込みである(図3-3)。

図3-3 SOAによるシステム構築の実施率
図3-3 SOAによるシステム構築の実施率 出典:ITR「IT投資動向調査2010」

だが、「1〜3年以内に実施予定」と回答した企業の割合は、2007年度の24.1%をピークに減少傾向にある。その一方で「検討後、実施しないと判断した」という企業は4年間で1%増加している。これらの結果から、SOAは一部の企業では導入が継続されているものの、新規に取り組む企業は減少傾向にあり、半数以上の企業ではいまだに検討すらしていない状況が続いていることが分かる。

これは、世界共通の傾向なのだろうか。

ITRの提携先である米フォレスターリサーチが実施した調査では、Global 2000(米フォーブス誌が毎年発表する世界の株式公開企業上位2000社のランキングリスト)に属する企業の84%が「SOAをすでに利用している」、あるいは「今後利用することを予定している」と答えた。さらに、北米および欧州では、社員数が100人以下の小規模企業であっても、42%が「SOAを利用している」あるいは「今後利用する」と回答しており、日本とは全く異なる様相を示している。

日本におけるSOAの普及は、欧米に比べて大幅に遅れていると言わざるを得ない。しかし、ユーザー企業はSOAに全く興味を持っていないかというと、そうではない。実際、企業のITリーダーにインタビューするとほとんどの場合、「現在のシステムには限界を感じており、SOAの有効性は認めている」という意見が返ってくる。それにもかかわらず、SOAを利用したシステム構築に踏み切らない理由は何か。インタビューでそうした疑問をぶつけると、「カイゼン文化なので、全社的なアーキテクチャを変えるアプローチはそぐわない」という答えが返ってくることが多い。「SOAを入れるからには、全システムを対象にしなければならない」と考えているのだろう。「SOAか否か」という“ゼロ/イチ”の発想に陥ってしまい、身動きがとれなくなっているのだ。

2009年10月、オランダでSOAシンポジウムが開催された。ここで発表された「SOAマニフェスト」は、SOA利用への道筋を描くうえで参考になる。策定したのは、IBMやマイクロソフト、オラクル、レッドハットなどのエンジニアやアーキテクトだ。冒頭で紹介した「SOAは死んだ」のメインズ氏も、策定メンバーに名を連ねる。

このマニフェストは、SOAにおいては次の6点を重視すべきだと宣言する。

  • 技術的な戦略よりも、ビジネスでの価値
  • プロジェクト固有の利益よりも、戦略的な目的
  • 個別の統合よりも、本質的な相互運用性
  • 特定の目的での実装よりも、共有サービス
  • 最適化よりも、柔軟性
  • 初期段階での完全性の追求よりも、進化的な改善

SOAと聞くとつい、全社を挙げての大がかりな取り組みを想像し、なかなか一歩を踏み出せない日本企業にとって、特に6点めは示唆に富んでいる。システムをゼロベースで新調できる新興企業ならいざ知らず、長年にわたって追加や変更を施しながら利用してきた既存システムを抱える企業にとって、SOAの実装は部分から始まり、改良を加えながら徐々に対象を広げていくもの。数年で結果が出るものではないことを、よく理解しておきたい。

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