[Gartner’s Eye]

グローバル企業が検討すべき「キャプティブセンター」の価値

2011年6月16日(木)ガートナージャパン

オフショア開発によりコスト削減を図る企業は多い。だがそれだけでは中長期的に十分な削減効果が見込めなくなるのも事実だ。そこで欧米のグローバル企業の間では、海外の人材を直接雇用し、上流工程まで含めた広範な業務を任せる「キャプティブセンター(Captive Center)」を設置する動きが広まっている。

ITにかかるコストを抑制するため、大手企業は海外のIT企業に業務を委託するオフショア開発を活用してきた。安価で優秀な労働力が見込めたからだ。しかし中長期的には、オフショア開発に出す業務が飽和し、継続的にコストを削減し続けるのは難しい状況が生じる。リーマンショック以降、コスト削減要求が一段と厳しくなった欧米企業ではオフショアの割合を引き上げようとしたものの、開発をオフショアするだけではほとんど削減できないという壁に突き当たった。

そこで委託する業務の拡大に踏み出す企業が現れ始めた。要件定義やアーキテクチャ策定といった上流工程を含めてオフショアし、人件費やプロジェクト費用をさらに縮小しようとしているのだ。だが、成果物の品質を左右する上流工程のオフショアには大きなリスクが伴う。

こうした経緯を経て、安価な労働力を得られる海外に、IT関連業務を遂行する拠点「キャプティブセンター(Captive Center)」を、自ら作る動きが活発化している(本誌注:キャプティブセンターは海外の人材で組織し、海外に拠点を置くシステム子会社)。自社の統制下で広範な業務をオフショアにシフトできるようになるほか、コスト削減が見込めることから、戦略的なIT投資に打って出やすくなる。

各種機能を集約しコスト削減を促進

キャプティブセンターは一般に、要件定義やアーキテクチャ策定といった工程から、開発やテスト、運用工程までを幅広く担う。グローバル企業においては、海外に展開する事業所のITを集中管理する役割も備える。予算管理やベンダーマネジメント、業務プロセスの標準化などに携わるわけだ。

本国を含めた各国の事業所にあるIT部門は、商習慣や文化に応じたソリューションのローカライズを受け持つ。このような業務の切り分けを徹底し、キャプティブセンターにIT関連業務を集中することが、長期的かつ効果的なコストメリットをもたらす。

内製志向の強い欧米企業は2000年頃からキャプティブセンターに関心を寄せ、展開を加速させている。現在は成長著しいアジア市場を見据え、インドにセンターを構える動きが顕著となっている。

安易な設置は禁物、存続の難しさを認識せよ

もちろんキャプティブセンターの設置には課題もある。まず適切なスキルを持つ現地スタッフを雇用し、スキルアップやキャリアアップといった人材の育成や配置も念頭に置かなければならない。

雇用する人数も重要だ。数十人程度の規模では管理コストが膨らみ、十分なコストメリットを見込めない。キャプティブセンターを設置した欧米企業の中には、規模が不十分なために費用だけがかさみ、結果として機能する前に売却するケースもあった。

ガートナーは、アプリケーションの開発や保守などの業務にあたるセンターをインドに設立するなら、600人程度の雇用が必要と考える。立ち上げから18カ月以内にこの規模に達しない場合、自営のセンターではなく、現地企業などに業務を委託する方が適切である。

キャプティブセンターの設置には先行投資が必要となるほか、一度稼働しだしたら撤退するのが難しいといった側面もある。設置を検討するユーザー企業は、中長期的な視点で運営できるかどうかを、慎重に見定めることが求められる。アウトソーシングとの使い分けを明確化しておくことも必要である。

図 アウトソーシングとキャプティブセンターのメリット/デメリット 出典:ガートナー
図 アウトソーシングとキャプティブセンターのメリット/デメリット

成功の鍵は長期的な成長計画

キャプティブセンターを成功に導くために注意すべき点は以下の通りである。

  • 目的の明確化

    センターが果たす役割を明確に定義し、現実的に機能する業務を集約する。機能変更は追加費用のリスクを伴うので、事前に取り決めておくことが望ましい。当面は集約しきれない業務をアウトソーシングすることを想定し、現地企業の評価も並行して実施する。

  • 規模と成長計画の策定

    ビジネスの目標達成を支援するのに必要な規模を定め、事業拡大とともにキャプティブセンターを増強できるプランを策定する。増強に際して従業員を必要数確保できるかどうかも念頭に置く。

  • 従業員やステークホルダーの理解

    国外でのキャプティブセンターの設置で、ある部署が受け持っていた機能を移行させることも起こりえる。このような場合、その国では仕事を失う従業員も出てくる。どのような影響を与えるのかを従業員やステークホルダーに明らかにし、想定し得る課題に対処できる体制作りが求められる。

本連載はガートナーのリサーチ「Comparing Captive Centers and Outsourcing, 2010-2011」をもとに日本人アナリストが編集・加筆したものです

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
Gartner’s Eye一覧へ
関連キーワード

オフショア / ITアウトソーシング / BPO / Gartner

関連記事

トピックス

[Sponsored]

グローバル企業が検討すべき「キャプティブセンター」の価値オフショア開発によりコスト削減を図る企業は多い。だがそれだけでは中長期的に十分な削減効果が見込めなくなるのも事実だ。そこで欧米のグローバル企業の間では、海外の人材を直接雇用し、上流工程まで含めた広範な業務を任せる「キャプティブセンター(Captive Center)」を設置する動きが広まっている。

PAGE TOP