[青木顕子のスウェーデンIT通信]

歴史と芸術の街「ベルリン」のもう1つの横顔

青木顕子のスウェーデンIT通信 Vol.9

2011年5月31日(火)青木 顕子

早くも6月を迎え、スウェーデンは本格的な白夜のシーズン。地球の動きの妙を身をもって感じる一方、日頃の報道をチェックしているとITの世界も日々動きがあることを実感する今日このごろだ。

夏至まで、あと1カ月を切った。ここストックホルムの日の出は03:48で、日の入は21:43。夜が更けても空がほんのり明るく、この地で生まれ育った人でも寝不足気味になる季節の到来だ。そんな白夜の地から、今回は3つの話題をお届けしよう。

EuroCloud賞の近況

さて、まずは前回お伝えした「EuroCloud 賞」レースのスウェーデン国内の結果からお伝えしよう。スウェーデン国内からのエントリーは、格段に大きなドイツ市場からのものと互角との評判で、クラウド分野におけるイノベーション力の強さと注力度を表わす結果となった。具体的に、この秋のヨーロッパコンテストへと進む切符を手にしたのは、以下のメンバーである。

(1)クラウドサービス:マーケットで高く評価されるクラウドサービスが対象
    CityCloud (City Network Hosting AB)  http://www.citycloud.se/

(2)スタートアップ:設立3年以内の若手企業が対象
    Severalnines AB  http://www.severalnines.com/

(3)ケーススタディ(民間部門):クラウドサービスの利点を示すショーケース。重点選定項目は、コスト、競争力、市場拡大性、顧客メリット、環境への対応
(4)ケーススタディ(公共部門):税金が安全かつ最大限に活用されたクラウド投資事例を選定。例えば、新しい市民サービス、政治家が的確な判断を下せる環境づくりなど。
    eBuilder AB(民間/公共部門を共に受賞) http://www.ebuilder.com/

CityCloudはユーザーフレンドリーなIaaSサービスが高く評価された。Severalnines社は各種の設定が直感的にできるコンフィグレータに加え、基幹業務におけるデータベースのクラウド化を実現する斬新なアイデアが注目を集めた(主力製品はClusterControl)。

一方のケーススタディ部門において、民間/公共の両部門を受賞したのがeBuilder社による導入事例だ(民間部門:Alfa Laval社のロジスティック部門のSCM改革。公共部門:Region Västra Götaland<西ヨータランド郡>に納めたE調達ソリューション)。同社グループは2006年、SCMベンダーのParcelhouseとEコマースベンダーのMarakanda Marknadsplatsが統合して設立。Canon、Sony Ericsson、SAAB、SCANIA、スウェーデン政府など名だたる顧客を抱えている。「Order Fulfillment」などのサービスを提供しており、ネットを活用しながら全体最適の視点で調達/物流などの業務を高度化するノウハウに秀でている。2つの事例においても、オペレーションの効率化とコスト削減における成果が評価対象となった。

これらスウェーデン国内の受賞者が、ヨーロッパ本戦でどこまで食い込めるのか。結果はまた6月末にお伝えしよう (参照: EuroCloud Swedenホームページ)。

公的機関に広がるクラウドの波

次もクラウド関連の話題が続く。昨今、コミューン(市)をはじとする公的機関でも、比較的安価なクラウドサービスへの要求が高まりをみせている。象徴的な動きとして、スウェーデンKammarkollegiet(金融業務法政庁)が、業務で使用するオフィスアプリケーションのクラウド化を検討し、入札の準備をスタートさせた。同庁の担当者、ダニエル・メリーン氏が、スウェーデンの大手ITメディアであるComputer Sweden誌に対して概要を明らかにし、世間の耳目を集めている。

Kammarkollegietにとって、オフィスアプリケーションのアップグレードに要する膨大なコストが課題になっていた。同庁が予備調査してみたところ、アンケート実施やプロジェクト管理など一部の業務でクラウドサービスを利用している公的機関はすでに40パーセントに上っていた。もっとも、オフィスアプリケーションを利用しているのは、首都ストックホルム近郊のサレム州のみ。Eメール、カレンダー、連絡先など、オフィス業務で広範囲に使っていこうという動きは、まだこれからというのが実態だった。

とはいえ、高まるコスト削減へのプレッシャーの下にあっては、標準化された比較的低額なクラウドサービスへの期待は高い。先のサレム州においては、3年間でおよそ1500万クローネ(日本円で約2億円)のコスト削減が見込まれているとの情報も、Kammarkollegietが積極的にオフィスアプリケーションのクラウド化を検討する後押し材料となった。

現在、フレームワーク協定の入札候補は、以下の3サービス。
  ・Google Apps
  ・IBM Lotus Live
  ・Microsoft Office 365

今秋の入札を待って、結果はあらためてお伝えする。なおKammarkollegietは、オフィスアプリケーションに限定することなく、他の業務領域においてもクラウドサービスの活用を検討していく意向を示している。(参照:Computer Sweden

IT起業家が目指すベルリンという街

ITを駆使した斬新なビジネスモデルを引っさげ、世界で勝負したいというアントレプレナーがいたとしたら、どこに拠点を構えるだろうか。日本の企業家なら、手堅い米国のシリコンバレーが筆頭に挙がるかもしれない。スウェーデンにはシスタという世界的なIT産業の集積地があり、今なおITベンチャーの拠点として高い知名度を誇っている。

新しい動きとしては最近、スウェーデンの若手企業を中心に、ドイツのベルリンが人気を集めている。ベルリンは、ヨーロッパのスタートアップ企業のメッカ、「シリコンアレー(allee:散歩道)」と呼ばれるほど存在感を強めているのだが、もしかすると日本ではあまり知られていないのではないだろうか。

例えば、書評共有サイトを展開するReadmillは、今年3月にベルリンでビジネスをスタートさせた。同社によると資金調達の面もさることながら、志同じくする起業家や各分野で活躍するアーティストなど、先進的アイデアをもつ人々と出会い交流できる“場”がうまく機能している点がベルリンの最大の魅力という。「音のコミュニティ」というコンセプトの下で2007年に設立し現在は400万のユーザーをもつSoundCloud。研究者専用のLinkedInと称される科学者コミュニティResearchagate。勢いあるいずれのベンチャーも、ベルリンからビジネス拡大を目指している。シリコンアレーのベルリンを目指すIT起業家は、世界中に広がっているようだ。徐々に姿を変えつつある芸術の町ベルリンに、これからも注目していきたい。

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