[マイ・オピニオン ITを巡る私の主張]

ICT改革でさらなる飛躍へ─求められる、経営トップやCIOの意識改革[後編]

2011年10月5日(水)生野 勝美

デジタル情報革命は現在も進展中であり、恐らくまだ100年単位で続くだろう。筆者が初めて企業に就職した当時からわずか40年余りで、ICTの世界は様変わりした。現在のPCが持つ性能は、当時工場で使っていた汎用コンピュータを遥かに凌ぐ。マルチメディア機能に至っては、比較にならないほどだ。インターネットの普及も想像を超えている。

意識の改革が重要

これから50年、100年後のICT社会を正確に予測できる人は誰もいない。ICチップの集積度の向上や通信の高度化、端末類の使いやすさの進展、ソフトウェアやソーシャルメディアの充実といったことが、これらと関連するイノベーションとのシナジーによって無限の可能性が生まれる。社会やビジネスの変革は、過去40年の比ではないだろう。このICTの進展は業務のやり方やワークスタイルに変革をもたらす。それは企業にとって大きな儲けの源泉となる。情報システム部門は、単なるサポート部門ではなく、生産部門や開発部門と同様にビジネスの「本業」を担っているという意識に立って、ことにあたることが重要である。会社の新たな事業や市場、収益を生み出すという点で、情報システム部門は「本業部門」そのものなのである。

ICTの世界は、常にコンセプトやビジョンが先行する。しかも、その先行の度合いが著しく大きい。昔から、MISやSIS、CALSといった言葉がブームになっては消えていった。いずれも「経営情報管理システム」を目指したもので、あらゆる経営データが常時見える化され、場所や時間を問わずに素早い行動を可能にする、理想的なシステムである。昔は絵空事に見えたこのコンセプトも、様々なイノベーションの進展によって部分的には現実のものになりつつある。そのことにいち早く気付き、差異化に直結するシステムをものにすることで“果実”を享受している会社もある。こうした先進企業とそうでない企業との収益力格差は益々広がる。トップの意識改革が何より大事なのである。

情報システム部門/部門長は、ICTイノベーションが進展する時代のうねりを捉え、もっと自信とプライドをもって業務改革やワークスタイルの変革に努力してほしい。自分たちの仕事は、会社の将来を支える「本業」なのだ、という意識を持つことだ。何より重要なことは、ICT以前に、自社の製品/サービスの先にある顧客やマーケット、社会に目を向けることである。顧客の満足や評価を得るために営業はどうあるべきか、サービスをどうサポートすべきか、開発や生産は、といったことだ。

ポイントはアイデアにある。改革マインドの強い部門のキーパーソンとの連携を大事にし、アイデアを具体化するための先進ICTの利用方法を深く考え、積極的な提案をすることだ。これからはクラウドをはじめ、ソフトウェアの機能をインターネット経由で利用するスタイルが拡大する。ソフトウェアやソフトウェア+アドオン、手組みのアプリケーションを組み合わせ、自社の業務領域をカバ-するシステムを構築し、ビジネス全体の生産性アップを実現して、その成果を社内外に広く知らしめることが大切だ。

ICT改革マインドを高めるには役職に応じた社員教育も大事だが、とかく見逃されがちなICT部門の人事/組織面についても、下記のような工夫や配慮が必要だと考える。

  1. CIOは可能な限り専任がよいが、兼任であっても活動の長期性や継続性、担当社員のモラルの観点からも、短期の交代は控えるべき
  2. システム部門長の権限強化策や、実績を重視したCIOへのキャリアパスを考慮する
  3. 人事ローテーションや人事交流の実施
  4. 経営企画部門との連携強化

中小企業では、慢性的な人材不足やそもそもの余裕のなさで、ICTによる改革に取り組む機会をなかなかつかめないところがほとんどだ。一方で、インターネットをフル活用し、マーケティングやセールス、サービスにおいて新しいビジネスモデルを確立し、安定成長を続けている会社も珍しくなくなってきている。こうした違いは、トップの意識や意欲の違いを反映したものだ。クラウドサービスの利用経験などがその契機になると考えるが、中小企業に対する大手ICTベンダーやコンサルティング企業の対応は、まだ十分とはいえない。

終わりに

サムソンやLGといった韓国企業の躍進ぶりが話題に上ることが多い。オーナー経営者の素早い決断と実行、グローバル市場での強いマーケティング力が、こうした韓国企業の特徴だといわれる。人材の引き抜きや安値攻勢といった行き過ぎたオペレーションを指摘する声はあるが、彼らの根底にあるのは、小さな自国の市場から飛び出て世界で戦うしかないという、ハングリー精神や気概ではなかろうか。これらこそ、今の日本の多くの企業にとって最も必要なものだと思う。

日本は、経済の長期低迷をはじめ多くの課題を抱えている。混迷する政治に多くを期待できないなか、こうした課題を解決に導くのは容易なことではない。日本企業の製品/サービスや魅力、ひいては日本全体の魅力を高めて、世界の人々の評価を得ていくしか道はないのだ。まだまだ進化するICTを活用すれば、飛躍の可能性を増大する。不毛な議論を繰り返している余裕はない。冒頭で述べた2つの項目に関する改革に不断に取り組み、企業の成長と進化を進め、日本およびグローバル社会に貢献することを期待したい。

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生野 勝美
大手建機メーカーにて工場、本社のICTや企画部門に従事。ICT部門長として全社のシステム行政全般を担当。その間、海外拠点も含めた業務改革とグローバル基幹システムの再構築を推進。リタイヤ後(2006年6月)、製造業を中心に経営・ICTコンサルティングを始める。小松短期大学非常勤講師、フューチャーナレッジコンサルティング(FKC)社外取締役。
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