[Gartner’s Eye]

業務システムをSaaS化するにはクラウド基盤の弾力性にも配慮を

2010年12月16日(木)ガートナージャパン

業務システムをSaaSに移行する際、コスト削減や短期導入の視点だけでなく、クラウド基盤に柔軟にリソースを増減できる弾力性があるかどうかを考慮したい。業務内容を吟味し、SaaSに向く業務とそれに見合う最適なクラウド基盤の見極めが重要となる。
※本連載はガートナーのリサーチ「The Future of Outsourcing and IT Services: Special Report」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです。

クラウドに対するユーザー企業の関心が高まる中、社内にある業務システムをクラウドに移行する動きが出てきた。初期導入費や運用費を削減できるコストメリットはもとより、リソースを柔軟に増やしたり、不要なら容易に利用を停止したりする“弾力性”を享受できるからである。

ただし、業務アプリケーションをSaaSに切り替える場合、すべてのSaaSが同じ弾力性を持つクラウド基盤上で稼働しているわけではない点に注意したい。業務内容やアプリケーションの複雑性などにより、運用に最適なクラウド基盤は異なる。ユーザー企業はSaaSの利用に際し、クラウド基盤にどこまで弾力性が必要かを考慮しなければならない。

弾力性は一般的に、インフラやデータベースなどを共有すればするほど高くなる。複数の利用者に対してインフラやデータベース、アプリケーションを共有するマルチテナント方式は比較的弾力性が高い。一方、利用者ごとにデータベースやアプリケーションを用意する場合は弾力性が低くなりがちだ。

ガートナーは弾力性とコストを軸に、現時点の技術とサービスの状況を踏まえてアプリケーションを3つに大別し、それぞれに見合うクラウド基盤を図1のように整理している。

図1 「適材適所」の発想でアプリケーションを分類する
図1 「適材適所」の発想でアプリケーションを分類する 出典:ガートナー

弾力性とコストを勘案し最適なクラウド基盤を選定

「コモディティ化したアプリケーション」は、基本的にカスタマイズはせず標準化された機能をSaaSとして利用する。複数ユーザーに対して共通機能を提供することから、ベンダーは運用費を削減でき、ユーザー企業は価格競争力のあるサービスを利用可能となる。インフラからアプリケーションまでを共有するため弾力性が高く保つことができ、規模の経済性も効く。

「複雑なアプリケーション」は、標準化しにくい企業固有の機能を実装する。パフォーマンス要件の厳しいアプリケーションや、非常に高い稼働率が求められる場合などが相当する。コモディティアプリケーションに比べて弾力性が低くコストも高くなる傾向があるものの、企業が求める個別要件を満たしやすい。

中間にある「カスタマイズアプリケーション」はインフラのみを共有し、その上で稼働するアプリケーションを要件に応じてカスタマイズする。いわゆるPaaSにあたり、大企業の中には本格的な活用を検討する動きもある。

弾力性の高さとアプリケーションのカスタマイズ性はトレードオフの関係にある。両者のバランスとともに、コストやアプリケーションに求める要件なども踏まえ、最適なクラウド基盤を調達することがユーザー企業に求められる。

業務を細分化しSaaS化に向く業務を洗い出す

では具体的にどの業務システムがどのアプリケーション領域に当てはまるのか。それにはまず、業務内容を細分化し、SaaS化しやすい業務としにくい業務を明確化することが大切だ。一般にメールやグループウェアはSaaSに移行しやすく、会計などの基幹系システムは逆に難しいと言われるが、必ずしもそうではない。参考までにCRM、ERP、SCMにおける現状について概説しよう。

営業支援(SFA)はベンダーが早くからSaaS化に着手した領域で成熟度が高まっている。Webサイトなどを通じて顧客に開示するシステムではないため、試験的に導入しやすい点も普及した一因である。

一方、テキストマイニングやWebアナリティクスなどのマーケティング/分析系システムのSaaSについては、ベンダーの専門性は高いものの企業規模は必ずしも大きくないため、洗練されたSaaSの提供という意味での進展はこれからである。コンタクトセンター向けシステムの場合は、新商品発売後などの一時的なアクセス集中に備え、弾力性の高いクラウド基盤のメリットを生かすことができる。しかし現状は、高度なワークフローや複雑な業務要件を満たす上で、SaaSの成熟度はそれほど高くない。

人事/給与関連システムのSaaS化が顕著である。特に採用や後継者育成、報酬管理などのSaaSは、海外ベンダーの日本進出も活発であり、選択肢が増えている。マルチテナントとしてコモディティ化も進む。

財務/会計システムは中堅/中小企業向けに標準的なERPの機能を提供するSaaSが徐々に登場している。業種や企業向けに個別要件を追加することが多い生産/販売管理システムのSaaSでの提供は少ない。

購買/調達システムのSaaS化が進む。複数の企業間で共通アプリケーションを利用できるSaaSは合理的なことから、企業間で業務がまたがる輸送管理や、EDI(電子データ交換)を含む複数企業間のサプライチェーン統合ソリューションでもSaaS化の動きが見られる。

本連載はガートナーのリサーチ「The Future of Outsourcing and IT Services: Special Report」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです

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※本連載はガートナーのリサーチ「The Future of Outsourcing and IT Services: Special Report」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです。

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