[ザ・プロジェクト]

事業部ごとにサイロ化したWebサイトをCMSで統合、会員情報の一元化などで売上高拡大の成果も─日本能率協会マネジメントセンター

2011年10月24日(月)川上 潤司(IT Leaders編集部)

Webサイトが重要なビジネスチャネルになるのに伴い、その基盤整備に力を注ぐ企業が増えている。中核となるのは、コンテンツの配信や複数Webサイトの統合管理を容易にするCMS(コンテンツ管理システム)だ。事業部ごとにサイロ化したWebサイトをCMSで統合した日本能率協会マネジメントセンターのプロジェクトを紹介する。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

市川 真大 氏
市川 真大 氏
日本能率協会マネジメントセンター 情報システム部 次長
1998年4月に日本能率協会マネジメントセンターに入社。通信教育事業本部にて、事業部内業務システムの保守・改善などの業務に従事する。2005年4月、総務部業務・システム推進室(現在の情報システム部)へ異動し、基幹系システム刷新プロジェクトをけん引する。2009年4月より現職。現在は全社のIT計画・施策・投資を管理している

 

本間 秀一 氏
本間 秀一 氏
日本能率協会マネジメントセンター 情報システム部 主任
2001年4月、日本能率協会マネジメントセンターに入社。HRM開発本部にて、Webサービスの保守や改善などの業務に従事する。2006年4月に総務部(現在の情報システム部)へ異動。全社Webサイトのリニューアルを手がける。2011年4月から現職。引き続き、全社Webサイトの運営管理のほか事業部内業務システムの保守や改善を担当している

 

─  「能率手帳」は多くのビジネスパーソンが知るところですが、それを扱っている貴社の名前をスラスラ言える人は少ないような気がします。改めて事業内容を教えてください。

市川: 手帳や日誌などの商品を開発・販売する「ビジネスツール事業」のほかに「出版事業」、そして通信教育や社員研修からなる「人材育成事業」と大きく3つの柱があります。

─  市川さんの背後に並んでいるのは来年版の手帳のようですが、2012年の手帳商戦がもうスタートしている?

市川: 店頭に並ぶのは少し先になりますが、受注や出荷が今(注:9月)ちょうど忙しくなるタイミングです。

本間: 1社が出荷時期を早めると他社も前倒しする。その繰り返しで手帳の事業は毎年少しずつスタートが早まっているんです。

─  Webサービスやスマートフォンでスケジュール管理する人が増えて、手帳のビジネスは厳しさを増しているのでは。

本間: 正直なところ、2005年をピークに縮小傾向にあります。ただ、手帳の愛用者が今なお大勢いることも事実です。私は昨年までEC(電子商取引)システム経由の販売や問い合わせ対応も担当していたのですが、「システム手帳のリフィルで○○番の商品はやめてしまったのか? 使いやすかったのに」という“熱い”問い合わせをしばしば受けました。

市川: やはり紙ならではの使い勝手があるのだと思います。かつて電子手帳が出始めた頃、いずれ紙の手帳はなくなってしまうのかなという不安を募らせた時期がありましたが、実際はそんなことはなく両者を使い分けている方が多い印象ですね。

─  確かに。最新のWebサービスやIT機器の動向をウォッチしている記者の中にも、紙の手帳をメイン、Webやスマートフォンをサブとして使うケースが結構目立ちます。

サイロ化したWebサイトが会員情報などの活用の壁に

─  前段はこれくらいにして本題に入りましょう。貴社はWebサイトのリニューアルを機にCMS(コンテンツ管理システム)を導入して運営効率を高めたと聞いています。まずはプロジェクトの経緯を聞かせてください。

本間: 少しさかのぼってお話しましょう。当社がWebサイトの活用を本格化したのは2000年のことです。ビジネスツール事業の商品を紹介をするWebサイトやECシステムを立ち上げたのが始まりです。

─  構築は情報システム部門が中心になって?

