[最前線]

M2Mを実現するためのアーキテクチャとオフィス機器管理に適用した具体例

多種多様な機器とデータの統合管理に向けて

2012年2月22日(水)秋山 一人、西村 康孝、古市 実裕(日本IBM)

外部連携のための標準的なインタフェースを持たない機器を、どう接続し統合管理するのか。 M2MやIoT(Internet of things)の実現には、そのためのアーキテクチャやソフトウェアが必要になる。 本稿では、中間処理層であるゲートウェイを介して機器を接続するアーキテクチャを提案する。 ゲートウェイにより様々な機器のインタフェースを抽象化し、統合管理を可能にするアプローチだ。 多様なプリンタや複合機を有する米国の大手ユーザー企業で実施したパイロット運用により、 このアーキテクチャの有効性を検証している。(本誌)
※本記事は日本IBM発行の「PROVISION Fall 2011 No.71」の記事を一部編集して掲載しています。

 あらゆるものが互いに接続されて連携可能な状態になる「Interconnected」─。これは、環境やエネルギーなど地球規模の課題をITの活用で解決するためにIBMが提唱するビジョン「Smarter Planet」における重要なコンセプトである。さまざまな情報が集約、統合されることで新たな知見が得られ、よりスマートな意思決定が可能になる。

 近年、高度化と複雑化が進む多くの機器から得られる情報を有効活用すると共に、適切に機器を制御することによって新たな価値を提供することが期待されている。しかし、現状の機器はIT管理システムと有機的に統合されていない。データ収集や制御は機器ごとに局地的に行われており、統合管理のための課題は多い。

 本稿では、ユーザー企業から統合管理の要望が強いオフィス機器環境に焦点を当て、多数かつ多種多様な機器を管理する上での課題と要件を明確にする。さらに、新たな要件に応える統合機器管理アーキテクチャを提案する。このアーキテクチャは機器の効果的な統合管理を可能にし、環境負荷やコスト削減に加えて、サービス向上のような新たな価値を提供できる。

 以下では、まず統合機器管理の現状の課題と要件を整理する。そのうえで統合機器管理アーキテクチャの概要や、リコーなどと共同で実施したパイロット運用でのアーキテクチャの評価結果と考察を述べる。

機器抽象化や自律制御など統合管理の課題と要件

 最初に、実際に要望を受けた米国の大企業のオフィス環境を想定し、数万台にのぼるPCやプリンタなどのオフィス機器を統合管理する際の課題と要件を「機器の抽象化」「管理プロセス」「機器制御と自律化」の3つの視点でみていく。

1.機器の抽象化

管理対象の機器の数が膨大なことに加え、多種多様な機器を管理する必要がある。異なる複数のメーカーやモデルが混在し、それぞれで使用する通信プロトコルやデータ形式、各機器が送信するデータの粒度が著しく異なる。さらに、ネットワークに常時接続されていない機器も多く、データの収集間隔をそろえるのも一筋縄ではいかない。オフィスにあるPCやプリンタの統合管理には、こうした課題がある。

これらを統合管理する最もよく知られた手法が、管理インタフェースの標準化だ[1]。しかし、既存の機器を含むすべての種類の機器で単一のインタフェースを持つことは現実的ではない。SNMP[2]をはじめ機器管理に用いられる標準プロトコルは存在するが、これはプリンタなど特定の機器の種類に対するもので、多種の機器を統合管理する際の単一インタフェースにはならない。

一方、サービスに対して抽象化階層を提供するアーキテクチャとして「Enter-prise Service Bus(ESB)」があるが、形式や粒度の異なる大量の機器データを直接扱うのは難しい。あらゆる機器を統合管理する目的を果たすには、上述したような機器の多様性を吸収する新しい抽象化の手法が欠かせない。

2.管理プロセスへの統合

IT管理の効率を向上して質の高いサービスを提供するために、さまざまな管理製品がある。しかし、それらはデータセンターやサーバーを対象にした管理機能を提供するのにとどまり、機器を管理するための直接のインタフェースを持たない。そのためユーザー企業は現在、機器管理に独自のプロセスを適用することを余儀なくされている。

また、近年のITシステムはCO2の排出管理や節電規制、情報漏えいなど、法律で規制される側面も出てきている。それだけに、機器においてもITIL[3]のようなベストプラクティスに基づく管理や、ISO14000[4]のような確立されたプロセスに則した管理が求められている。ただし、実践するには既存の管理製品からあらゆる機器を透過的に管理できるようにしなければならない。

3.機器制御と自律化

現在利用できる機器管理製品の多くは、機器から各種情報を収集、集計、可視化して問題を発見できる。だが、問題が見つかった機器に対して効果的な改善策を施せないため、効果的なソリューションになり得ていない。ネットワークに常時接続されていない機器も少なくないため、サーバーからの逐次制御の現実味も乏しい。

これらの課題をクリアするには、「見える化」に終わらず、機器の適切な制御まで可能なアーキテクチャが不可欠である。そして機器自身で自律的に制御できる手法が強く求められる。

機器管理アーキテクチャに設けた4つの大方針

続いて、前述した問題を踏まえて考えた統合機器管理アーキテクチャを紹介する。アーキテクチャの設計においては、「可能な限り多くの種類の機器を管理対象にしながら、最少の作業量で新しい機器に対応する」「多数の機器と大量のデータに対処する」といった要件を満たすために、以下のように大きく4つの方針を設けた。

  • 標準にしたがった機器はそのまま管理対象にし、それ以外は抽象化して標準にしたがう機器と同様に管理できる。
  • 抽象化の処理をプロトコルやデータ形式、データ収集の間隔などで階層化し、階層ごとに(事実上の)標準を設ける。そうすることで管理可能な機器の種類を最大化し、新しい機器に対する固有の実装を最小化する。
  • 上で定めた各階層で共通な処理は汎用化し、構成パラメータやXMLなどによる定義によって、必要な処理を柔軟に実行できるように実装する。
  • 共通の処理はできるだけ下位(機器側)の階層で行い、上位にわたるデータ量および上位階層の処理量を減らす。

この設計方針に基づいて構成したアーキテクチャを示したのが図1である。「インテリジェント・ゲートウェイ(以下、ゲートウェイ)」はアーキテクチャの根幹となるモジュールである。機器を抽象化する階層となって機器および管理製品との通信をつかさどる。「エンドポイント」と「インテリジェント・エージェント(以下、エージェント)」はいずれも機器側に実装する通信モジュール。前者はゲートウェイと通信を行い、後者は管理側で作成されたポリシーに基づいて機器を制御する。機器を自律的に制御するポリシーの管理は「ポリシー管理モジュール」が担う。

図1 アーキテクチャの構成図
図1 アーキテクチャの構成図
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