市川: いや、情報システム部が独立した組織になったのは2008年で、それ以前は総務部の1セクションでした。そんなこともあって、当時は個々の事業部がそれぞれITベンダーに依頼してWebサイトやECシステムを構築していた状態です。

─  Webサイトが事業部ごとにサイロ化していた。色々と問題があったでしょう。

市川: おっしゃる通りです。例えば、ECシステム経由で手帳を購入した人が通信教育も受講するというケースがあります。そのとき、想像がつくと思いますが、同じ会社の商品/サービスを利用するのに異なるWebサイトで申し込みをしなければなりません。

─  貴社の中でもWebサイトの会員情報の重複や管理の手間が増えるといった問題が出てくる。

本間: 出版事業の書籍はビジネスツール事業のECシステムで管理していたので会員情報を一元化できていましたが、人材育成事業だけは別立て。メールマガジン会員も人材育成事業と他の事業で別々でした。

─  すべて一元化していれば手帳と出版、通信教育のクロスセルの機会を作れるかもしれない。そう考えると歯がゆい。

市川: そうですね。幸いなことに手帳のブランド力は比較的に高いわけですが、それを人材育成事業のアピールに生かすことが難しかった。

本間: 基幹系システムとの連携も課題でした。ECシステムと基幹系システムが連携していないので、手帳を受注しても基幹系の在庫にすぐには反映できません。返品時も同様です。

市川: Webサーバーの所在やWebサイトのデザインもバラバラで、システムガバナンスとブランディングの観点からも問題を抱えていました。

─  なるほど。当然と言えば当然ですが、サイロ化の影響は多岐にわたりますね。

Web刷新と並行してERP導入
ソフトの選定を巡り一波乱

─  数々の問題を一掃するためにWebサイトのリニューアルに着手したのは、いつでしょうか。

市川: 検討を始めた時期でいうと、2005年です。

本間: 実際にプロジェクトがスタートしたのは2007年のゴールデンウィーク明けになります。

─  検討に2年も費やした?

市川: また話が少しそれてしまいますが、よろしいですか?

─  どうぞ、どうぞ。

市川: 実はWebサイトと同様に、受発注をはじめとする基幹系システムも事業ごとにバラバラだったのです。しかも2007年にサポート終了を控えたWindows NTベースだったため、2005年から1年かけて再構築の計画づくりを進めていました。その際にWebサイトとECシステムの統合/リニューアルを併せて検討しています。

─  基幹系とWebを両方とも全面刷新するとなると作業量はもちろんのこと、投資規模だって膨らむ。経営陣はすんなりと認めてくれたのですか。

市川: すんなりではありませんが、再構築の重要性やシステム投資の必要性は最初から理解してもらえていましたから。

─  基幹系の再構築はパッケージソフトで?

市川: ええ。SAPのERPパッケージです。

─  2006年に新基幹系の青写真が完成して、その後の導入作業は大きな混乱もなく進んで…。

市川: いったん仕切り直しています(笑)。

─  おや、その話をもう少し詳しく聞かせてください(笑)。

市川: 最初は中小企業向けの「SAP Business One」を採用して、これで行けそうだというメドをつけたのです。ところが、当社で扱っている商品アイテム数が4000種類を超えていることもあり、Business Oneではそう遠くないうちに処理し切れなくなると分かってきた。そこでプロジェクトを一時中断し、パッケージをSAP ERPに切り替えて再スタートしました。

─  サラリとおっしゃいますが、一大事ですよ。

市川: 結局、全面稼働までに3年近くかかってしまいました。

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
ザ・プロジェクト一覧へ
関連キーワード

日本能率協会 / CMS / システム統合 / 日立ソリューションズ / アシスト / EC / SAP / SAP Business One

関連記事

トピックス

[Sponsored]

事業部ごとにサイロ化したWebサイトをCMSで統合、会員情報の一元化などで売上高拡大の成果も─日本能率協会マネジメントセンターWebサイトが重要なビジネスチャネルになるのに伴い、その基盤整備に力を注ぐ企業が増えている。中核となるのは、コンテンツの配信や複数Webサイトの統合管理を容易にするCMS(コンテンツ管理システム)だ。事業部ごとにサイロ化したWebサイトをCMSで統合した日本能率協会マネジメントセンターのプロジェクトを紹介する。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

PAGE TOP